第12話 真実
文字数 1,238文字
ここで新川美子について少し触れておこう。彼女は紛れもなく、かって今は慎吾となった昔の慎介を愛していた美子だった。あの頃、慎吾は美子が身体を張って稼いだ金を持って、顔の整形手術の為に一緒に住んでいた街を一人で出ていった。
しかし、後で問い合わせても、慎介が言い残していった病院には彼のリストはなかった。美子はそれで直ぐに察した。慎介は自分の元から巣立っていったことを……。
その後、慎介からは何の音沙汰も無い。美子は、その頃からそんな慎介を薄々感じていた。恐らくはこうなることを……。美子は好きだった彼の為に献身的に身と心を捧げたのである。それを感じ、知っていながら。
美子には分かっていた。人にそのことを言えば、自分のことをお人好しと言うだろう。
馬鹿な女だと言うだろう。何とその男は卑怯で、最低な男だと言うだろう。
それでも良い……彼と共に過ごしたその時間こそが大切だったのだ。
どんな時でも、美子は慎介を許した。まるで放蕩息子を庇う優しい母のように、美子は慎介を許したのだ。
今でも慎介を恨んではいない。何故か……。それは美子が心から慎介を愛していたからである。一緒に小さな芝居小屋で励んだ稽古。
楽しかった同棲生活、それは美子にとっては夢のような日々だった。だから、共に過ごした慎介の願いを叶えてやりたかった。
舞台や劇などを二人で熱く語った時は、本当に幸せだった。慎介が顔を変えることで、彼自身が生まれ変わるのならそれで良いと思った。
その為に、自分の身体を男に売ってさえも、金を用立てたのは心から慎介を愛していたからであり、それ以外に理由が見当たらない。
あの時は、慎介の為にはそうするしかなかったのだ。知らない男に抱かれていても、慎介だと思い、淫らな行為をしていても彼の為とおもえばこそ耐えられた。
貯まった金を慎介に渡した時の彼の嬉しそうな顔が今でも忘れられない。
それから数年後に、彼が顔を変えてテレビに出ていたのを知り、美子は驚いた。顔は以前とは、まるで変わっていたが、あの特徴のある声と彼の仕草で直ぐに慎吾が慎介だと分かった。美子はそれからの慎吾が、少しずつでも人気が出てきたのが嬉しかった。
一度だけ美子は慎吾が写真集を出したとき、そのサイン会を見に行ったことがあった。
それを何度と無く躊躇したのだが、その誘惑には勝てなかった。
しかし、彼の目の前に直接出ることはしなかった、遠くから見ていただけである。彼が希望したとおりの顔を見たとき、美子は嬉しかった。これで慎介は思い残すことなく、自分の道を進むだろう。その道筋を自分が付けたのだと思うと嬉しかった。
恐らくは自分を見れば慎介は動揺するだろう。ただ、美子はどんな慎介になったのか知りたかっただけである。 案の定、彼は何かを気にしていた、それは自分だけが知っていた。
それ以来、美子は二度と彼の前には現れないと心に誓ったはずだった。しかし、あの募集を見たとき、美子はその気持ちを変えた。
しかし、後で問い合わせても、慎介が言い残していった病院には彼のリストはなかった。美子はそれで直ぐに察した。慎介は自分の元から巣立っていったことを……。
その後、慎介からは何の音沙汰も無い。美子は、その頃からそんな慎介を薄々感じていた。恐らくはこうなることを……。美子は好きだった彼の為に献身的に身と心を捧げたのである。それを感じ、知っていながら。
美子には分かっていた。人にそのことを言えば、自分のことをお人好しと言うだろう。
馬鹿な女だと言うだろう。何とその男は卑怯で、最低な男だと言うだろう。
それでも良い……彼と共に過ごしたその時間こそが大切だったのだ。
どんな時でも、美子は慎介を許した。まるで放蕩息子を庇う優しい母のように、美子は慎介を許したのだ。
今でも慎介を恨んではいない。何故か……。それは美子が心から慎介を愛していたからである。一緒に小さな芝居小屋で励んだ稽古。
楽しかった同棲生活、それは美子にとっては夢のような日々だった。だから、共に過ごした慎介の願いを叶えてやりたかった。
舞台や劇などを二人で熱く語った時は、本当に幸せだった。慎介が顔を変えることで、彼自身が生まれ変わるのならそれで良いと思った。
その為に、自分の身体を男に売ってさえも、金を用立てたのは心から慎介を愛していたからであり、それ以外に理由が見当たらない。
あの時は、慎介の為にはそうするしかなかったのだ。知らない男に抱かれていても、慎介だと思い、淫らな行為をしていても彼の為とおもえばこそ耐えられた。
貯まった金を慎介に渡した時の彼の嬉しそうな顔が今でも忘れられない。
それから数年後に、彼が顔を変えてテレビに出ていたのを知り、美子は驚いた。顔は以前とは、まるで変わっていたが、あの特徴のある声と彼の仕草で直ぐに慎吾が慎介だと分かった。美子はそれからの慎吾が、少しずつでも人気が出てきたのが嬉しかった。
一度だけ美子は慎吾が写真集を出したとき、そのサイン会を見に行ったことがあった。
それを何度と無く躊躇したのだが、その誘惑には勝てなかった。
しかし、彼の目の前に直接出ることはしなかった、遠くから見ていただけである。彼が希望したとおりの顔を見たとき、美子は嬉しかった。これで慎介は思い残すことなく、自分の道を進むだろう。その道筋を自分が付けたのだと思うと嬉しかった。
恐らくは自分を見れば慎介は動揺するだろう。ただ、美子はどんな慎介になったのか知りたかっただけである。 案の定、彼は何かを気にしていた、それは自分だけが知っていた。
それ以来、美子は二度と彼の前には現れないと心に誓ったはずだった。しかし、あの募集を見たとき、美子はその気持ちを変えた。