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文字数 698文字

 劇団事務所への「出勤」中に、電車の中で、買った覚えが無いのに枕元に有った文庫本を読む。
 この小説とは違い、現実は、まだ、人類滅亡には程遠い。
 だが……。
 二年前から流行している2つの病気。
 1つは新種の肺炎球菌。
 抗生物質への耐性を持ち、ワクチンは開発されたが……こちらも効き目は薄い。
 もう1つは、感染経路さえまだ良く判っていないウイルス性の脳炎。
 こちらは次々と新しい変異株が生まれ続け、新しいワクチンが作られて、ほんの2〜3ヶ月で、そのワクチンがあまり効力を上げなくなるような状況らしい。
 電車の中は、かつてより人が少なく、その大半がマスクをしている。
 老人と子供が特に重症化しやすいらしく……ただでさえ少子化が問題になっている日本は、この状況が十年続けば……「次の世代」そのものが無くなる事さえ懸念されている……そうだ。
 どちらの病気も治っても重大な後遺症が残るらしく、ただでさえ少ない子供達は、体か脳に障害を持つ者の割合が、他の世代より大幅に多くなる……らしい。
 だが……どう考えても遠い将来ではない俺が死ぬ頃には、日本の未来は完全に断たれるとしても、日常は淡々と続いていた。
 そして……山の手線への乗り換え駅に着き、地下鉄へ乗り換え……。
 今日は、劇団の裏方への安全指導だった。
 かつて、親友を撮影中の事故で亡くしてから、安全関係の公的資格をいくつも取った。
 多分、工場勤めなら、安全管理責任者になれていただろう。
 俺は、この日の午前中、かつて自分で作った安全手順が、何故、このような内容になっているかを説明し……そして、午後からは、実地で作業をしながらの説明をする事になっていた。
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