腹が膨らまねばうつつとて夢と同等である・五

文字数 2,845文字

「あんたが誰の指示で来たかが知りたかったんだよ」

「もうちょいシンプルぅーに聞きん出んしてよぉ」

「ふぇっふぇっ、朝一番に駆け付けてくれたサービスだよぉ。あんたの性格上シンプルじゃ物足りないだろう?」

「足りますって!」

 こんにちは、るるちゃんの保護者様方を宥めていたらなんでか椅子に座らされなんでか膝にまつごろうを乗せられた、みんなのおにぃちゃんの“ことほぎ”です。だからね、俺のことおにぃちゃんって呼んで良いんだよるるちゃ嘘です嘘ですごめんなさい保護者様方落ち着いてまつごろう居ますから武器は仕舞ってんよん!?
 ……ふぅ、もぅ隙もそっ気も無いんだんからぁ。
 てな訳で現在きーちゃんの尋問並みの質問タイムとなっております。らいあ家の番犬、まつごろうは俺の膝の上からはみ出て仰向けに寝転んでます。寝転ぶって言えるかな?
 膝の上には辛うじて胴体だけ、頭と脚は地面に着きそうな程脱力。ほぼ半円を描いている状態。
 俺の両手の支えがなければ確実に落ちる。
 いつもらしいんだけんどんこの子なんでこんなにリラックスしてるの?猫のひめめなんか俺が視界に入った途端猛威嚇だったよ?こけーここなんて両翼広げて嘴突き付けて戦闘態勢だよ?俺に懐いてくれてんのんかな?だとしたら嬉し。

「ふぇっふぇっ、乗り物だと思ってるんだろうねぇ」

 ……きーちゃん、俺泣くよ?あれ?なんかデジャブ。

「しっかしさぁ、なんできーちゃんがそんなこと聞くんのんさぁ」

「興味あるのがあたししかいないんだよ」

「成る程、だからみんな昼飯の下拵えしながら聞いてるのんねん」

「ふぇっふぇっ、聞いてるかも怪しいがねぇ」

 そう言って目線を右に向けるきーちゃん。
 その先ではらいあ達が和気あいあいとクッキングタイムしてます。
 地区長達来るから今日は止めとくって、さっき言ったよね、らいあ?なんで作ってんの?え?昼飯としては作っていない?夢に来たうしおに作っている?なるほど?なのか?

「まさちゃん、手出しちゃ駄目るん。げてものは造らない予定るん。うしおへのご飯るん。うしおだけならいいけど、とーしゅとかいう人も食べるならまともなものが要るん」

「ゲテモノ?ハッハッハッ! るるは冗談もかわいいな!」

「違うるん。真剣に全力で言ってるん。らいあ、まさちゃん止めてるん」

「まさ、私の袖を引き上げる紐を結び直してくれないか。あと布巾を数枚持ってきてほしい」

「ああ! もちろんだ!」

「ら、ら、らいあさん、大根はこの分厚さで良いですか?」

「ああ、良い。上手く切れている。てんは米糀の量をあと一匙分増やすとより旨くなるぞ」

「はいなのじゃー。あぱははぱっ」

「ねぇ、たてこう、それ取って」

「ああ、ほら」

「ねぇ、ぼくの手元に何があるか知ってる?油揚げと酢飯だよ?何故泡立て器が必要と思ったの?」

「おや?そうだったか」

「うん、わざとだね。よし、たてこうのにはわさびたくさん」

「すまん。つい。楽しくて」

「まったく。まぁ、ご機嫌なのはいいことだけどね」

 何あの羨ましい空間!

「ちょー楽しそうなんですんけんどぉー。俺もぉまざりたいんですんけんどぉー」

「無理じゃろう。お前さんは今のところ氷と同じ役割になるだろうよぉ」

「きーちゃんの抉り方がエグくてエグい」

「はてなぁ。んで、あんたにそれ持ってけって指示出したのはあっちの地区長どもって事だね」

「俺抵抗したんだんよ」

 上目遣いで首を傾げてアピールしておく。かわいくないとは思うけど、きーちゃん笑って。あのね、眉間に皺が出るときーちゃんまるで……うん、言わないし思わないようにしよう。

「ふぇっふぇっ、そりゃあかわいくしたんだろうねぇ」

「いじめないでよぉ、きーちゃん」

 本気でごめんなさい。自分の意思じゃなんいんです。なんて言っても通らないことは分かっている。せめて非は“ことほぎ”だけに。なんてのも都合のよいことだが。

「こりゃあ、悪かったねぇ。あたしとしたことが、気が立ってるねぇ」

 俺がアピールした効果があったらしい。きーちゃんは眉間の皺をもみもみ人差し指で解した。

「何?キライな人でもいんのん?」

「そりゃあこんだけ生きりゃあいるさ。敵も作っちまうもんさ。誰とは言わんが」

「あっちの地区長らの中に居る、ってことかぁ。あー恐い。“ことほぎ”巻き込まれてるぅ」

 体を自分で抱き締めて震えるフリをする。半分冗談半分本気だ。きーちゃん対あっちの地区長らなんて冷や汗と鳥肌しか立たんわん。あっちの地区長らはなんて人を敵に回してるんだん。“ことほぎ”があっちの地区長らと仲良くなくてよかった。

「申し訳ないがね、逃げ道を作れる力はあたしにゃないよ」

 何言ってんのんこの人。らいあを含むらいあの周りの人達って自己評価低過ぎないかね?

「えーっと、冗談じゃないんだんよね?うん、りょーかいしてるってぇ。これでも“ことほぎ”は下っ端だけっどぉ地区長だからぁ。きーちゃんは村民だしさ、自分の事守ってくれればなんとかなるんもんよ」

「ふぇっふぇっ、頼もしいねぇ。んで?どの弱味握られたんだい?」

「きーちゃん……自分の事守ってってばぁ」

「ふぇっふぇっ、守るさぁ。これも一環だよぉ。だろぉ?らいあ」

「済まん。一筋も聞いていない」

 こちらを見もしないらいあ。正直過ぎる。

「ふぇっふぇっ、だろうよぉ」

 きーちゃんは笑ってる。あれだね、きーちゃんってらいあの事、孫だと思ってそうだね。仲良いなぁ。

「んでホントどぉすんのん?道の整備中なとこ今多いから移動に時間かかってて地区長ら来んの遅くなってるけんどんさー。確実に誰かは今日来るぞ」

「あぱは、てんのとこからも来ますからご安心をなのじゃー」

「待って待って! 学塔街からも来んのん!?」

 俺は椅子を転ばしながら立ち上がった。
 勿論まつごろうは抱きかかえているぜ。びくりともしないまつごろうスゴい子だね。

「ん?もちろん来ますじゃよ?」

 そんな無邪気な瞳でなんてことを言ってんの!?

「ご安心できなーい!」

 俺は文字通り頭を抱えたかったけどまつごろうを抱き締めるだけになった。
 無理無理! 地区長らとらいあ達と学塔街との三つ巴!?無理! その中で俺は更にきーちゃんとあっちの地区長らと挟まれて!?無理!

「らいあちゃま、なしてあの御方は悶えておられるのじゃろう?」

「なして、とは、何故、と言う意味かな?」

「うん」

「ふむ、ことほぎは悩むが特技やもしれん」

「なるほど」

「いんえんいえ! 違うからね! 出来れば何時でも何処までも悩まず生きていきたいのが“ことほぎ”ですんかんら!」

「てん、学塔街からいらっしゃるのは真か」

「はい、てんのおかあちゃまがいらっしゃるのじゃ」

 あれ、俺無視された?あ、きーちゃん。煎餅ありがとう。え?椅子を直してやったから座んな?うん、そうする。

「あ、てんのおかあちゃまがいらっしゃるなら護衛も二~三隊来るかな?らいあちゃま、この村に百人くらい来てもよきかのぉ?」

 俺は再び椅子を吹っ飛ばしながら立ち上がった。

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