★シーリー登場★ 八咫とシーリーと人減らし

文字数 1,967文字

 俺は固まってしまった。



 ゲームの世界で悲鳴はめずらしくないけど、さっきの死体がフラッシュバックしてしまう。



 鏡月は素早い。無駄のない動き。


 その慣れが信頼の証しとなった。



 俺は鏡月についていった。



 この異様な状況で、ひとりになるのは危険だ。そう本能が言ってる。


 コンクリートで整備されていない、むき出しの土の道路に、ふたりの影が見えた。


 見知った人物がいる。



 職場の後輩、八咫だ。



 もうひとりの金髪の少女は知らないが。


 八咫の格好は俺と同じ作業着か。


 ゲームで一緒にプレイしたときも作業着だった。理由は知らんが。


 金髪の女の子はピンクのウサ耳フードをかぶっている。


 パーカ、シャツにスカートと美少女級にかわいい。


 両目は青色なので、日本人じゃないことは確かだ。


 年齢は小学生ぐらいか。


 ふたりは手をつないで、何かから逃げている。


 俺は不穏な気配を感じ、



「おい! こっちだ! こっち……」


「しっ! よけいなことはしないで!」



 手を振ると、鏡月が怖い顔でにらんでくる。


 八咫が俺に気づき、こっちにやってきた。


 鏡月が舌打ちする。


 何をそんなに警戒してるんだ?



「八咫さん、だよな?」


「先輩ですよね?」



 俺と八咫はおたがいを確認し合った。


 普段からとぼけた面している後輩だが、顔が異常に青くなっている。


 何を見たら、こんなに変わるんだ?


「知り合いなの?」


 不機嫌そうに、鏡月が聞く。


「ダーリンの同僚じゃ。いつもお世話になっておるのぉ」


 黒百合が前に出てきて、しおらしくあいさつ。


 場を読んでくれ。


 夫婦なんてやってる暇ないだろ。


 俺の嫁とは認めてないが。


「ここで何を……」



「隠れましょう! 銃持ったオッサンたちが来るんで!」



 八咫は俺の言葉をさえぎって、近くの民家に入り、壁際に身を寄せる。


 早く、早くと、手を上下に振ってきた。


 茶色い霧から数人の足音。


 こっちに来る。


 俺は判断しかね、鏡月を見た。



「隠れましょう」



 鏡月がそう言うので、俺は従うことにした。


 俺たちが壁に身を寄せ合うと、すぐに足音が近くまでやってきた。


 途中で止まったけど、すぐに動き出す。


 遠くに行ってしまったのか、耳に入らなくなってきた。


「ふう。危なかったー」


 八咫はいつもの口調で息を吐く。


 良い香りのする鏡月や黒百合と違って、この後輩だけはいつも無臭だ。


 制服に消臭剤でもまいてるのか?


「で。何があった?」


「あのオッサンたちが、急に銃で私らのこと撃ってきたんすよ。びっくりして、この子と逃げちゃいました。たぶんあれは」



「『人減らし』か?」



「そうっす。賞金額が高いっすからねぇ。ああいうやからがわんさかいそうですね」


 俺のとなりで、うんざりしている八咫。



 人減らしは山分け型の賞金が出た場合に多い。



 単純な話、人を減らせば、ひとりひとりの金額が増えるからだ。


 ただ、銃を持っているから、アングラ系のやつらである可能性が高い。


 俺は震えている少女に目を落とし、


「その子は?」


「ああ。途中で一緒になった女の子っす。撃たれそうになったところを助けました」


「えっ? 絶対人助けなんてしそうにない性格だと思ってたけど? 助けたのか?」


「せんぱーい。とっても失礼」


 八咫は侮蔑を込めた視線を送ってくる。


 八咫の性格は、メリットのないことはしないだ。


 危険だと感じたら、即逃げそうなタイプだと思ったが。


 無愛想だし、親切なイメージがわかない。


「名前、なんだっけ?」



「……シャテー・シーリーです」



「シーリーちゃんね。私は八咫清子。こっちの無精ひげはやしているオッサンが先輩の十種大生さん。それで、その人たちは誰ですか?」


 声の低い少女から名前を聞き出し、八咫はふたりの女に視線をくべる。


「私は鏡月千引よ」


「わらわは黒百合じゃ。現実世界では白百合が世話になっておるがのぉ」


 女たちがそれぞれ自己紹介。


「鏡月さんと、黒百合さんですね。あー、白百合さんて人はお姉さんか妹さんですかね? あんまり友達いないもんで、よくおぼえてるんですけどねー」


 八咫は後頭部を手でかいている。


 まあわからんだろうな。


 現実世界では幽霊だから俺にしか見えん。


「ややこしい事情があるから考えなくていいよ」


「そうっすか。わかったっす」


 俺がそう言ってやると、八咫は素直に返事。


 こういうめんどくさがりな性格なのだ。


 人を助けるとはとうてい思えない。



 ――紛玉じゃないだろうな。



 俺は本気で疑い、


「質問いい? なんで作業着なんだよ?」


「汚れてもいいからっすよ。動きやすいし、作業着超便利なんで。あとぶかいから、体のラインとかもごまかせますねー」


 細長いラインを露出しまくっている、びっちり全身タイツの鏡月を、うらやましそうに見る八咫。



 わかる。



 あれは若さと努力のたまものだよね。


 俺もおなか出ちゃうから無理だな。

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