第5話 オフ会

文字数 2,914文字

会うことになったのは、以下3名。

鹿さん
ひいらぎのファンの中でも、客観的に分析しているところが良かった。

モスピグレット創始以来の古参プレイヤーらしい。

蓮さん
ひいらぎのファンの中で、他のプレイヤーたちとも程よく距離を取り

上手くやっていそうな点が今後の捜索に役立ってもらえそう。

ジンさん
ひいらぎのファンの中で、一番先に、私に興味を持ってくれて、

鹿さんや蓮さんとつながるよう仲立ちしてくれた。

偶然か否か、初めてのご対面の場所は、

私が、ひいらぎの存在を初めて知った渋谷ハチ公前。

あれから、棚橋がしつこく聞いて来たことから、

私はこらえきれず、彼らと会うことを白状してしまった。

というわけで、急遽、私たちの密会に、

棚橋が飛び入り参加することになった。

棚橋が参加することは、

事前に、メンバーたちに連絡を取り了承された。

「どんな人たちなんですかね? 」

 棚橋が私以上に緊張している。

「文章の印象から推測すると、

鹿さんは、社会人でなおかつ、大企業勤務のエリートさんって感じ?

 蓮さんは、私たちと同じ学生ぽい。

ジンさんは、だいぶ年上ぽいかな? 」

 私が言った。

「文章だけで信用して大丈夫なんですか? 」

 棚橋が訊ねた。

「しっ。誰か近づいて来る」

 私は、こちらへ向かって歩いて来る人に気づいて、

あわてて、棚橋を黙らせた。

 鹿さんかジンさんかと思いきや、

途中で、その人は、別の人の元に駆け寄った。

「どうやら、人違いだったみたいですね」

 棚橋がタピオカミルクティーを一口飲むと言った。

「噂話をするなら、周囲をよく確かめてからでないとね」

 背後から、深みのある男性の声が聞こえた。

驚いてふり返ると、秋葉原を徘徊していそうな

オタク風の服装をしたお兄さんが立っていた。

「え、あの。どちら様ですか? 」

 私が訊ねた。

「そんなに驚かないでよ。

もしかして、ガッカリさせちゃったかな? 」

 目の前にいるお兄さんが頭をかきながら言った。

「すみません。失礼ですけど、

鹿さんもしくはジンさんですか? 」

 私は昨夜、急遽、思い立って

作成した名刺を差し出すと確認した。

「君がほおずき? 意外と若いんだね。僕は鹿だよ」

 鹿さんが名乗った。

「今の話、聞こえちゃいましたか? 」

 棚橋が、鹿さんに訊ねた。

「ああ。でも、気にしていないから安心して。

むしろ、エリートと思われて光栄なぐらいだ」

 鹿さんが苦笑いすると言った。

「あとの2人はどこにいるんですかね? 」

 私が辺りを見回しながら言った。

鹿さんがすぐ近くにいたことを考えると、

あとの2人も身近にひそんでいるかもしれない。

「もしかして、あの子が蓮じゃないか? 」

 鹿さんが、マイルドヤンキー系の集団の中でも、

ひと際目立っているJKを指さすと言った。

「まさか、あの子が蓮さんなはずありません」

 私は希望を込めて否定した。

「そうかな。目印のこれ持っているけど‥‥ 」

 鹿さんが、リュックに下げていた

クマムシをかたどった小さなぬいぐるみがついた

特製キーボルダーを見せると言った。

鹿さんの話によると、ゲームのタイトルは、

制作したゲームメーカーの会社名と同じで、

名前の由来は、クマムシにあるという。

なぜ、クマムシなのかは謎らしい。

「これを手にするまで、

モスピグレット=クマムシだなんて想像もしなかった」

 鹿さんが改めて言った。

「持っているのは、限られたプレイヤーだけですものね」

 私が、特製キーホルダーについているクマムシをなでると言った。

「これを目印にしたのは正解だった。これがなければ、

ほおずき。君のこともわからなかったからね」

 鹿さんがそう言った矢先、鹿さんが、蓮さんだと言ったJKが、

私たちに向かって歩いて来るのが見えた。

「あれ? もしかして、木平さんじゃない? 」

 蓮さんらしきJKが目を丸くして言った。

「そう言うあなたは誰? 」

 私は必死に記憶をたどったが、思い当たる人が見つからない。

「私よ私。中3の時同じクラスだった蓮見」

 蓮さんというのは、苗字を短くしただけだったらしい。

何とも単純なハンドルネームの付けた方をするものだ。

(勘が良い人なら気づくはず。

知人に知られるのも時間の問題じゃん)

「蓮さんが、蓮見さんだったんですか? 」

 棚橋が言った。

「卒業以来ね。元気そうで何より」

 蓮さんがそう言うと二ッと笑った。

「ごめんなさい。すぐに気づかなくて‥‥ 」

 私は平謝りした。

「いいのよ。中学時代の私って、今とだいぶ違うから、

気づかれない方がむしろ楽って感じ? 」

 蓮さんが言った。

(高校デビューってやつかしら? )

「どうしてまた、変身を遂げたんですか? 」

 棚橋が前のめりの姿勢で訊ねた。

「そろそろ、場所を移さないか? 」

 鹿さんが話に割って入ったため、

蓮さんの高校デビューの理由を聞けずじまい。

「ところで、あなたは? 」

 蓮さんが、鹿さんに訊ねた。

「この人は鹿さんです」

 私がとっさに、鹿さんを紹介した。

「あ、そう。それで、もうひとりはどこ? 」

 蓮さんがけだるそうに言った。

「もしかして、おじけづいたとかですか? 」

 私が言った。

「おくれるそうだ。移動先は伝えたから先に行こう」

 鹿さんがリーダーシップを取った。

「どこに行くんですか? 」

 私が、鹿さんの背中向かってに訊ねた。

「ついてくればわかるよ」

 鹿さんが前を向いたまま答えた。

(ひとりというわけではないし、大丈夫か‥‥ )

 私は、棚橋と蓮さんを見回すと歩き出した。

 連れて来られたのは、雑居ビルの2階にあるカフェだった。

「いいながめ」

 棚橋が窓辺に駆け寄ると声を上げた。

「雰囲気も気に入った」

 蓮さんが言った。

「君たち、何を頼む? 」

 鹿さんがメニューを広げると聞いてきた。

「コーヒー」

 蓮さんが答えた。

「紅茶」

 私と棚橋が同時に答えた。

「あんた、さっきもティー飲んだじゃん」

 私が、棚橋にそう指摘すると、

棚橋が「別物です」と主張した。

「くだらない」

 蓮さんが足を組みかえると言った。

「僕も紅茶にするよ」

 鹿さんがそう言うと、店員を呼んで注文した。

「まるで、私があまのじゃくみたい」

 運ばれて来た紅茶3つとコーヒー1つを前にして、

蓮さんがつぶやいた。

どうやら、鹿さんはリーダー気質な反面、

他の人にもあわせられる

バランスの取れた人柄らしい。

「ジンさんって、どんな人なのかわかりますか? 」

 私が、鹿さんに質問した。

「何度か、やり取りした感じでは、プライド高い印象かな」

 鹿さんが答えた。

「あの人がそうですか? 」

 蓮さんが、ちょうど、その時、

店内に入って来た年配男性を指さした。

「あの人は違う」

 鹿さんはそう言ったけれど、

その年配男性は迷わず、私たちの元へ歩み寄って来た。

「待たせてごめん。ジンです。君はほおずき。

君はほおずきの友人。あんたは鹿君。

それから、君は蓮さんだね? 」
 
 ジンさんが、私たちを順番に見ると言った。

「さて、みんなそろったことですし、

はじめますか? 」

 鹿さんが仕切った。

「その前に、謝りたいことがあります」

 私が告げた。

「何? 炎上したこと? 」

 蓮さんが身を乗り出すと訊ねた。

「違います。まだ、みなさんにお話ししていないことがあります」

 私が答えた。


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