第7話

文字数 1,246文字

「彩未センパイ」

 見下ろす視線に目をそらせないままでいると。
 そっと近づいてきて、一つ、キス。

「んーな顔されたら、止まりませんってば」

 クスリと細めた目が色づいてて、吐息すら熱を帯びているようで。
 クラリとして目を閉じた。
 私が逃げないように、と頭の後ろに手を添えられてさっきのような触れるだけではない、長くじれったくなるようなキスに。
 置いていかれてしまいそうな気分になって、彼にしがみつく。
 こんな甘くて熱いのなんて、

ないかも、



 
「え」

 ガバリと起き上がって見回すと自分の部屋で。
 クロくんを探してみたけどいない。
 いや、人がいる気配も誰かを部屋に通した気配すらも。
 わーーーーーーー!!! 
 ちょ、待てよ、わーーーーーー!!!
 ヤバイヤバイヤバイ!!!
 今の何?!
 夢? 夢だ!!!
 昨日は電車まで一緒でそんで普通に。
 じゃあね、またね、で別れた、はず。
 うん、そこまでは私酔っ払ってなかったもん、ちゃんと覚えてる、はず?
 だったらなに?! さっきの!!!
 欲求不満?! 願望?!
 だとしたらとんでもない、私クロくんに欲情したの?!
 あああああ、ごめんなさい、クロくん!!
 まるでクロくんを汚してしまったような気分でいたたまれない。
 火照る顔を洗おうと洗面台に立ってから。
 夢の理由がそこにあるのを思い出す。

 あれ? もうすぐ終電じゃない?
 なんて気付いて手を繋いだまんま走って電車に滑り込む。
 二人ともゼイハアしながらも間に合ったことにホッとした。

「走ったら酔い回っちゃった」

 口元を抑えるクロくんに冷たい視線を向けると。

「嘘です、嘘、でも気持ちよく酔ってる」

 と私をドアに寄りかからせながら自分は向かい合うように立って真正面から向き合うと何か恥ずかしくなるんだけど。
 だってずっと見てるじゃん!!
 しばらく地元の事や仕事の事や話してても落ち着かないのはクロくんの視線だ。
 目を細めて嬉しそうな顔で私を見つめていて。

「夢みたい」 
「ん?」
「彩未センパイと飲んだ!!」 
「何それ、大袈裟」

 酔ってるなーと笑い飛ばさないと恥ずかしくなるじゃないの。
 なのにクロくんは色っぽくニッと笑って私の頬にかかった髪の毛を撫でるように取り除いて。

「本当はユウキよりオレのが先に彩未センパイのこと好きだったの知らないでしょ」

 言うなり私の肩に頭を乗せて。

「やーーっと、言えた」

 首筋にかかるクロくんの吐息と体温とチリっと感じた痛み。

「っ、ん」

 むず痒いような熱いそれにピクンと身体が反応した。 
 今のなに?
 考えてる私の耳に届いたのは。
 降りる駅に停車する知らせ。

「今日はありがと、気をつけて帰ってね」

 クロくんの顔を見ることなく背中を向けて逃げるように歩き出した。

「彩未センパイ、また!! またね!」

 その声から逃げるように早足で。

 チリっとした痛みの理由が首筋に残っていた。
 赤い小さなハート型の跡。
 クロくんのせいじゃん!!!
 なぞったハートに全部思い出して私の顔は赤かった。
 純情か!!
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