別れ

文字数 3,477文字

旅行会社で務めるようになって、1年以上経ち、だいぶカウンター業務にも慣れ、 仕事帰りは 先輩たちと、お茶したり、居酒屋にも行くような余裕すら出てきた。
恋愛は 何人か素敵だなと思う人はいたが、のめり込まずに 適当にしていた





そしてそれでもまだ、、
時々あの人の顔が脳によぎると


まだ私の頭の中に現れるのね。
彼女がいるのに言わなかったこと。
もうあなたを責めたりしてないし、あなたがあの人と幸せになっているなら、私も嬉しいよ。 あの時、電話で、私を呼んでたのに、応えなくて ごめんね。私なんかと一緒にいてくれて、たくさんの楽しい思い出も、本当にありがとう。あなたの幸せを願ってる。ずっとずっとあなたは私の大事な人だよ。


テレパシーのように、私の気持ちが風に乗って届くように、そして少しずつ 想いを薄れさせていくために、頭によぎる度に 心の中で ちいさく つぶやいていた








そんなある日、一通の手紙が届いた








亜希ちゃんへ


亜希ちゃん 元気にしてますか?
俺は亜希ちゃんが急にいなくなったあの頃から
ずっと忘れられず
カナダで過ごした日々も 日本に帰ってきてから、静岡に遊びに来てくれてたことも
俺にとって大事な思い出で
亜希ちゃんが一番大事な存在だったんだって もう遅いかもしれないけれど、思っています。
だけど電話しても繋がらないし、繋がっても喋ってくれなかった。俺、亜希ちゃんのこと、忘れようとして、大学の研究に明け暮れたんだ。
でもやっぱり無理だった。亜希ちゃんのこと忘れることできなかった。

俺は言ってなかったことがあった。俺に彼女がいると言ったら、亜希ちゃんが俺から離れていってしまうのではないかと不安もあった。でもそんなの言い訳だよね。今は、なんで俺は彼女がいることを 亜希ちゃんに言わなかったんだろうと後悔しています。言わなかったこと、謝るよ。すみませんでした。隠し事や嘘はない方がいい。
玲とは 別れました。本当です。俺の性格は自分で言うのも変だけど、内気で繊細で難しい。亜希ちゃんがそんな俺の手を引いて、知らない世界へ連れ出してくれたことが、嬉しかった。


亜希。

これからも、君と一緒に色々な世界を見ていきたい。それが例え無駄な世界であっても、一緒にその世界で溺れてみたい。利口に 効率よく いつもテンポよくなんて 人生は歩んでは行けないけど、転んでも 挫けても 君がそばにいてくれたら、俺の人生は全て意味のあるものに変わる気がしてる。だからもう一度俺にチャンスをください。3月10日 昼12時に、名古屋駅の改札で待ってます 和幸




読み終えると亜希は、
胸が苦しくなり 涙が止まらなかった









──────

玲「和幸も病院で勤務が始まったら、すぐにでも働きやすいように この患者リストに 患者の症状や現在の治療方法などが書かれているから、目を通しておいて欲しいみたい。和幸なら、すぐ即戦力になることは分かってるんだけれどね。」



和幸「玲..」




玲「最近は入院患者の人数が、ベットの定員を超えてる状態で、病棟の増設しようかという話が出てるみたい」




和幸「玲..」




玲「コロナがに分類されてからは、他の病気の人達を優先に診れるようになってきたって中川先生が昨日ね お話されてて..」





和幸「玲.. 俺と別れて欲しい」







玲「ここ数年で 手術が延期になった患者の割合が.. ん? なんて?...」




和幸「俺達 別れよう」






玲「和幸さん なんの冗談? そのジョーク 流行ってるの?」



和幸「別れて欲しい」




玲「どうしたの? 急に」


和幸「俺、好きな人がいる」





玲「、、、、、亜希さんね」



和幸「亜希のこと 知ってるんだね?」



玲「ええ。会って話したこともあるわ。もう1年くらい前だから、忘れちゃったけど、可愛らしいけれど、申し訳ないけれど、察しの悪い感じの方だったから、私と和幸の邪魔をしないでと その時上手に伝えたわ」




和幸「勝手に」




玲「和幸さん、あなた 私と別れたら お父様の病院で働けなくなるわよ 将来の医院長のお話もなくなる 私だってあなたの事 愛しているし 何が不足なの? 私たち婚約もしてる この段階に来て その発言は ナンセンスよ。」




和幸「ごめん」




玲「謝れば、済む問題? 自分が何を言ってるかわかる?

.....もういいわ。
私 ジメジメしているの好きじゃないの。あなたの気持ちはだいぶ前からここにないのに、私とずっと付き合っていたってこと? 将来の医院長になるコースがなくなっちゃうのが、惜しかったから、別れられなかったの?

それとも私に申し訳なくてずっと別れを切り出せなかったの? そうだとしたら和幸、優しすぎなんじゃない? その優しさが、人を返って傷つけていたりもするのかもよ。


もう仕方ないじゃない、ここに気持ちがないのなら、あなたみたいな自分勝手で繊細すぎる人となんて 一緒に暮らしていけない。



それに私はお父様の大事な北條クリニックを守っていかなければならない。新しいパートナーをみつけることに 切り替えるわ 我ながら英断だわ。 結婚してから言われたら、離婚になって、私の結婚歴に傷がついていたし、結婚前に 早めに言ってもらって、かえってよかったわ。もう何も言わなくていいから はやく私の前からいなくなってね 。」



冷静で強気な性格の玲は、 突然の出来事に 心の中は 実は動揺し悲しみでいっぱいだったが、憤りという感情を混ぜて、和幸を責めては、その悲しみを和幸に見せたくないと その感情を隠していた


悲しみをみせても、もう和幸の気持ちは変わらないと感じていたから。そして悲しみをみせたら、自分がもっと悲しくなってしまうのが分かっていたから。




和幸「ごめん、玲 今までありがとう
きっと君は 俺が居なくても 幸せになれる
君は恵まれた環境にいるし 自分の力で 自
分の行きたい方向へ進んでいける力もあ
る。不甲斐ない俺は 君には ふさわしくな
い。俺じゃぁ 力不足だ。 もっとお似合
いの人と一緒になった方が幸せだと思う。
ごめん、玲」



覆い被さるように 一見 自分の非を認め、心から謝罪しているようで しかし ナイフのような身勝手な和幸の言葉が いくつも玲に突き刺さり 玲は、(こっちの気持ちも考えず、急に別れを切り出してきて 好き勝手に喋って... 本当に失礼しちゃうわ 一般常識から 学ぶべきだわ) と心の中で 呆れ泣いた




玲「そうね、あなたの言うとおり。あなたみたいな身勝手な人間と一緒にならなくて正解だわ。早く気づけて幸いです。逆に 感謝するわ ありがと




玲は 冷静さを取り戻しつつも、和幸がこれから亜希のところへ駆けつけるんだと思うと胸がぎゅっと 切なく締め付けられた。 和幸のことを好きな気持ちは本物だし、本当は一緒にいて欲しい。 でも ここで 行かないで と引き止めても無理なことはわかる。



玲は賢いから 世の中には何万と男はいて こんな無責任な男より遥かにいい男、メリットのある男、私のレベルに合った男はいると 、悲しい感情は気のせいだと、思い込むようにして、考えを必死に切り替えるようにしてみた








和幸「今までありがとう さようなら」













世の中に こんなにも深く胸に突き刺さる

自分を悲しい気持ちにさせる

「さようなら」 を

玲は 生まれて初めて

聞いた











好条件やメリットがあるから、和幸と付き合っているとずっと思っていた玲は、和幸が自分の前からいなくなるとわかって、はじめて、もう遅いのだが、自分が、条件など関係なく、和幸のことを 心から好きだったんだって わかった。







(わたし、和幸のことを 忘れられるかしら )







和幸が去っていく後ろ姿を見ながら 玲は頬を伝う涙の味が、塩っからいのだけは、わかったが、 何も動けないで ただそこで しばらく立ち尽くしていた。



もうすぐ春がやってくるはずの、春一番が吹いた日だった





こうして 経験を重ねて 、成長して、同じことを繰り返さないように、人間は学び、こうなりたいと努力していれば、また 玲も いつの日か 心から好きと思える素敵な相手と出会えるのである







ユーミンも言っていた







『きみはダンデライオン
傷ついた日々は 彼に出逢うための
そうよ運命が用意してくれた
大切なレッスン
今素敵なレディになる』






そう 玲にとって 和幸との日々は
大切なレッスン だったにちがいない











つづく
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