第8話

文字数 834文字

 社会人にもなってキスマークを絆創膏で隠すなんて恥ずかしすぎる、という自論に乗っ取り、肩凝りなのでピップエレキバンてどうよ。
 ものすごいオバサンくさいね、泣きそう。
 次に彼に会ったらどんな顔したらいいのか。
 というか私が逃げる必要、ないよね?
 別に悪いことしてるわけじゃないし。
 大体どんなつもりでこんなことしたのよ?
 好きだった、て言ってたけど。
 過去形でしょ、現在進行形ではない。
 例えその話が本当だったとしてだ。
 合意なくこれはダメだろう、うん、絶対ダメ。
 ならば、してもいい?と聞かれたら断っただろうか。
 ボッと顔が火照ったのを感じてデスクに突っ伏した私の肩を同僚がポンと叩いて。

「お疲れよ、早めに帰りな」

 気の毒そうにそう促された月曜日。
 きっと彼は今夜はバイト。

 
 ピップエレキバン二日目、朝確認したら大分薄くはなっていて明日には外しても良いだろう。
 今日はノー残業デー。
 会ってしまう可能性が高い日。
 ちょ、待て、何緊張してる? 自分。
 この間はどうも、でお辞儀して通り過ぎる、うん、これでいこう。
 珍しく帰りに化粧直してる、待って。
 何で直してるのよ?!


 三日目ピップエレキバンは外した。
 少し赤いのはかぶれた、で誤魔化せるレベル。
 昨日の帰り道、クロくんを見かけた。
 少し前を歩くクロくんは前に見たときのように女の子たちに囲まれていて。
 生徒さんたちなんだろうけれどクロくんが好きなのかもな。
 嬉しそうにクロくんの顔を見上げながら腕を掴む子や反対側でもクロくんの気を引こうと腕に絡まる子。
 何だか見てられなくて。

「忘れ物したかも」

 なんて小さく呟いて踵を返して会社に戻る。
 忘れ物なんかなかったけどね。
 今日は水曜日、クロくんはバイト。
 明日は木曜日、私は営業さんについて他社訪問直帰。
 金曜日はどうしよか、久しぶりに髪でも切りに行こう、鈴木さん予約埋まってないかな? 


 そうして気づいたら3週間、会えてない。
 そんな、もんよね。
 前に戻っただけだ。
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