紛玉【サイコパスASI】
文字数 1,383文字
紛玉は不気味だが、鏡月も気味悪く思えてくる。
関係者じゃない俺に、機密情報を話しすぎだ。
もしうそをついていて、頭が狂ってる女なら、なおいっそう怖い。
「鏡月グループはさぞやもうかってるんだろうな」
「そうでもないわよ。全世界から非難を浴びてる。テレビとか、ネットには出てないけどね」
「なんで?」
「サイコパスASIが、鏡月家が管理している紛玉の全データをコピーしていったの。やつはこのゲームにあらゆる紛玉を配置している。第三級から第一級までね。ゲームは第三回まで人類の敗北。すでに五十名のプロの回収屋がやられてる。今プレイしているのは四回目よ」
「そんなこと……」
「当然情報は公に出てない。出してもパニックは起こらないと思うけど。みんな信じないから」
俺が絶望感を上げる前に、鏡月が薄く笑ってきた。
鏡月たちのことを、紛玉を回収するから、『プロの回収屋』って呼んでるのか。
職業として成り立ってるわけね。転職はしたくないけど。
黒百合が扇子を口元であおぎ、
「なるほどのう。つまり、サイコパスASIとやらは盗んだ紛玉を使って、人類に挑戦しているわけじゃな? わらわたちはその紛玉を回収するか、破壊しないと、ゲームから脱出できないと? つまり、三つ以上の紛玉を破壊すれば、サイコパスASIの負け。人類の勝ちというわけじゃな?」
「説明ありがとう」
「なら簡単じゃないかえ? 何かの謎を解けというわけでもなさそうじゃし。たかだか物を回収するぐらい、刀一つあればぶった斬れそうじゃ」
「そううまくいくかしら? 紛玉はあなたのようなモノのことを言うのよ」
鏡月が妙なことを言う。
俺はあせって、
「えっ? 黒百合さんて紛玉なのか? 早く破壊しないと!」
「なんでじゃダーリン。わらわはお主の妻ぞ。破壊よりも愛せ」
長い付き合いだけに、俺の本気を、黒百合は軽く流していった。
「おもしろい夫婦ね。でも無駄だわ。数に入らない。あくまでサイコパスASIがコピーした紛玉が対象だから」
「なんだ。残念」
「でも現実世界に帰ったら、たっぷりなんの紛玉なのか調査させてもらうわ。逃げようとしても、廊下に屈強な男を配置させたから」
「俺の白百合さんに手を出すつもりか? それはだめだ! 俺の嫁だぞ!」
黒い組織に属し、黒幕感を出す鏡月に、白百合を愛する夫がほえる。
「わらわは悲しいぞ」黒百合は扇子で俺の背中を押し、
「サイコパスとは自分の利益を無感情で取る人間のことなのはわかるが、ASIとはなんぞや?」
「いてて……。人工超知能のことだよ。AIってのは三つに分類されてて、弱いAIをANI。強いAIをAGI。そして人類を越えた神みたいなAIをASIっていうんだ。SFから名前をつけたんだろ」
「ダーリンは博学じゃのう。わらわはうれしいぞい」
「どもども」
俺は普通に照れてしまった。
ネットで調べればすぐ出てくるのだが。
「にしても、身内騒動ならなんで俺たちを巻き込むんだよ。定員集めにしてもひどいじゃないか」
「必要だからよ。紛玉回収には、十パーセントの回収屋と、九十パーセントの一般人がいるの。あなたたちは回収屋から『チギリ』と呼ばれるわ」
「どういう意味だよ、それ?」
「それは……」
俺の問いに、初めて鏡月が言いよどむ。
何かある。
嫌な予感がビンビンする。
問いつめようとしたとき、女の子の悲鳴が町中から響いてきた。