外車の古いのも面白いぜ

文字数 2,219文字

俺たちは続いて、オープンカーがずらっと並んでるコーナーに来た。

やはりイギリス車が多いぜ。

ねえねえ、なんでここの車みんな緑色なの?
ナショナルカラーさ! これ全部イギリス車だろ、イギリスの色はグリーンなんだ。ブリティッシュグリーンて言うんだ。
へえ~、国に色なんてあるんだ。他の国の色は?
ええと、確かフランスが青でフレンチブルー。イタリアは赤でイタリアンレッドだったかな。
ほおほお、それで日本は?
白、だな。そのむかしF1に最初に参戦した時のホンダも色は白だったぞ。
白…、昔のドラマ見てたらさ、出てくる車みんな白かったのはそのせいか!
ん? それなんか違う気がする。あとで、車屋のおっちゃんに聞いてみよう…

後日聞いた話では、あれは某車メーカーの陰謀で、塗装費用が安い白を普及させ生産コストを下げる目的と、下取り車を簡単に他の色に塗り替えられるメリットで爆発的に白い車が増えたのだという話だった。

なんかえげつない話で、知ってて杏奈に話したら、なんとなく肉体的被害を受けた気もする。

これはスピットファイア、あっちはトライアンフTR3、おおMGもあるぜ。
基本的にみんな小さいのね。外車って大きいイメージあるから、意外だわ。
大きいのはアメリカ車さ。今日はそんなに出品されてないな。同じ時代のサンダーバードとかカマロとか、とにかくでかいし、エンジンもえげつなく大きいんだよな。
そうなんだ、この辺のイギリス車ってどの程度のエンジン載せてるの?
まあ平均すると1200くらいかな。本気で速く走らせるタイプは1600くらい…あああ、あれなんてまさにその代表!

俺は、リトラクタブル式のヘッドライトを備えた一台のオープンカーを指さした。

実は、これは俺には特別の車だった。

やっぱりこいつは特別だぜ!

お、俺君、目の色が変わった…
こ、こいつは、ロータスエラン! あのレーシングカーで有名なロータスが作ったライトウェイトスポーツで、とにかくカッコいいんだ。俺は、本当はこれが欲しかったんだ。
ロータス、聞き覚えある名前だわ。ええと、ずいぶん前にスーパーカーとか作ってた会社?
ああ、まあ、スーパーカーが流行った頃が全盛期だからなあ、そういう印象あるけど、決してそういう会社じゃないんだ。純粋にスポーツカーを作ってたんだ、でも、高級路線シフトして失敗して、会社身売りしちまったんだよな。
ふーん、じゃあ、これそんなに高くないって事?
うん、まあ。国産車の新車よりは高いけど、外車のヒストリックカーとしては特別高い部類には入らないかな。
でも、俺君はこれ手に入れるの諦めたんだ。なんで?
状態のいい車はまず出回らないんだよ日本じゃ、海外から輸入したら輸送費すげえことになるじゃん。それにさ、これ直すのに致命的問題があるんだ。
なに? 部品が揃わないの? ヨタハチ君でも苦労してるもんね。
それもあるけど、何よりこのボディなんだよ…
そう言うと、俺はこっそり展示車のボンネットを撫でて見せた。
ボディ? 何か特別なの?
ああ、これ基本的にFRPなんだよ。だから板金とかできないんだ。ぶつけたら、バキッと割れちまう。
杏奈さんが、大きく頷いた。
そうか、俺君は必ず事故るからこの車あきらめたのね。
違うっての! 断じて違うっての!
いいからいいから、あたしは、少しぶつけたくらいじゃ怒らないから、安心して走っていいのよ
なんだ、そのおふくろみたいなセリフ。いや、なんか女房みたいな?
杏奈さんの顔が急速に赤くなっていった。
や、やだ、何言ってるのよ、この!

ぐふ! なぜ右フックがあ!

そ、それより、あそこの車、すごくカッコいいんだけど。
また何か誤魔化した…、あれはジャガーだね。それも凄く古いタイプだよ。70年位前のじゃないかな。
まじクラシックカーって感じ! すんごい。
タイプSSかな? さすがにこれだけ古いと俺もよくわからねえや。ジャガーは昔から高級車で有名だから、これも別格って感じだなあ。見ろよ椅子とか本革だし、ハンドルはマホガニーだぜ。シフトノブものだ。
うっとりするわあ、お金持ちの為の車って感じよね。ジャガーって猫よね?
杏奈さんがボンネットのオーナメントを指しながら言った。
猫じゃなくて、ネコ科! 野生の獰猛な大型獣だよ。
でも、猫じゃん、これ。
だから大きなくくりでは猫だけど…、そう言えばおっちゃんが前に言ってたな、ジャガーの乗り心地は独特で、猫足って言われてるって。
ほら、やっぱり猫じゃん!

きっと、ここで違うと言い続けたら再度の攻撃が襲ってくる。

俺は沈黙作戦に転じた。

ああ、こういうの憧れるけど、乗ったらキャラ的に自分が負けそうな気がするわ。やっぱ、私はヨタハチ君の助手席がいいわ。しっかり直して早く乗せてね、俺君。
おう、なんか丸く収まった…、頑張って直すぜ! で、今日の本来の目的に行くぞ。
え? なんだっけ、それ?
杏奈さん、ここに誘うときなんて言って誘ったか覚えてない?
うーん? 忘れちゃった、てへ!
もう落とす肩もどこかに行ってしまった気がします。
同じヨタハチのエンスーさんを探して、部品の調達の情報収集するんでしょうが。
あ、そう言えば、そんなこと言ってた気もするわ。じゃあ、ヨタハチ探しましょう!
言われなくても探すってばよ。
態度が気にくわなーい!

というわけで、後頭部に張り手をもらってから、俺たちはヨタハチを探して会場を移動し始めたのであった。

ヨタハチを見つけるまで、体が持ってくれればいいんだけど、とほほ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

杏奈 俺さんのGF以上恋人未満な人

俺 古い車大好き人間

車屋のケンさん ヨタハチを預かってくれる優しい修理屋のオーナー兼名チューナー

エンスーの山さん ヨタハチ乗りの先輩。少し夢見がち?

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色