第1話 女の子、男の子、女の子の母親、小さい女の子、小さい男の子
文字数 1,381文字
1階から母親の呼ぶ声が聞こえた。
ユカリは姿見に写る自分の姿を再度眺めた。白地に色とりどりの花火がデザインされた浴衣を着た女の子が映っている。さっきまではとても可愛く見えた気がしたのに、今、映っている女の子はなんだか少し不安そうであまり可愛く見えない。
ふうっとため息をつき、浴衣の襟を触ってみて、つぶやく。
ユカリは自分の部屋を出て階段を下り、玄関に向かった。
玄関では母親がユカリと同じ高校三年生の男の子に話しかけている。
ユカリは、母親から玄関に立っている男の子に目を向け、睨みつけるようにキッと見つめて、
玄関を出ると、夕暮れの中を遠くの方からお祭りのお囃子の音が聞こえてきた。
二人は駅の方角に向かって黙ってゆっくり歩き出した。駅に近づくにつれ、浴衣を着ている人が増えてくる。みんなお祭りに行くのだろう。
路地を曲がったところで、ある家族に出会った。若い父親と母親、そして二人の子供。小学生の男の子ともっと小さい女の子。二人とも浴衣を着ている。男の子は青地にお神輿の絵の柄、女の子は白地に金魚の絵の柄の浴衣だ。
ユカリとヒロシが、その子たちを追い越し通り過ぎる時に、女の子が男の子に尋ねるのが聞こえた。
あの女の子は何を食べるのかなあとユカリは想像した。そして、もしあの子が私に「何を食べるの?」と尋ねてくれたら、なんと答えようかと考えた。焼きそば、リンゴ飴、お好み焼き、チョコバナナ、ベビーカステラ。
ああ、危なかった。同じこと考えてる。やれやれ、変なの。ふふふ、おかしいな。
ユカリは左手に下げていた巾着袋の中からサクマ式ドロップを取り出した。そして蓋を取り、カラカラと振ってからドロップを掌に二つだした。イチゴとハッカが出た。ユカリはイチゴを自分の口に入れ、ハッカをヒロシに渡した。
私だって覚えてるけどね、とユカリは思った。
お祭りのお囃子の音が徐々に大きくなってきた。