文化の日 その2

文字数 1,810文字

「バーベキューやったことある?」
隣で はぐはぐしながらピーマンを食べているみかんに聞くと、
「初めて」
と、満面の笑みで答える。 
「おいしい?」
と聞くと、
「わかんない」
と、笑う。
わかんない ということは?

「うちは アパートだったので、こんな風に庭でバーべキューなんてやる場所がなくって」
ゆずが申し訳なさそうに謝る。

いや、謝るな。
みかんもピーマン 美味しいわけでもないのに 笑うな。

捜索は続いている。だが、誰も見つかっていない。
この話題には誰も触れない。
こんなちいさな子どもが、お母さんともお父さんとも一言も言わない。

「ところで、この肉 グラムいくらよ」
「さあ?グラムで売ってるの?肉って」
「ぎゅうだよね。おじちゃん」
みかんが、すかさず助け舟を出す。
「そう、ぎゅうだよね、みかん」
二人して 顔を見合わせて ねー とか言っている。さっき石川精肉店に行くときに ゆずとみかんも付いていった。柊の奴、すっかり二人を味方につけていやがる。
柊 一人なら こんな贅沢しやがって この野郎。と言ってやるのだが、この二人のためにやっているのは解っているので、ただ笑った。

みかん、今度のは ぶーだよ。
「ぶー?」
みかんも一緒に 呑気に笑っている。
柊《こいつ》のこんなところに 私は憧れているのかもしれない。
「ぶー って?」
キョトンとするみかんに
「トンだよ」
ゆずが肉をほお張りながらつぶやく。ゆずは、食事が終わると洗い物はしてくれるし、受験生なのにみかんの勉強も見てくれる。まあ、みかんは今学校に行っていないから 教えてくれているのだが、ゆずの受験が心配だ。ゆずの志望校は 県内でも一番の進学校だ。私が中学の時に鶴田高校に行った同級生は 宇宙人だと思っていたほどだ。

ちなみに柊のいった入船高校は、鶴田高校には及ばないが、県内でも3本の指に入る進学校だ。
どうやら、柊一族は おりこうさんの家系らしい。 

一通りお肉と野菜を食べ終わると、みかんがニコニコ笑い目配せを始めた。
さっきから冷蔵庫のブツが気になって そわそわしているのだ。
「いいよ、持ってきて」
私が言うと、うん、と、大きくうなずいて、玄関に飛び込んでいった。
ゆずが、心配そうな顔でみかんの後姿を目で追った。
はーい、お待ちかねでーす。
みかんが得意そうに 白い皿を持ってきた。
「抹茶味のチーズケーキでーす」
「エー デザートまであるんだ」
食べ過ぎたのか、ふんぞり返ってる柊も体を起こし皿を見下ろした。
「みかんが作ったんだよね」
私が首をかしげると、うん と、嬉しそうに大きく頷いた。
「ケーキなんて、難しかっただろう?」
「おじちゃん、そうでもないよ」
「そうなのか?すごいなみかんは」
「クレハちゃんと一緒に作ったの」
「いやいや、ほとんど っていうか、全部みかんが作ったんだよ。
みかん センスがいいんだ」
「そうか、どれどれ、みかんのお手並みを拝見と行こうか」
皿に盛られたチーズケーキをパクリと口に入れた途端、
「みかん 天才。すごくおいしい」
いかにも美味そうに 柊は喜んでいる。
「簡単だよ」
みかんは 得意そうに目を丸くした。
「ゆずも食べてる?」
隣に座った ゆずを見ると、なんだか動かない。
「ゆず」
私は そっと タオルを渡した。
ゆずは それをそっと受け取ると、タオルに顔をうずめた。
泣いていたのだ。

みかんは気が付いていないのだろう。美味しそうにケーキをほお張っている。柊は知らんぷりを決め込んで、みかんに合わせて大きな口をあけながら笑っていた。

「なんだか、すみません」
ゆずはなんとか笑おうとしている。
「泣きたいときは、我慢しないほうがいいよ。
部屋に行って泣いてきな」
私の言葉にもう一度タオルを顔に当てた。
「いいんです。別に悲しいわけじゃなくって そういうんじゃないんです
なんだか、ちょっと」

みかんの笑った顔が、うれしかったのか?

「おいしいよ、みかん
今度は 何を作ろうかね」
「今度は ブラウニー」
そっか、ブラウニーか
「こんど、何時にしようか」
「今度は   」

もうそろそろ、きちんと話さなきゃいけないな。
「ねえ、柊 片付け 頑張って二人でやろうね」
柊は そだね と、ひらひらと手を振った。
わかってないのかな?

まずは、弁護士だ。
柊は有名私大の理工学部卒だ。有名私大の法学部を卒業した弁護士さんに知り合いがいるといっていた。そのどれかを紹介してもらえば。
やっとゆずがしおしおしながらも 抹茶チーズケーキを食べ始まった。
 











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