まずエンジンを降ろそう
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さてガレージに運んで数日後の休みの日、やっと俺様はヨタハチのレストア作業に取り掛かった。
親切なおっちゃんは、この間に細かいチェックをしていてくれた。
君は走らせるのが目的だからね、むしろ純正じゃない方を勧めるよ。寸法的に問題なければより冷却効率の高い他社製品を載せればいい。一番融通が利くのがラジエターだ。特にこの時代のスカスカのエンジンルームではね
そこに杏奈さんが、差し入れのお菓子を持って登場。
二人の間に入って来た。
杏奈は、頷きながら俺とおっちゃんにカップアイスを手渡した。
杏奈さん、ちょっと嬉しそうに頬を赤らめ視線を下に向けた。
鋭い痛みが足の甲に走った。
杏奈のパンプスが、がっしり俺様の右足を踏んでいた。
杏奈さんの顔は、さっきの倍以上赤くなってた。
それから1時間ほどで、ヨタハチの心臓であるエンジンは車体から取り外され、作業台に収まった。
杏奈が目を丸くして言った。
確かに、リッタークラスのエンジンに見慣れると水冷式で800CCのエンジン本体はかなり小さい。そもそも先に補器を取り外してあるからなおさらだ。
これでも限界までボアとスープ両方上がってるんだよ。トヨタは最初この車を700で設計したけど、あまりにアンダーパワーで100CC シリンダー容量増やして馬力を稼いだのさ。おかげで当時としては、かなり俊敏な車になった
おっちゃんはそう言ってにやっと笑った。
まあトップスピードに関しては、その通りだ。だがね、注目すべきはこの車の軽さだ。君たちも知っての通り、車の加速はパワーウェイトレシオで決まる。軽ければ加速は増す、それこそがこの車の真骨頂で、しかもこの短い車体を峠に持ち込んだら、それはもうくるくる自在に曲がって加速して…
なんか気が付くと、おっちゃんが勝手に自分の世界に入っていた。
俺様、ちょっとそれに引いたのだが、ここで意外な反応を見せたのが杏奈さんだった。
そう言うなり杏奈は、俺の襟首をつかんでこう言った。
俺様はもしかして、安奈さんのしもべか何かなのか?
そう疑いたくなった瞬間だった。
この人は、実に扱いが難しいと心底思った俺様だった。