半分死亡

文字数 1,829文字

 ガラテアは森の茶色で太い根っこを踏んで、進んでいく。


 歩くたびに、レオタードの布がお尻に食い込んだ。


 エロいというか、痛くないのかと心配になった。


 カゲマルのメガネが白く濁り、


「異国の正義のヒーローめ。巨乳をさらすだけに飽き足らず、プリケツをそこまで見せつけるとは。――許せん」


「お前は何に対抗意識燃やしてんだよ」


 日本のヒーローが、外国のコスチュームにお怒りだ。


 ランランがスキャンパーに近寄り、


「ねえあなた。チャンネル登録数はいくつ?」


「えっ? ええっとぉ~。四万です!」


「へっへぇ~。その年でなかなかの数字ね。おほほほほほ」


 年下の女の子のほうが上なので、微妙に動揺している。


 ――俺とカゲマルのチャンネル登録数は聞いてこなかったな。


 男はライバル視してないらしい。


 チャンネル登録数七十人の俺の相手ではないが。


 情けなくて、鼻で笑う。


 カゲマルに同情の視線を向けられる。


 優位に立つ者が、底辺に向けて放つ優越感。


 メガネを割りたい衝動にかられてしまう。


「あのっ、ランランさんはいくつ……」


「ねえねえ。お姉ちゃんのチャンネル登録数はいくつ?」


 スキャンパーの言葉を遮って、ガラテアの登録数をちゃっかり聞く蘭花。


 スマホで調べればすぐわかるのに。


 自分が上だという自信があるのか。


 スキャンパーは指を口につけ、空を見上げると、


「お姉ちゃんは、十万ぐらいかな?」


「へぇ~、そぉ~。……やっぱしチャイナかしら? それとも水着なの?」


 美人姉妹の戦闘能力に負け、ランランは格好のせいにし始めた。


 後ろにフィールドアウトしていく。


 スキャンパーが小さく首をかしげた。


 ――ゴリラ女すげぇ!


 パーフェクト・エネミーに選定されるわけだ。


 戦闘能力万超えの仲間たちの中で、俺はミジンコの気持ちになってしまう。


 死にたくなってきたので、飛び降りる舞台を探してしまった。


「ナイトお兄さんは、チャンネル登録数いくつなんですか? そんなすごい能力を持ってるんですから、一万は超えてるんでしょ?」


「えっ? もぢろん! 超えでるようで、超えでないよ!」


「ひいいっ! ごっごめんなさい!」


 異常な俺のダミ声が出てしまい、スキャンパーがおびえてガラテアまで逃げる。


 ミニスカートが揺れていた。


 セクシー外国人姉妹は、上位のアドバーチューバーだった。


 ガラテアは俺を見て小さく笑った。


 戦闘能力を知ってるのか。


 くやしさで、顔の血が煮えたぎってくる。


「カゲマル君。縄を持ってきてくれないか? あそこに太い木の枝があるから」


「ナイト氏。首をつるつもりでござるか? 頸部圧迫による脳の血液循環不全によって、酸欠死できるでござるが、体内にある汚物がケツの穴から出てしまうでござるよ。見た目も首がのびて、目玉飛び出るというふうに、悲惨でござる。やめたほうがよかろう」


「わかった。ありがとう」


 友に際限のない恐怖を与えられたので、生への執着がわいた。


 持つべきものは、死線をくぐり抜けた忍者だ。


 俺は俺を愛そう。


「やれやれでござる」カゲマルがスマホを開き、


「ぬぬっ! 大変でござる!」


「どうした?」


「すでに五十五人もキルされてるでござる!」


「へぇ~、半分も減ったわけか……はあっ?」


 びっくりしすぎて、カゲマルに向けた俺の首がうなる。


 時間としては、三十分に到達したぐらいだ。


 いくらなんでも早すぎる!


 スマートフォンを開いて見ると、五十五人のプレーヤーに、薄く赤い幕がかかっていた。


 キルされた証拠だ。


 日本からきた精鋭部隊である、トップアドバーチューバーは、早くも一回戦で敗退していた。


「うそでしょ……早すぎよ」


 ガラテアが小さくうなった。


 スキャンパー、ランランも、スマホを見て、目を丸くしている。


 セイラーが言った、『第一ステージで全滅させる』という言葉が頭をめぐる。


「ナイト氏!」


「任せろ!」


 カゲマルの期待に応えるため、俺は両耳を手でたたいた。


 ソナーが発動。


 情報が俺の耳から頭の中に入っていく。


 俺たちのほうに近づいてくる人物を発見。


 体格は巨体、顔に仮面をかぶっている。


 巨大な刃物が六本ある。


 それを手で持っているということは、六本腕があるということだ。


 顔近くで、筒のようなものが二本、細かく動いている。


 プレーヤーが集まっていた場所にいなかった。


 姿形で人外の者だとわかる。


 あきらかに怪物。


 新型エネミーだ!


「こっちに向かってきてるぞ!」


 俺の心臓が鐘を鳴らし始めた。

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