10月中旬 その2

文字数 1,133文字

「部屋は 二階を使ってね。
二階は3部屋あるから どこでも好きな部屋を使ってくれていいから」
二人は戸惑ったように 階段の入り口で突っ立っている。
「おなかすいたでしょうから、何か食べましょう。
今何か作るね。
ともかく 二階に行ってみて。
ねえ、奈呉くん。二人のことを案内してやって。
お布団も運ばなきゃならないから 早く」

奈呉 柊《なご ひいらぎ》に連れられて 櫛田 柚月《くしだ ゆづき》
と櫛田 みかんの兄妹は階段を昇って行った。
二階は時折クイックルワイパーをかける程度で ほとんど人の出入りはない部屋だ。

奈呉柊の お願い は、二人の兄妹のことだった。


「いとこ夫婦は 宇都宮の代官町に住んでいたんだけど、昨日の夜 おばさんから連絡があったらしいんだ。
かなり雨がやばいから、避難所に行きたいって。
そんでもって、いとこ夫婦が おじさん家に行ったんだけど、朝起きたら家があんなことになってたらしい。
ゆず お兄ちゃんのほうね。
ゆずに聞いたら、昨日帰ってこなかったけど、おじいちゃん家に泊まっているんだと思って、学校に行ったらしい。
ゆずは中学3年で、みかんは小学校三年 いとこの子供なんだけど、親がいないアパートに二人だけで置いておくわけにはいかなくて。
これから、宇都宮の家に二人だけ 届けるわけにはいかないしな
真っ暗な アパートにさ」
流石に 疲れた顔をしている。
「夜 アパートに泊まってやれる人間がいなくて
親戚は まあ いるっちゃいるけど、病人の面倒見てたり、近くにはいなかったり
このご時世だから、面倒までは見てやれないんだ」
「だから?」
「だからさ、二人のこと クレハんちに、泊めてくれないかな」
「ガッテム」
「てへっ」
「てへっ じゃねーよ。
あんたの話は 大体がそういう無理難題って言うか、突拍子もない話っていうか」
「いいじゃん、クレハんちは部屋だって余ってて きれいにしてるしさ
あの子たちも きれいなところで羽を休めれは 少しでも元気になると思うんだよ」
「それ、羽じゃなくて 骨だから。いや、体か?」
「いま、一杯いっぱいだろうからさ。
あったかいお風呂に入って おいしいものを食べれば いくらか気分も向上すると思うんだよね
ねっ さ。お願い。
二人の両親が見つかればさ、また、今までのアパートに戻ればいいからさ。
それまで ね」
お願い と 仏さまにでもするようにこちらに向かって手を合わせている。
「流石にここで断ったら、私も鬼畜だわ
まさか、奈呉も一緒に泊まるんでしょう?」
「えっ いいの。
やった」
やったじゃねーよ。近くで飲んでて タクシー代高いから、とか言って、人んちをホテル代わりに使ってんのは誰だよ。

しかし、それにしても、がけ崩れで生き埋めになった両親が帰ってくるまで?

それ、いつなの?




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