父と鮨

文字数 250文字

父に連れられ
初めてカウンターに座った

二十歳になった祝いだと
お好みで握ってもらい
おすすめの冷酒を飲んだ

いつもは無口なのに
大将とはにこやかに話す

真面目だけが取り柄で
趣味もなく
何を楽しみに生きているのかと
思っていたので
僕の知らない父を見た

大学のことや
就職の話を聞かれると
思っていたのに
僕にはお構いなしで
紅葉の話で盛り上がる

大人の空間に緊張して
味わう余裕もなかった

最初で最後

あれ以来
一度も
連れて行ってもらえなかった

焼香している
大将を見たら
一気に
涙が溢れた

何も聞かれず
何も語らず
だったけれど
父と僕だけの思い出だ
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