二 連れてって

文字数 602文字

 女は、
『菩提寺の住職の法力がなく、あの世へ行けなくて困っているから、あの世へ連れてって欲しい』
 と自身の身の上を語った。

「ねえ、あなた。送ってね」
 抱きしめている由美は、由美子の姿の女を、母の由美子のように感じたらしかった。私は、明日の正午に仕事場で祈りをする、と伝えた。女は消えた。

 その夜、私と由美は翌日に備えて愛し合った。この意味はいずれ説明しようと思う。


 翌日正午。
 私と由美は仕事場にいた。昨夜現われた女の人は座卓の前に座っている。今日は由美の母の由美子の姿ではない。姿勢の良い穏やかな白髪の初老の姿だ。
 座卓には昨夜女の人が話した品、弁当と水のペットボトルとお金が入った財布や小物など、旅行で使う品々が入ったキャリアーケースと靴が供えられている。

 私と由美は、この女を戻るべき所に送り給え、と祈った。神仏にではない。宇宙に存在する一切のもの、森羅万象にである。
 やがて私たちの心に、巨視的に表現するなら渦巻銀河が現われた。古代、これらは『天津渦渦し』と表現された。また『曼荼羅』とも表現された。渦巻銀河は微視的には原子構造の象徴である。

 祈りが進むと私たちの身体はしだいに熱くなった。
 祈りが終わりに近づくと、女の人は微笑むような雰囲気を残し、ふっと消えた。同時に、ありがとう、と伝わってきた。
 私と由美は森羅万象に感謝を伝えた。私たちはうっすらと汗ばみ指先まで熱くなっていた。

(三章 了)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み