第4話 冷酷王子の納得
文字数 2,201文字
「なんだ。お前、また来たのか?」
突然、背後から聞き覚えのある声がして、わたしの身体に電流が走った。それは間違いなく、昨日この場所で出会った彼の声だった。心臓が一瞬にして高鳴り、おそるおそる振り返ると、彼の美しくも冷たい瞳が鋭く見下ろしていた。それでも、わたしは勇気を振り絞って答えた。
「もうすぐここを発つから、その前にもう一度この景色を見たいって思っただけよ」
愛想なく答えながらも、心の中では彼にどんな風に思われているか気になっていた。
「ふーん……」
彼の冷ややかな言葉に、わたしの胸はぎゅっと締め付けられる。彼の言葉が、まるで冷たく抉るような感触を与え、心の奥で何かが引き裂かれるような錯覚を覚えた。
(どうしよう……。なにか言わなきゃ。でも、どう言えばいいんだろう……)
心の中で呟きながら、ただ彼の瞳の奥に隠された何かを探ろうと、じっと見つめるしかできなかった。
その時、彼がふっと視線をそらし、目を細めてわたしの肩越しに夕陽を見つめた。
「まあ、この時間帯は特別だからな。わからなくもない」
初めて彼の口から出た柔らかな言葉に、わたしはドキッとした。
気まずさと安堵が入り混じる中で、わたしは彼と沈む夕陽を見つめながら無言の時間を共有していた。そして、彼の横顔を盗み見ながら、その冷淡な表情の裏にあるものを探ろうと、思い切って尋ねかけてみることにした。
「少しあなたに訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
わたしは少し緊張しながら問い掛けた。心の中でドキドキしながらも、彼がどう反応するか不安でいっぱいだった。
彼は眉をひそめ、わたしをじっと見つめた。その瞳には一瞬の驚きが浮かび、少し警戒心も感じられた。
「別にかまわんが……」
「ここにはよく来るの?」
「ああ、天気が悪くない限り、だいたい毎日な」
「毎日? どうして?」
わたしは彼の言葉に興味を持ちながら、彼を見つめた。彼の瞳は神秘的で、その表情がどこか孤独で美しいものに見えた。心の奥で彼の心の内側を探りたくなる自分がいた。
「ここで夕日を眺めていると、少しだけ心が休まる。冷静になって物事を考えるには、最適な場所だ」
その言葉には、何か深い意味や感情が込められているようで、どうしてなのか、もっと彼の心の奥底に触れたくてたまらない自分がいた。
そして、私はこの場所を探していた理由を、彼にちゃんと伝えたかった。
「質問に答えてくれて、ありがとう。かわりにといったらなんだけど、わたしがここに来た本当の理由。あなたにとっては、くだらないことなのかもしれないけれど、聞いてもらえる?」
彼は驚いたようにわたしの方を見て、黙って頷きその言葉を待った。
「わたしが夢で見た場所を探していたのは、自分の中で一つの区切りをつけるためだったんだ。実は、一年くらい前にちょっとした事故に遭ってしまって、雷が私の頭に落ちたの……」
わたしは、不自由でおぼつかない左手で、左の額の上あたりを触れた。触れた瞬間に、消えない痛みと、過去の傷が蘇るような感覚があった。涙が出そうになるのを必死にこらえながら、わたしは続けた。
「たまたま運が良くて助かったんだけど、いろいろとね、だめになっちゃったんだ……。せっかく志望校に受かったのに、ずっと行けなくて、留年しちゃって、結局この春からまたやり直し」
震える左手のひらを見つめながら、わたしは心の中で自分を励まそうとした。
「それから、変な夢を見るようになってしまって……。それがこの場所とよく似た景色で、そこには一人の髪の長い女の子がベンチに座っていて、とても悲しそうに泣いていた……。最初はただの夢だと思っていたんだけど、毎晩のように繰り返し夢に出てきて……。だから、もし同じような景色に出会えたなら、それで納得して前に進めるんじゃないかって。きっと前を向いて生きていける何かが見つかるんじゃないかって思ったんだ……」
言葉が溢れて涙がこぼれそうになりながらも、わたしは自分の思いを伝え続けた。彼が黙って話を聞いてくれることだけが幸いだった。彼の反応によって、自分がどう変わるのか、どう感じるのかが気になっていた。
長い沈黙の後、彼は静かに答えた。
「そうか……認めよう。少なくとも、お前にはここに来るべき確かな理由があった」
その言葉にわたしは驚き、深い安堵で胸がいっぱいになった。彼の言葉が、わたしの心の重荷を少し軽くしてくれたように感じた。
「あ、ありがとう……」
そう答えるのが精一杯だったけれど、肩の力が抜け、心のもやもやが消えていくような気がした。彼から一応の理解を得られたことで、心からほっとし、深く息をついた。わだかまりを残してこの地を去るのは避けたかったから。
沈黙の中で、わたしたちは言葉を交わさずに夕日を見つめ続けた。彼の横顔は昨日とは違い、穏やかで落ち着いた表情をしていた。夕日が彼の顔を優しく包み込み、その美しさをより一層引き立てていた。
「そうだ、まだ名前聞いてなかったね。わたしの名前は……」
わたしが言いかけたところで、彼は夕日を見つめながら静かに口を開いた。
「俺の名は、弓鶴」
その名前を聞いた瞬間、わたしの心に一筋の光が差し込んだような気がした。彼の名前の美しさと秘められた神秘的な雰囲気が、わたしの心に何かを呼び起こした。
「ゆづるくん、か……いい名前だね」
わたしは思わず言葉を漏らした。
突然、背後から聞き覚えのある声がして、わたしの身体に電流が走った。それは間違いなく、昨日この場所で出会った彼の声だった。心臓が一瞬にして高鳴り、おそるおそる振り返ると、彼の美しくも冷たい瞳が鋭く見下ろしていた。それでも、わたしは勇気を振り絞って答えた。
「もうすぐここを発つから、その前にもう一度この景色を見たいって思っただけよ」
愛想なく答えながらも、心の中では彼にどんな風に思われているか気になっていた。
「ふーん……」
彼の冷ややかな言葉に、わたしの胸はぎゅっと締め付けられる。彼の言葉が、まるで冷たく抉るような感触を与え、心の奥で何かが引き裂かれるような錯覚を覚えた。
(どうしよう……。なにか言わなきゃ。でも、どう言えばいいんだろう……)
心の中で呟きながら、ただ彼の瞳の奥に隠された何かを探ろうと、じっと見つめるしかできなかった。
その時、彼がふっと視線をそらし、目を細めてわたしの肩越しに夕陽を見つめた。
「まあ、この時間帯は特別だからな。わからなくもない」
初めて彼の口から出た柔らかな言葉に、わたしはドキッとした。
気まずさと安堵が入り混じる中で、わたしは彼と沈む夕陽を見つめながら無言の時間を共有していた。そして、彼の横顔を盗み見ながら、その冷淡な表情の裏にあるものを探ろうと、思い切って尋ねかけてみることにした。
「少しあなたに訊きたいことがあるんだけど、いいかな?」
わたしは少し緊張しながら問い掛けた。心の中でドキドキしながらも、彼がどう反応するか不安でいっぱいだった。
彼は眉をひそめ、わたしをじっと見つめた。その瞳には一瞬の驚きが浮かび、少し警戒心も感じられた。
「別にかまわんが……」
「ここにはよく来るの?」
「ああ、天気が悪くない限り、だいたい毎日な」
「毎日? どうして?」
わたしは彼の言葉に興味を持ちながら、彼を見つめた。彼の瞳は神秘的で、その表情がどこか孤独で美しいものに見えた。心の奥で彼の心の内側を探りたくなる自分がいた。
「ここで夕日を眺めていると、少しだけ心が休まる。冷静になって物事を考えるには、最適な場所だ」
その言葉には、何か深い意味や感情が込められているようで、どうしてなのか、もっと彼の心の奥底に触れたくてたまらない自分がいた。
そして、私はこの場所を探していた理由を、彼にちゃんと伝えたかった。
「質問に答えてくれて、ありがとう。かわりにといったらなんだけど、わたしがここに来た本当の理由。あなたにとっては、くだらないことなのかもしれないけれど、聞いてもらえる?」
彼は驚いたようにわたしの方を見て、黙って頷きその言葉を待った。
「わたしが夢で見た場所を探していたのは、自分の中で一つの区切りをつけるためだったんだ。実は、一年くらい前にちょっとした事故に遭ってしまって、雷が私の頭に落ちたの……」
わたしは、不自由でおぼつかない左手で、左の額の上あたりを触れた。触れた瞬間に、消えない痛みと、過去の傷が蘇るような感覚があった。涙が出そうになるのを必死にこらえながら、わたしは続けた。
「たまたま運が良くて助かったんだけど、いろいろとね、だめになっちゃったんだ……。せっかく志望校に受かったのに、ずっと行けなくて、留年しちゃって、結局この春からまたやり直し」
震える左手のひらを見つめながら、わたしは心の中で自分を励まそうとした。
「それから、変な夢を見るようになってしまって……。それがこの場所とよく似た景色で、そこには一人の髪の長い女の子がベンチに座っていて、とても悲しそうに泣いていた……。最初はただの夢だと思っていたんだけど、毎晩のように繰り返し夢に出てきて……。だから、もし同じような景色に出会えたなら、それで納得して前に進めるんじゃないかって。きっと前を向いて生きていける何かが見つかるんじゃないかって思ったんだ……」
言葉が溢れて涙がこぼれそうになりながらも、わたしは自分の思いを伝え続けた。彼が黙って話を聞いてくれることだけが幸いだった。彼の反応によって、自分がどう変わるのか、どう感じるのかが気になっていた。
長い沈黙の後、彼は静かに答えた。
「そうか……認めよう。少なくとも、お前にはここに来るべき確かな理由があった」
その言葉にわたしは驚き、深い安堵で胸がいっぱいになった。彼の言葉が、わたしの心の重荷を少し軽くしてくれたように感じた。
「あ、ありがとう……」
そう答えるのが精一杯だったけれど、肩の力が抜け、心のもやもやが消えていくような気がした。彼から一応の理解を得られたことで、心からほっとし、深く息をついた。わだかまりを残してこの地を去るのは避けたかったから。
沈黙の中で、わたしたちは言葉を交わさずに夕日を見つめ続けた。彼の横顔は昨日とは違い、穏やかで落ち着いた表情をしていた。夕日が彼の顔を優しく包み込み、その美しさをより一層引き立てていた。
「そうだ、まだ名前聞いてなかったね。わたしの名前は……」
わたしが言いかけたところで、彼は夕日を見つめながら静かに口を開いた。
「俺の名は、弓鶴」
その名前を聞いた瞬間、わたしの心に一筋の光が差し込んだような気がした。彼の名前の美しさと秘められた神秘的な雰囲気が、わたしの心に何かを呼び起こした。
「ゆづるくん、か……いい名前だね」
わたしは思わず言葉を漏らした。