第5話 女の子、男の子、燕尾服の男(黒猫)

文字数 888文字

 市街地に近づき、かなり込み合いだしたので、二人は裏通りに抜けることにした。
へえ、こんなところに神社があったんだ。
私も知らなかった。こっちにはあまり来ないから。
 神社の階段を上ると、境内に一人の男がいて、二人の方を向いて立っていた。
(なんなの、うそでしょ。)
 男は黒い燕尾服に白い手袋をして、黒いシルクハットをかぶって、黒いステッキを持っていた。
(なんでこんな夏の夜の神社に、こんな怪しげなマジシャンみたいな人がいるの?)
やあ、こんばんは。
 その男はにこやかに笑ってシルクハットを脱いで二人に挨拶をした。
こんばんは。
(誰?)
先ほど、君たちを見かけてね。ヒロシ君、ずいぶん久しぶりだね。
ええ、こっちに帰ってきたのは5年ぶりくらいです。
ユカリちゃんも元気になって良かったね。

(え、何のこと、何のこと。私のこと、知っているの。ヒロシ君の知り合いだから?)

ええ、おかげさまで。

二人に会えるとは本当に懐かしい。嬉しいよ。それではお祭りを楽しんで。
 そして空を見上げ、鼻をピクピク動かして、こう続けた。
もう少ししたら雨が降ってくるから。傘を買っておいた方がいいよ。
ああ、ありがとうございます。
それでは、また、いつかお会いしましょう。
 男は二人に言って、丁寧にお辞儀をした。そして、器用にシルクハットをくるりと回して頭に乗せた。
(クルリンパ。)
 男は楽しそうにステッキをクルクル回しながら、神社の裏に歩いていった。
あの男の人、誰だっけ?
はあ?知らないよお。ヒロシ君の知り合いでしょ。
うーん、どこかで会った気がするんだけれど、思い出せないんだよね。
あなたの名前を知ってたから、絶対あなたの知り合いでしょ。
でも、ユカリちゃんの名前も知ってたでしょ。
確かにそうだけど、私、あんな怪しいマジシャンみたいな男の人、知らないよ。
でも、元気になって良かったねって。
うん。そうね。それは謎ね。
僕の知っている限り、君が元気じゃない時なんてあったっけ。
ちょっと、なんでにやけてるのよ。完全にバカにしてるでしょ。
 その時、二人のおでこに雨粒が当たった。二人は同時に空を見上げた。ポツリポツリと雨が降り出していた。
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登場人物紹介

ユカリ

18歳

女子高生

159cm

合唱部

好きな飲み物:ロイヤルミルクティー

ヒロシ

17歳

男子高生

179cm

柔道部

好きな飲み物:コーヒー

ユカリの母親

お祭りに行く途中で出会った男の子

お祭りに行く途中で出会った女の子

ヒバリ

ユカリの高校の合唱部の後輩

ソプラノのパートリーダー

ミソラ

ユカリの高校の合唱部の後輩

メゾソプラノのパートリーダー


燕尾服の男(黒猫)

ユカリ

10歳

ヒロシ

9歳

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