第16話 ゲーム処刑

文字数 2,442文字

 大型ビジョンの前にある特設ステージ上に

ギロチン台が置いてあるのが見えた。

「今から、公開処刑がはじまるらしいぜ」

「HIRAGIを襲った奴に仲間がいるんだってさ」

「いくらなんでも、あれはやりすぎだった」

 プレイヤーたちのつぶやきが、画面の端に連なる。

私はそれを必死に目を追いながら、

これから、何が起きようとしているのかつきとめようとした。

「HIRAGIに反感を持ったプレイヤーたちの憎悪が

今回の事件をひき起こしたということになりますね」

 棚橋がふいに言った。

「スクランブル交差点にいるジンさんたちにも、

このことを報せなくちゃ」

 私が言った。

「橋元とその仲間の個人情報を流出させるみたいです」

 棚橋が言った。

少しして、ジンさんたちが駆けつけた。

「この処刑はまちがっている! 」

 鹿さんが言った。

「誰か仕掛け人? 」

 蓮さんが言った。

「お集りのみなさん、彼らは、ひいらぎの分身である

HIRAGIに危害を加えるという大罪を犯したくせに、

その罪を仲間ひとりに押しつけて、

自分たちは何事もなかったかのように、

フェイドアウトしようとしています! 」

どこからともなく、無機質な声が聞こえた。

次の瞬間、ステージ上が暗くなり、

ギロチン台の横に立たされた2人の

プレイヤーたちにスポットライトがあたった。

ガマガエルとザリガニのキャラクターが

何とも、痛々し気に見えた。

次に、

ステージの袖から、死神のキャラクターたちが現れた。

死神のキャラクターたちは、

ガマガエルとザリガニのキャラクターたちを

捕らえると、順番に、ギロチンにかけた。

すると、ガマガエルとザリガニのキャラクターたちが

まるで、バブルのように、パッとはじけて消えた。

その瞬間、歓声の効果音が流れた。

「ゲームの中とは言え、ちょっと、やりすぎです」

 棚橋が、私の後ろに隠れると言った。

「あそこ、彰彦君じゃないか? 」

 鹿さんが、大衆から離れた場所にいる

イモムシのキャラクターを指さした。

「美意識高い系の彰彦さんが、イモムシを選ぶと思う? 」

 蓮さんが言った。

「イモムシは成長すると蝶になる。

あながち、間違えではないかもしれない」

 ジンさんが告げた。

「近づいてみますか? 」

 私が訊ねた。

「待って。ちょっと、様子を見よう。

自分のために、誰かが処刑されるんだ。

何か動きがあるかもしれない」

 鹿さんが冷静に言った。

「まだ、言ってなかったが、

私を刺した橋元は、

彰彦をいじめた大里の仲間なんだ」

 ジンさんが思いもよらない告白をした。

「そうじゃないかと思っていました」

 鹿さんが告げた。

「それって、ヤバいんじゃねえ? 」

 蓮さんがギャルっぽく言った。

「どうして、そんなに大事なことを

今まで黙っていたんですか? 」

 棚橋が、ジンさんに詰め寄った。

「すまない」

 ジンさんが頭を下げた。

「橋元は、HIRAGIが

彰彦さんだと知って、犯行におよんだのですか? 」

 私が、ジンさんに訊ねた。

「橋元は否定している。

たぶん、HIRAGIが彰彦だと

気づいていなかったのではないかと思う」

 ジンさんが答えた。

「なんだ、前科者じゃん」

「自殺に追い込むなんて、サイテー! 」

「今度こそ、息の根を止めねぇと、

また、やるんじゃねぇの? 」

 画面の端に、流れて来た

プレイヤーたちのつぶやきに

気づいて、ステージ上に視線を移すと、

大型ビジョン上に、

2人の個人情報や過去のトラブル内容がさらされた。

しかも、顔写真付きだ。

「モスピグレット側は何をしている?

すぐに、やめさせないと大変なことになるぞ! 」

 ジンさんが、ステージの前に走り出ると言った。

「おまえがしたことと同じことをしただけだ。

おまえに、とやかく言う資格はない! 」

 どこからともなく、無機質な声が聞こえた。

次の瞬間、ステージの前に集まっていた

プレイヤーたちが、ジンさんを取り囲んだ。

ジンさんの姿が見えなくなった。

「助けないと! 」

「待って。行ったら、私たちもやられるわ」

 ジンさんを救出に向かおうとした鹿さんを

蓮さんが体当たりして止めた。

「棚橋? 」

 なぜか、棚橋の姿が画面上に消えた。

近くを捜したが、どこにも見当たらない。

(こんな時に、どうしちゃったのよ? )

「私は平気だ」

 ジンさんが目の前に現れた。

どうやら、瞬間移動を使ったらしい。

「彰彦君がいない」

 鹿さんが言った。

「棚橋も退出したみたいだし、

私もこのへんで、退出しよっかな」

 蓮さんが言った。

「何、言っているんだ? 彰彦君を捜さないと、

昔のことを思い出して、

何するのかわからないじゃないか! 」

 鹿さんが、蓮さんに詰め寄った。

「内輪もめしている場合ではない。私は先に行く」

 ジンさんがそう言うと、

目に見えぬスピードで走り去った。

「待ってください」

 私たちはあわてて、ジンさんのあとを追いかけた。

こういうことになるのだったら、

特殊技能のアイテムを購入しておくべきだった。

ジンさんはさすが、用意がいいと思った。

なぜか、流れる風景が分断されて、

人込みの中を走るイモムシの

キャラクターの姿がはっきりと見えた。

ネオンに照らされて、キラキラとまぶしく見えた。

「僕たち以外の時間を止めた」

 鹿さんが、ふしぎな現象のからくりをばらした。

「そんなことが出来るんですか? 」

 私は驚きを隠せなかった。

「ゲームの中だったら、なんだって可能さ。

僕みたいな無能な人間でも神になれる」

 鹿さんが言った。

(神? マジでそんなこと言っているの? )

 私はなぜか、鹿さんを遠くに感じた。

「あれ、彰彦さんじゃない! 」

 蓮さんが上を見上げると言った。

蓮さんの視線の先には、

ビルの屋上の先端に立つイモムシのキャラクターがあった。

私たち以外は誰も気づいていないみたいだ。

それもそのはず、私たち以外は時間が止まっている。

「しまった! 」

 鹿さんが言った。

突然、周囲の風景が動きはじめた。

何者かが、マジックを解いたらしい。

「きゃああ! 」

 蓮さんがさけんだ。

その時、視界に、

イモムシのキャラクターが飛び降りる姿が飛び込んで来た。


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