第6話 新しい顔 

文字数 1,227文字

 やがて美子が一生懸命に身体を張って働いて貯めた大金を持って、慎介は顔の整形手術の為に一人で上京した。

 最近余り体調が優れない美子を置いて、その金を持って慎介は素早くその町を出ていった、その時の慎介の目は意気揚々としていて輝いていた。顔の手術をすれば、この冴えない見栄えのしない顔とさよならをすることが出来る。
 これ程の高揚感があるのだろうか。

 用意周到な彼は、自分だけで綿密なる計画をしていた。電話で聞き、手術に対するその効果や後遺症、効果が現れるまでの日数、そしてその保証と費用等を徹底的に研究していた。手元のパンフレット以外の美容整形の病院も調べ上げていた。
  
 そして総合的にこれだという病院をとうとう突き止めたのである。しかし、その病院名を美子に告げることはしなかった。 当時の彼は携帯電話を持ち合わせていなかったので、何度かは確認の為に上京し、その調査には数ヶ月を要したが、皮肉にもその間だけ彼の愛人でもある美子の溜めた金は膨らんでいった。

 そして、或る日を境にして慎介は美子が稼いだ金を持ってその家を出ていった。しかし、その日を最後にして彼が美子の住む安アパートへ二度とは戻ることはなかった。

 彼が美子に告げた整形外科は、実際に彼が手術を受けた所ではなく、場所も違っていた。彼は計画的だったが、それは美子に追跡をされない用心深さでもある。慎介は美子が体を張って稼いだ金を持って何処かへ姿を消し、彼を愛し身体を張って彼を支援した美子を裏切ったのである。そして、それ以降、慎介は電話はおろか葉書さえ出さなかった。

 だが、彼が受けた手術は見事に成功した。
 たしかに手術に関しては思ったよりも費用は掛かった。下顎骨セットバックと称する輪郭形成の頬、エラ、顎などの骨を切り、且つ、削った。

 これは顔のラインを綺麗に変貌でき最も魅力的ではあるが、周囲には整形したことが一番分かりにくい手術という特徴がある。その他には鼻の先が丸いダンゴ鼻を、余分な軟骨や皮下脂肪を鼻の内側から取り除いて跡も目立たたくなり、いつも眠そうな目は生き生きとした目に生まれ変わった。それらは全体的にバランスを考慮して行われたので、殆ど不自然ではない。

 それには数回の手術とそれに見合った費用も要した。
 皮膚の腫れが引くまでは根気よく待たねばならないし、手術による後遺症などを考慮し慎重に行われた。

 慎介は医師の指示を忠実に守った。担当の医師は、慎介のように男でこれまでに拘る人物に合ったことがないと呆れたほどである。その成果は見事だった。

 慎介の顔は別人に生まれ変わったのだ。
 強いて変化がない所と言えばその「声」だけである。顔を変えても、その声は余程声帯でも手術をしなければ変えることは難しい。

 慎介はそこまで変えることはしなかったし、思いつかなかった。
 それをアキレス腱というかどうかは、本人とその人物と関係した人のみぞ知る。
 いずれにしても彼は美しい顔に生まれ変わった。


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