文化の日 その3

文字数 2,311文字

弁護士さん 知っている人いる?


夜 みかんとゆずが二階に上がったのを確認して 柊と今後の作戦会議を行った。
事故から2週間たっているが、まだ、ゆずたちの家族は見つかっていない。
土砂崩れというのは こんなにも大変な事なのだと役所にいると痛感させられた。

結局 ゆずとみかん そして柊は 私の家で暮らしている。
ゆずは受験生ということもあり、今まで通っていた中学に登校しているが、みかんは 最初学校に行くのを嫌がったので、そのまま不登校の状態が続いていた。

「本題を述べます」
「はい、なに いきなり?」
夕方昼寝をしていた(ひるね?)柊は調子が出たのかビールを片手にふんぞり返っている。
ここは、お前んちか?
「みかんを 中央小学校に転校させたいと思います。先日、教育委員会に聞いてみたんだけど、転校するのは大丈夫だって。
たまたま、教育長は 去年まで福祉部《うち》の部長だった鷹嘴さんだから、何とかうまくやってくれると思うの」
みんな、はれ物に触るように事故の話はしない。だが、ゆずの祖父母両親が無事に帰ってくる可能性はほとんどないだろうと思われる。しかい、誰のそれを口にできないでいた。
この2週間 ゆずの親戚が二人に接触した様子もないし、他人の家にいることを訝っているような様子もない。
まあ、私は他人だから 二人の親戚がどうなっているのかは知らないが、柊も何も言わない。
それは、とりもなおさず、二人を引き取るつもりの親戚がいないということだろう。
「あっそ。そうだね、みかんももうそろそろ学校に行かないと、友達もできないよね」
ビール片手にふんぞり返りながら のんきに返事をする。
はあ?何なのその返事は?一瞬ムカッとした。
「ねえ、そちらの親戚は、この事態を、どうお考えなのですか?」
「どおって、困った 大変だ って、みんな言ってるよ」
「そりゃわかってるよ。困った。大変だよ。
そうじゃなくて、二人が赤の他人の私んちにいることをだよ」
「いいところに 住むことができてよかったと思っているんじゃないの」
「いやいや、おかしいでしょう?
そりゃ、あんたは、二人の父親のいとこだから、親戚だけど、私は他人だよ。
遺産狙いじゃないのか、とか、虐待でもされていないだろうか?
とか、近い親戚なら、疑るんじゃあないの?」
「近い親戚って言っても、ゆずの父親のおねえちゃんはバンクーバーにいて、事故のあと一回こっちに来たけど、また帰っちゃったから
妹のひさちゃんは東京で洋服屋さんに勤めてるけど、一人暮らしだから、ねえ。 
母親の家族は おじいちゃんが癌でおばあちゃんはその介護で大変だから、柊さん お願いします。っていってたし、
母親の姉妹も神戸と埼玉に住んでて、俺の親戚じゃないから事情が分かんないんだけど、自分の生活が精いっぱいなんだろうからさ」
「じゃあ、二人が家にいても、平気ってことね」
「うん、オッケーグーグル」
「オッケーグーグルじゃねーしい」
「えっこのまま住んでいいんでしょう?」
はあ?こちとら、誘拐にならないかとか、二人の親の遺産を他人の私たちがとっちゃうんじゃないかとか、いろいろ言われることを想定りて、すごく心配してたんだけど、なんなの、その軽い返事は。
「いいよ、いいけど、おかしくない?
この関係。
他人様が見たら、なんだと思う?」
「仲良い 家族?」
「どう説明するの?」
「だれに?」
「世間様によ」
「世間様なんて やっかむときには非難するけど、自分より不幸だと思う人間には とても好意的だから、何にも言わないよ」
「あんたってさ」
「なに?呑気もの?」
うん、その呑気さに 救われるわ。私もあの子たちもさ。
「そんなわけで 結婚しようか?」
「この状況でいうの 最低」
「そだね」
柊はくすくすと笑い ビールの缶を口に運ぶ。つまみは お昼の残りのピーマンと肉だ。
結構な散財だったろうに 結局全部用意してくれたのだ。
「ねえさ、俺のアパートの家賃ももったいないから、住所 ここに移してもいい?」
柊は 容姿も頭もいいが、何よりもてる要因はこの人たらしな甘え上手なところだ。私にはない才能だ。
結構 もてたろうに この年まで独身なのは謎である。
まあ、今はそんな輩が大勢いるから珍しくもないが。
「柊の大学の友達でさ、弁護士さんいたよね」
「高校の友達でもいるけど」
「仲良くて 優秀なほう」
「じゃあ、高校の同級生のほう」
「ひとの気持ちが解るほう」
「高校の友達」
「その人に、たのんでよ。
二人が これから先 生きやすいように、今までと変わりない生活ができるように」
「変わりない生活は無理だろう」
「私達じゃ 親は無理だけど。
でも、せめて、お金の面とか、進学や就職するときに引け目を感じないように、私達じゃわからない法律で守ってあげたいのよ
いろいろ教えてくれる人を紹介して」
柊は俯いて笑っている。
「なによ」
「うん?いや、やっぱ クレハのそういうところ好きだわ」
「ありがと
でも 結婚はしないよ」
「えー」
そういいながら唇を尖らせる。
「それにさ、そのうち ご両親が見つかった時に 現実的な日常が目の前にあると、結構気がまぎれるからさ。
悲しいと思っても、学校に行って 受験勉強して、あったかいご飯を食べて、あったかいお風呂に入れば 少しずつだけど、気持ちもあったかくなると思うのよ、
暗くて寒い家に帰って コンビニのお弁当で 冷たい布団で寝るのは、心まで冷えていくからね。
家があればいいけど、アパートを追い出されたら どう生きていいのかわからないでしょう?」
「お前さ ホントいい女だよな」
「ありがと」
「ともかく、明日にでも弁護士に連絡するから」
「高校の同級生ね」
「うん、卒業式で答辞読んだやつだから」
「あ   そ」


















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