第15話 日の出

文字数 1,300文字

 この里に来てはや数日が経った。予想していたこととはいえ、風車の建設継続の話は、里からの反発が大きかった。当然のことだ。建設継続は、里の都合ではない。国の都合だ。無理やり継続させることで、里の人々はしばらく苦しい生活を強いられる。しかし、風車を造り、この土地をもっと豊かにしなくては、更に多くの人が飢え苦しむことになる。誰かが里に負担を押し付けるこの汚れ役を担わなければならない。
 ブルドゥは大きな溜息をついて、目の前にあった大きな岩に腰掛けた。腰掛けて、やがて日が昇る里を見下ろした。
―朝日はきっと美しい。この国を、この地を美しいと思えなければ、王などという務めは、ただ辛いだけのものだよ―
 自分は王ほど、背負うものはないし、まだまだ気楽な立場に違いない。それでも、こうして里に無理を強いるのは辛い。こんな役目辞めてしまいたい。何度思ったことか。
 だが、故郷においても、この地においても、朝日はとても美しい。守らねばならぬと確かに思うのだ。
 先日、この話を里の娘にした時に気がついたことがある。先王が旅先で日の出を見に出かけると言う話は、やはり、王としての真の言葉だったのではないか。そう思えてならない。ただ単に、王の責務は辛いと言う、そういう話ではない。この地の美しさを、地に暮らす人々の尊さを知る人を育てたい、目の前にいた私に伝えたい、そういう思いだったのではないか。少なくとも、私はそういう思いで、彼女に話をした。彼女の純粋で真っ直ぐな目を見ていると、なぜか、国を憂う心を知って欲しいと思ってしまったのだ。気恥ずかしさから、咄嗟に里人に言うなと言ってしまったが、せめて彼女には、いつかこの思いが伝わるとありがたい。
 ああ、つい今日もまた朝日を見に来てしまった。
山の端から、光が差し込み始めた。
 と、ふと、背後に鋭い気配を感じた。知った若者の気配だった。
 突然、首筋に冷ややかなものが押し付けられ、若者が叫んだ。
「ブルドゥ殿とお見受けする。私は、この里で生まれたイズリという者だ。私をこの里から連れ出せ。連れ出さなければ、今ここで、おまえの首を掻き切る」
 ブルドゥは、彼女が何をしに来たか気がついて、くくと笑った。今や見ることのない随分と古い慣習だ。なんと気の強い娘であるか。その激しさは、時に諸刃の剣ともなるが、そういう若さゆえの激しさは嫌いでない。
 彼女は、国の未来などといった、何かそんな大きなものを考えてここに来たわけではないはずだ。なぜ己を選んだのかもわからない。だが、ブルドゥはそれでも自分を選んだこの娘に己の全てを伝えたいと思った。
 ブルドゥは静かに言った。
「弟子入りを望むのだろう。そんな礼儀知らずな頼み方があるか」
 イズリは短刀を鞘に収め、脇に置くと、地面に膝をつけ、頭を下げて言った。
「どうぞ、弟子にしてください。私の知らない世界を見てみたいのです」
 ブルドゥは一つ頷いた。

 その後ブルドゥは、イズリを連れて、親戚一同、里の幹部と、方々に挨拶をしてまわり、イズリを正式に弟子に取った。
 その合間を縫って、イズリはマルフと二人で話をする時間を設け、それから、イズリは旅立った。
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