第10話

文字数 960文字

 怖かった、冗談真に受けて嬉しくなって。
 一緒にいると楽しくて、笑顔が優しくて。
 会えて嬉しかった、とか。
 お土産嬉しかった、とか。
 会えなくて、本当はずっと寂しかった、とか。
 溢れ出そうな想いが私ばかり高まってくみたいで。
 そんな私の気持ちなんかきっともうわかってるくせに。 
 からかわないでよ。 
 足を止めて振り返るとさっきのところでクロくんは困ったように私を見送ってて。
 見つめ合うと泣きそうな顔で笑う。
 そんな顔されると私の方が泣きそうになるわ。
 言わなきゃ、これでもうお終いなのかもしれない。
 あの時みたいに自分から全部手放しちゃう?
 そんなの、もう。

「クロくん!!」

 呼びかけると私の次の言葉をただじっと待ってて。

「連絡先、教えてもらってもいい?」
「オレの?」

 頷くと駆け寄ってくる、嬉しそうに。
 LINE交換してから、それからね。

「金曜日、バイト先行っていい?」 
「勿論っす!」
「後さ、またどこかに行く時は教えて、心配に、なるから」 
「心配しててくれたのっ?!」

 そりゃ、一応ね、とぶっきらぼうに頷くと。

「センパイー!!! めっちゃ会いたかったー!!」

 腕の中ギュウっと包みこまれた。
 もがく私の首筋にあたる微熱。
 んん、これって!!

「そういえば、この間もっ!!」
「あは、キスマーク? 気付いた?」
「冗談でしていいもんじゃないんだからね!!!」
「当たり前っすよ、いつだって本気だし」
「……」
「、そのつもりでアプローチしてたんすけど」
「……、本気にしちゃうよ?」 

 私そんな軽くないんだから。
 見上げた先でクスリと余裕ぶって笑ってる顔が何だか悔しいのに。

「本気だって言ってんでしょ」

 落ちてくるキスは瞼に頬に、唇に優しく。

「好きです、彩未センパイのこと。もう、言わずに諦めんの嫌だった」

 悪びれずに笑うクロくんに。
 言わずに諦めるのは嫌。
 それは私と全く同じだよ!
 どう返事したら正解なのかわからないけれど。

「帰ろ」

 と、手を差し出してみた。

「んーーっ、帰んの勿体無い!! けど、手繋ぎたいから帰るっ!」

 嬉しそうに私の手を握り、もう一度少しだけキスして歩き出す彼の横顔が。
 満面の笑みを浮かべていたから。
 それがくすぐったくて嬉しくなってしまう。
 ああ、この気持ちはね、そう。

 キミとの恋は不可避。 


【完】
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み