10月末

文字数 1,070文字

事故が起きて 10日が経った。

土砂崩れの現場は 自衛隊の人たちまで協力してくれて捜索してくれていたが、行方不明者の発見には至っていない。

ゆずとみかんの二人、そして奈呉柊はすっかりと我が家の住人となっていた。
中学三年の柚月は、受験を控えていたので、今まで通っていた中学に出席している。

私の家からではゆずの中学は遠かったが 柊が仕事に行きがてら送って行っている。
ゆずは柊の仕事が終わるまで 塾の自習室で勉強をしていて、柊と一緒に帰ってくる。
それまで、私とみかんは一緒に家事や食事の用意をするのが日課になっていた。

みかんは学校にな行きたくない というので、今まで通っていた学校には 行っていない。
まだしばらくコミセンで災害にあった人達の罹災証明や支援物質の手配などの仕事があるためみかんを一緒に連れて行っていた。

「今日は、餃子を作ろうと思っているんだけど」
スーパーでにらをかごに入れながら隣のみかんに声をかけた。
「餃子って、味の素の餃子?」
「いや、家で作ろうと思う。
みかんも手伝ってくれる?」
「うん、いいよ」
みかんは大きな眼をぱっちりと見開き深くうなずいた。

みかんは好奇心旺盛で、素直ないい子だ。コミセンに連れてきても、周りの大人にかわいがられる、笑顔がかわいらしい子だった。

「明日はさ 土曜日で、仕事も休みだから、ケーキ作ろうか?」
「ケーキ?」
「うん、抹茶のチーズケーキ作ろうかなと思っているんだけど、手伝ってくれる?」
「手伝う 手伝う。作りたい」
みかんはピョンピョンと飛び上がり喜んでいる。

「簡単だから。あんまり期待しないでね」
「期待する 期待する」
「まず、餃子だね。それとポテトサラダと」
「アイス」
「アイス?」
「うん、お兄ちゃんがチョコミントのアイスが好きなの」
お兄ちゃんときたか。
みかん《こいつ》ホントに侮れないやつ。
「そうか、じゃあ、チョコミントを買って行こうか」
「クレハちゃんは?」
チョコミントは甘いな。
「かき氷 檸檬で」
「そう、じゃ 柊《おじちゃん》もそれで」
「そうね」

ともかくアイスが解けちゃうから 買って、早く帰ろう。

「柚月《お兄ちゃん》どこの高校に行きたいの?」
「鶴田高校」
「えっ そうなの?」
「うん」
県内一の進学校だ。東大に毎年30人くらい入っているらしい。
「お兄ちゃん、頭いいから」
小学3年生はちょっと得意そうだ。

私達は、どこまで彼の成長をみられるのだろう
この可愛らしい少女の笑顔をいつまで見ていられるのだろう?

一緒にいたいと思うのは 彼らの両親が

今は、何も考えず
「餃子って どうやって作るの」
この子たちの生活を楽しもう。







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