第3話

文字数 575文字

 今までの僕からしたら、そんな表現豊かな明るい女性はどちらかというと苦手だったのに、何故か彼女に対しては抵抗もなく話をする事が出来た。だからそのせいで有頂天になっていたのか、その後、何を話したのか、あまり覚えていないけれど、僕のその日の息抜きはそれまでの最長記録となり、閉館まで続いた事だけは確かだった。彼女の口調は端的で心なしかぶっきらぼうなのは、最初に聞いたときと同じで、あまり飾る言葉は使わないけれど、逆にそれが彼女の素の部分を表現しているように思えて、僕もそれにつられるように、初対面にかかわらず、普段着のままの言葉で話した。そして彼女の話すときの仕草だけは妙に記憶に残っていて、僕が何か言う度に、その内容が面白くも何ともないのに彼女は左手で口元を押えて、「フフッ」と両肩を少しだけ上げて笑っていたのが印象的だった。確か、また星の話になったときだ。僕が明けの明星が水星か金星か、はたまた火星かも知らない事を打明け、彼女がそれにつられて10回目に「フフッ」と笑った後、僕から視線をずらし右手の人差し指で指差した。アッチ、アッチと手を動かして僕の視線を促し、彼女はとっておきの事を教えてくれるかのように僕に言った。
「本物もいいよ」
 その指差す先にあったのは掲示板で、その中に貼ってある1枚のポスターが『天体観測会』というロゴを光らせていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み