六 未来

文字数 850文字

 布団の中で、私は由美の手を握っていた。
 由美が通うM大学は、由美の実家からより、私の家からが近い。
 由美は今、アパート住いだ。修士課程終了まであと半年。これまでのように、アパートから大学へ通うか尋ねると、
「できることなら、あなたが私のアパートに住んで欲しい」
 と微笑んだ。私は由美に同意した。

「修士課程を終えたら結婚してくださいと言ったけど、明日にも婚姻届を出していいですか?」
「いいですよ。どうしたんですか?」
「いっしょ暮すんだから、そうするのが当然だと思ったの。いいでしょう?」
「わかりました。いいですよ」
「それと、堅苦しい話し方はやめていい?」
「いいですよ。そうしましょう」
「ねっ、そうしようね」
 由美は微笑んでいる。

 私は由美が何を言いたいかわかった。
「ああ、俺もそうするよ。
 この家と俺の家はどうする?」
 由美の家は長野だ。そして私の家は横浜。アパートは文京区だ。
「大学院を修了するまで、二人でアパートに住んで、その後は、あなたに任せるね」

「それなら、この由美の家と俺の家を行き来しようか。気分転換と避暑とはゆかないが、建前は避暑を兼ねて。だけど、この由美の家で暮す方が多くなると思う・・・」
 私は、私の住環境に興味を持つ由美の気持ちを感じていた。
「夏はここに居て、冬はあなたの家ね。それまでは二人で私のアパートで新婚ね」
 由美は私に抱きついている。

「いつ、アパートに戻る?大学はいつから?」
「明後日中に戻って、翌日から大学へ出るよ」
「そしたら、明後日、アパートに戻って、二人で俺の仕事先へ行って挨拶し、婚姻届の保証人になってもらうのはどうだろう?」
「いいよ。仕事先って、あれね?」
「そう。あまり大げさに言いたくないから、知り合いには仕事先だと話している」

「ウフフッ。知り合いの人は、あなたの仕事の実態を知らない・・・・」
 そうだ、知っているのは由美だけだ。
「そしたら、寝ますか?」
「はい。もう一度、あ、い、し、て、ね」
「うん、おいで・・・」
 私は由美を抱き寄せた・・・・。 

(一章 了)

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