第2話 コールドスリープシナリオライター
文字数 3,463文字
月曜日
「タケシ、起きなさい。朝食が出来たわよ」
俺は、母さんのノックの音で目覚めた。
「判った、今行くよ」
階段を下りていくと、朝食が準備されていた。銀鱈の西京漬けに、卵焼き、白菜の浅漬け、ほうれん草の胡麻和え、しじみの味噌汁。
「どれも美味しいよ。ご飯お替り!」
和服に白い割烹着姿の母は、さすがに年齢相応にふっくらし、小皺も多くなってきたが、息子の俺が言うものなんだが、美熟女だ。
「そうかい。それは良かった」
俺が褒めると、相好を崩して喜んだ。
「タケシ、夕ご飯で食べたいものある?」
「そうだなぁ、煮魚が食べたいな」
「キンメダイか、ナメタカレイか、いいのがあったらそれでいいい?」
「うん。任せるよ」
今夜は、母さんの肩・腰のマッサージをしてあげよう。
◇◇◇
火曜日
「お兄ちゃん、起きて。朝食が出来たわよ」
俺は、妹に掛布団を引っぺがされて目覚めた。
「あと10分!」
「だめよ。学校に遅れちゃう」
俺は、仕方なく起き上がり、階段を下りていくと、朝食が準備されていた。
ベーコンエッグ、シーザーサラダ、ミネストローネ。
「どれも美味しいよ。ミネストローネお替り!それと、コーヒーも」
女子高の制服姿の妹は、健康美がはじけそうな自慢のポニーテール美少女だ。
「もうっ、自分でしなさいよ。しょうがないんだから。おにいちゃん、夕ご飯で食べたいものある?」
ほっぺたを膨らませながらも、お替りとコヒーを持ってきてくれる。
「そうだな。エビマカロニグラタンがいいな」
「じゃあ、ブラックタイガーの大きめのエビにするわ」
「あっ、アジフライも食べたいな」
「もう、これ以上おデブさんになったら、だめよ」
妹は、そう言って俺のほっぺたをちょっとつねった。
今夜は、夕食後に妹の好きな対戦ゲームにつきあってやるか。
◇◇◇
水曜日
「あなた、起きて。朝食が出来たわよ」
俺は、目覚めているが寝たふりをする。すると、妻は俺の布団に潜り込んで、体を密着させると、俺の唇を自らの唇でふさぎ、俺の鼻を指でつまむ。俺は、それでも寝たふりを続けて、30秒後ギブアップする。
「はぁ、はぁ。キミは夫を窒息死させるつもりか?」
「はい。殺人未遂で自首します」
妻はベッドの上で正座し、手錠をかけてと両手を差し出す。
「それでは、判決を言い渡します。主文、被告を、〇×△刑に処する。尚、刑の執行は本日夜9時とする」
「キャー、そっそれだけは、堪忍して!」
俺は、後ろ手にして妻にオモチャの手錠をかけ、ベッドに転がした。妻は怯えた表情をしながらも、夜のプレイを思い描いている様子で、顔が上気している。俺は寝室に妻を残して、階段を下りていくと、朝食が準備されていた。
茄子とミョウガの味噌汁、カブの漬物、おにぎりが辛塩サケと半焼きたらこ、おかかの3個。
そして、デザートは妻の手づくりの抹茶アイス。
「どれも美味しいけど、この抹茶アイスはたまらん美味しさだ。キミの分も食べちゃうぞ」
「いやん、後生だから手錠外して」
妻は手錠を嵌めたまま、階段をなんとか降りてきた。
「ハハハ、手錠を嵌めたままじゃ、なんにもできないな。昼食はピザ、夕食は特上寿司を頼んどいてやるよ」
俺は夜のプレイで妻を悦ばすのに何を使うか、スマホで検索を始めた。
◇◇◇◇◇
シナリオライターから提示された3種類の原稿を、映像制作ディレクターはその場ですぐに読み終えた。
「なるほど、月曜日、火曜日は常識的ですが、水曜日が急に先生ご自身の変態的な性癖がはいり、なかなかいいですね!」
「それがキミからの要望だったからね。木曜日は愛人登場なんでもっと過激にするつもり。残りの金曜日はお姉さん、土曜日は職場のドS上司、日曜日は初恋の女性にするかな」
コールドスリープ専門のシナリオライターが基本となるシナリオを書くと、あとはAIが個人別に設定を、例えば主人公が女性であれば月曜日の登場人物を『母』から『父』に調整して、映像を完成させるのだ。
コールドスリープ状態が長期間になる場合、移住先で隣の銀河の惑星で目覚めで活動する時に、脳のリハビリが体以上に相当長い期間がかかることが判った。
その後の研究で、1日に1時間程度の映像を対象者の脳内で見せることで、リハビリの期間が劇的に短縮されるとの結果が報告された。その映像は、各移住対象者が主役での日常生活を描いたものが、効果的とのことで、映像のシナリオを新規に書くことが求められた。
「先生の作品は、だんだん良くなっています。今年こそは、コールドスリープシナリオ大賞に間違いなしですよ」
「お世辞半分だろうが、そう言ってくれることは、励みになっているよ。賞は取れなくても、私の書いたシナリオが、人類の移住プロジェクトに役に立って、その結果が認められ、私も『ノアの箱舟』乗船の権利をもらったんだ。キミの推薦でそれまで官能小説家だったのを転向して、本当によかった。感謝しているよ」
◇◇◇◇◇
2XXX年に世界中が危惧していた、核戦争が本当に起きてしまった。1ケ月後、地球上の生物は人間から動植物まで100分の1になった。ようやく1つになった世界政府は、もはや地球の核汚染の除去は不可能と判断し、人類の未来の為に最新の宇宙船でも100年かかる地球に類似した惑星に、移住するプロジェクトを始めた。
宇宙船には、世界政府から選抜された、エリート達がコールドスリープカプセル内で生命を維持されている。約100年後に移住先の惑星で覚醒し、新世界を作るメンバーだ。
彼らが乗り込む宇宙船は、自動操縦だが不測の事態に備えて、数名のクルーが乗船した。なにしろ到着が100年後なので、20歳で乗船した現在のクルーが70歳定年で引退した場合、後任のクルー1名を覚醒させ、交代して後半の50年を引き継いで、移住先の惑星到着までその任務につく。よって、現在のクルーは引退後はアンドロイドの配偶者に看取られて、宇宙船内で死を迎えることになる。
◇◇◇◇◇
コールドスリープ室の点検が毎日の仕事の、ある男性クルーは、地球を出発して3年。この単調な業務に飽き飽きしていた。
(俺の一生は、こいつらエリートの監視だけで終わるんだ。くっそー)
男は、酔った勢いで上司に暴行し大怪我を負わせ、服役中であったが、クルーに志願すれば、即釈放となり破格の報酬を受け取れると提示され、その場で契約してしまった。これまで苦労をかけた両親にまとまったお金を渡して、喜んでもらえると思ったが、宇宙船が離陸したら、もう2度と会えないことに考えが及ばなかった男は、両親に加えて、ともに刑務所の出所を待っていた恋人にも泣かれてしまった。
なんと軽率な契約をしたんだろうと、悔やんでも悔やみきれない気持ちで、恋人と最後の夜を過ごした。濃密な行為は夜明けまで営まれ、恋人は最後に優しい言葉で送り出してくれた。
「こうして、触れ合うのは今日で最後だけれど、これからもずっと身も心もそばにいるから、さよならは言わないよ」
今日も、男はコールドスリープ室の点検と称する、只の散歩で時間つぶしをしていた。機器類の点検は、それなりにやっているが、実際に眠りについている乗客全員を巡回で1週間に1回は目視で異常がないか確認する業務は、カバーの脱着がやっかいなので、1日に1人だけ見て記録にはルールどうりに実施したとの虚偽入力していた。
この点検で、しゃくにさわるのが、乗客が1日1本1時間の映像を観ている時だ。ほとんどの人が、ニヤニヤしている。どんな映像を観ているのか、内密に調べてモニターで見たところ、これがくだらないマザコン、シスコン、ソフトSM映像で、呆れた。
さらに調べると、この映像のシナリオライターがちょうどこの宇宙船に乗船していることが判った。
(こんなくだらん映像のシナリオを書いた奴がエリート扱いになるのか)
男は、どうしても腹の虫が収まらなかった。
そこで眠れるシナリオライターが観る映像を、ホラーおたくの自分が一番恐ろしいと戦慄した、ホラー映像に差し替えた。
(今日の上映時間が楽しみだ。フフフ)
上映時間になり、男はシナリオライターの表情が恐怖で歪むのを見物する為に、金属製のカバーを外した。
そして、驚愕する。なんと、シナリオライターは恋人の男性なのだ。カレは、人一倍怖がりなので、これから映されるホラー映像に耐えられないであろう。
もう止められない。男は、愛する恋人の安らかな表情が、崩れていく様子を、呆然と見ているしかなかった。
おしまい
「タケシ、起きなさい。朝食が出来たわよ」
俺は、母さんのノックの音で目覚めた。
「判った、今行くよ」
階段を下りていくと、朝食が準備されていた。銀鱈の西京漬けに、卵焼き、白菜の浅漬け、ほうれん草の胡麻和え、しじみの味噌汁。
「どれも美味しいよ。ご飯お替り!」
和服に白い割烹着姿の母は、さすがに年齢相応にふっくらし、小皺も多くなってきたが、息子の俺が言うものなんだが、美熟女だ。
「そうかい。それは良かった」
俺が褒めると、相好を崩して喜んだ。
「タケシ、夕ご飯で食べたいものある?」
「そうだなぁ、煮魚が食べたいな」
「キンメダイか、ナメタカレイか、いいのがあったらそれでいいい?」
「うん。任せるよ」
今夜は、母さんの肩・腰のマッサージをしてあげよう。
◇◇◇
火曜日
「お兄ちゃん、起きて。朝食が出来たわよ」
俺は、妹に掛布団を引っぺがされて目覚めた。
「あと10分!」
「だめよ。学校に遅れちゃう」
俺は、仕方なく起き上がり、階段を下りていくと、朝食が準備されていた。
ベーコンエッグ、シーザーサラダ、ミネストローネ。
「どれも美味しいよ。ミネストローネお替り!それと、コーヒーも」
女子高の制服姿の妹は、健康美がはじけそうな自慢のポニーテール美少女だ。
「もうっ、自分でしなさいよ。しょうがないんだから。おにいちゃん、夕ご飯で食べたいものある?」
ほっぺたを膨らませながらも、お替りとコヒーを持ってきてくれる。
「そうだな。エビマカロニグラタンがいいな」
「じゃあ、ブラックタイガーの大きめのエビにするわ」
「あっ、アジフライも食べたいな」
「もう、これ以上おデブさんになったら、だめよ」
妹は、そう言って俺のほっぺたをちょっとつねった。
今夜は、夕食後に妹の好きな対戦ゲームにつきあってやるか。
◇◇◇
水曜日
「あなた、起きて。朝食が出来たわよ」
俺は、目覚めているが寝たふりをする。すると、妻は俺の布団に潜り込んで、体を密着させると、俺の唇を自らの唇でふさぎ、俺の鼻を指でつまむ。俺は、それでも寝たふりを続けて、30秒後ギブアップする。
「はぁ、はぁ。キミは夫を窒息死させるつもりか?」
「はい。殺人未遂で自首します」
妻はベッドの上で正座し、手錠をかけてと両手を差し出す。
「それでは、判決を言い渡します。主文、被告を、〇×△刑に処する。尚、刑の執行は本日夜9時とする」
「キャー、そっそれだけは、堪忍して!」
俺は、後ろ手にして妻にオモチャの手錠をかけ、ベッドに転がした。妻は怯えた表情をしながらも、夜のプレイを思い描いている様子で、顔が上気している。俺は寝室に妻を残して、階段を下りていくと、朝食が準備されていた。
茄子とミョウガの味噌汁、カブの漬物、おにぎりが辛塩サケと半焼きたらこ、おかかの3個。
そして、デザートは妻の手づくりの抹茶アイス。
「どれも美味しいけど、この抹茶アイスはたまらん美味しさだ。キミの分も食べちゃうぞ」
「いやん、後生だから手錠外して」
妻は手錠を嵌めたまま、階段をなんとか降りてきた。
「ハハハ、手錠を嵌めたままじゃ、なんにもできないな。昼食はピザ、夕食は特上寿司を頼んどいてやるよ」
俺は夜のプレイで妻を悦ばすのに何を使うか、スマホで検索を始めた。
◇◇◇◇◇
シナリオライターから提示された3種類の原稿を、映像制作ディレクターはその場ですぐに読み終えた。
「なるほど、月曜日、火曜日は常識的ですが、水曜日が急に先生ご自身の変態的な性癖がはいり、なかなかいいですね!」
「それがキミからの要望だったからね。木曜日は愛人登場なんでもっと過激にするつもり。残りの金曜日はお姉さん、土曜日は職場のドS上司、日曜日は初恋の女性にするかな」
コールドスリープ専門のシナリオライターが基本となるシナリオを書くと、あとはAIが個人別に設定を、例えば主人公が女性であれば月曜日の登場人物を『母』から『父』に調整して、映像を完成させるのだ。
コールドスリープ状態が長期間になる場合、移住先で隣の銀河の惑星で目覚めで活動する時に、脳のリハビリが体以上に相当長い期間がかかることが判った。
その後の研究で、1日に1時間程度の映像を対象者の脳内で見せることで、リハビリの期間が劇的に短縮されるとの結果が報告された。その映像は、各移住対象者が主役での日常生活を描いたものが、効果的とのことで、映像のシナリオを新規に書くことが求められた。
「先生の作品は、だんだん良くなっています。今年こそは、コールドスリープシナリオ大賞に間違いなしですよ」
「お世辞半分だろうが、そう言ってくれることは、励みになっているよ。賞は取れなくても、私の書いたシナリオが、人類の移住プロジェクトに役に立って、その結果が認められ、私も『ノアの箱舟』乗船の権利をもらったんだ。キミの推薦でそれまで官能小説家だったのを転向して、本当によかった。感謝しているよ」
◇◇◇◇◇
2XXX年に世界中が危惧していた、核戦争が本当に起きてしまった。1ケ月後、地球上の生物は人間から動植物まで100分の1になった。ようやく1つになった世界政府は、もはや地球の核汚染の除去は不可能と判断し、人類の未来の為に最新の宇宙船でも100年かかる地球に類似した惑星に、移住するプロジェクトを始めた。
宇宙船には、世界政府から選抜された、エリート達がコールドスリープカプセル内で生命を維持されている。約100年後に移住先の惑星で覚醒し、新世界を作るメンバーだ。
彼らが乗り込む宇宙船は、自動操縦だが不測の事態に備えて、数名のクルーが乗船した。なにしろ到着が100年後なので、20歳で乗船した現在のクルーが70歳定年で引退した場合、後任のクルー1名を覚醒させ、交代して後半の50年を引き継いで、移住先の惑星到着までその任務につく。よって、現在のクルーは引退後はアンドロイドの配偶者に看取られて、宇宙船内で死を迎えることになる。
◇◇◇◇◇
コールドスリープ室の点検が毎日の仕事の、ある男性クルーは、地球を出発して3年。この単調な業務に飽き飽きしていた。
(俺の一生は、こいつらエリートの監視だけで終わるんだ。くっそー)
男は、酔った勢いで上司に暴行し大怪我を負わせ、服役中であったが、クルーに志願すれば、即釈放となり破格の報酬を受け取れると提示され、その場で契約してしまった。これまで苦労をかけた両親にまとまったお金を渡して、喜んでもらえると思ったが、宇宙船が離陸したら、もう2度と会えないことに考えが及ばなかった男は、両親に加えて、ともに刑務所の出所を待っていた恋人にも泣かれてしまった。
なんと軽率な契約をしたんだろうと、悔やんでも悔やみきれない気持ちで、恋人と最後の夜を過ごした。濃密な行為は夜明けまで営まれ、恋人は最後に優しい言葉で送り出してくれた。
「こうして、触れ合うのは今日で最後だけれど、これからもずっと身も心もそばにいるから、さよならは言わないよ」
今日も、男はコールドスリープ室の点検と称する、只の散歩で時間つぶしをしていた。機器類の点検は、それなりにやっているが、実際に眠りについている乗客全員を巡回で1週間に1回は目視で異常がないか確認する業務は、カバーの脱着がやっかいなので、1日に1人だけ見て記録にはルールどうりに実施したとの虚偽入力していた。
この点検で、しゃくにさわるのが、乗客が1日1本1時間の映像を観ている時だ。ほとんどの人が、ニヤニヤしている。どんな映像を観ているのか、内密に調べてモニターで見たところ、これがくだらないマザコン、シスコン、ソフトSM映像で、呆れた。
さらに調べると、この映像のシナリオライターがちょうどこの宇宙船に乗船していることが判った。
(こんなくだらん映像のシナリオを書いた奴がエリート扱いになるのか)
男は、どうしても腹の虫が収まらなかった。
そこで眠れるシナリオライターが観る映像を、ホラーおたくの自分が一番恐ろしいと戦慄した、ホラー映像に差し替えた。
(今日の上映時間が楽しみだ。フフフ)
上映時間になり、男はシナリオライターの表情が恐怖で歪むのを見物する為に、金属製のカバーを外した。
そして、驚愕する。なんと、シナリオライターは恋人の男性なのだ。カレは、人一倍怖がりなので、これから映されるホラー映像に耐えられないであろう。
もう止められない。男は、愛する恋人の安らかな表情が、崩れていく様子を、呆然と見ているしかなかった。
おしまい