12月中旬 柚月

文字数 1,819文字

「今日の懇談会は3時15分よね」
朝、オムレツを口に運ぶゆずに 再度聞いた。
「はい、あの、でも
別に大丈夫ですから」
遠慮がちに顔をあげ答えた。
「私が行っちゃだめかい?
やっぱり 柊のほうがいい?」

今日はゆずの中学の二者懇談会だった。ゆずは懇談会の話をしなかったが、学校側から直接役所に電話があり 私が行くことになった。

今月最初 土砂崩れの中からゆずたちの 祖父母 父親が次々と見つかった。遺体はそのまま大学病院に運ばれ、そして二人のものに帰ってきた時にはもう骨箱に入っていた。 
形だけの家族葬が執り行われ土砂崩れの場所からさほど遠くない櫛田家の墓地に埋葬された。

母親だけが、今も行方不明だ。

今日から一週間前のことである。

学校側も事情知っているため 新しい保護者である柊と私の現状を知りたいのだろう。

葬儀のあった当日は いつものように朝食を食べ、柊の車で葬祭場に行った。私は他人のため 自宅で料理をしていた。
葬儀といっても簡単で納骨を入れても3時間もかからなかったそうだ。3人は昼には帰ってきた。

「早かったね。
夕食に餃子を食べようと思って、材料は用意しておいたんだけど、早く帰ってきたから 餃子 お昼に食べようか」
「餃子?おいしそう」
みかんは嬉しそうに手をたたいた。
「みかん 手伝ってくれる?」
「うん、手伝う手伝う」
みかんは お手伝いがうれしいのかピョンピョンはねている。
「あの、僕も手伝います」
はねているみかんの手を取り、ゆずが申し訳なさそうに呟く。
「ありがと。じゃあ すぐに食べられるように 水餃子にしちゃおうか。焼き餃子はまた後でみんなで作ろう」
「はい」
ゆずはお行儀よく頷く。私の中学3年の時には こんないい子がクラスにいただろうか?と不思議になるほどいい子だ。
「ともかく、二人とも 洋服が汚れちゃうから 着替えてきて」
はい ゆずはみかんの手を引き 二階に上がっていった。

みかんは天真爛漫な 素直な愛らしい子だ。女の子には敵を作らず、男の子もうまく従えるような、処世術をもっている。お兄ちゃんとは年が離れているせいか、皆が可愛がってくれていたのだろう。親戚といえど、あまり面識のない柊や 他人の私の懐に簡単に入り込むような なかなか侮れない女の子だ。
老若男女に好かれる。
生き抜く力が、こんな小さなうちから備わっている、将来有望な若者だ。

それに比べ、ゆずは複雑だ。

中学3年という年齢的なものや、私とは違う性別の持ち主のため、どうしても理解できない体の構造や精神状態が垣間見え、どう接することが正解なのかがわからない。
妙にいい子なのが、理解できない生き物に拍車をかける。

「俺が中学だったころと、ほとんど変わんないけど」
柊は簡単にそういうが、どうしてもゆずに対しては構えてしまう。
いや、柊が中3の時は、もっとバカだった。かばんはあるのに授業に出なくて 担任が学校中探しまわったら体育館のマットの上で寝ていた。とか、授業中 紙飛行機を飛ばしていて先生に怒られた。なんてことをしていた。
なぜ、授業中 紙飛行機を飛ばしたいのだろう?
それもわからないし、それを見てキャッキャ喜んでいるのもわからなかった。
女子から見れば、ただのガキだ。

ゆずは いつも みかんの手を引いている。小さなみかんを案じてのことだと思っていたが、最近は ゆず自身が不安に駆られ妹の手を離せないのだろうか? そんな雰囲気を感じる。

まあ、今まで、両親の元 普通に生きていたのに、突然兄弟二人になってしまった。仕方ないか。きっと、今、自分たちが世界で不幸な人 50人に入るくらい不幸だと思っているのだろう。
そうだよね。

水餃子は 焼き餃子と違って作り方も簡単だ。
ギャザーを寄せなくてすむからだ。
「ねえ、ゆず テーブルの上にサランラップひいて。その上に餃子の皮を並べて」
ゆずがラップを弾くと、みかんが餃子の皮をランダムに並べた。
「そこに この具をスプーンでいっぱい乗っけてね」
ゆずが乗せてみかんがパタンと閉じる。スープはニンジン 白菜 干しシイタケを戻した汁もいれ鶏がらスープの素を入れ醤油を少し入れたもので おかずと汁物にしてしまうという一石二鳥の優れものだ。

「みんなで作ると、美味しいね」
「うん、美味しい」
みかんはいつもと変りなくふるまっている。それがいいことなのか、悪いことなのか今はわからないが 少しでも平穏な気持ちでいてくれればいいと思っている。


                 








 
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