十
文字数 1,474文字
東京へ帰った私は、間もなくして彼と婚約しました。考えすぎかもしれませんが、彼が美雪さんのような運命を辿ったら、取り返しがつかない。彼がいなくなったら、私も美雪さんを失った叔父のようになってしまう。私は彼を心から愛している。そのことにようやく気づいたのです。平凡でも優しければ、それでいい。あの山本さんのように。
婚約直後のある日、私は彼の自宅で夕食をともにしました。料理はいつも一緒につくります。その日は彼の好物のマカロニグラタンでした。細かく切ったブロッコリーを彩りよく散りばめました。
食事を終えた後、私は叔父と美雪さんのことを話しはじめました。途中で涙がこみあげ言葉につまると、彼も一緒になって泣いてくれました。私を抱き寄せ、自分たちは幸せになろうと優しく言ってくれました。私は彼の温かい胸のなかで泣きつづけていました。
「叔父さんは美雪さんのもとへゆけたのかしら。美雪さんは叔父さんを温かく迎えてくれたのかしら」
私は顔をあげ、心配そうに尋ねました。
「もちろんさ。叔父さんは亡くなる前からずっと、死んだ美雪さんと心を通わせていたんだと思うよ。最後の日記をつけた夜まで、確信が持てなかったんだろうけどね」
「愛は時空を貫くのね」
「ああ、そうに違いないよ。どんなに離れていても、どんなに隔てられていても、互いの想いは通じ合うのさ。時空さえも超えてゆくんだ」
彼の口調は力強く、目は輝いていました。私は彼の言葉を心から信じました。私の胸は高鳴っていました。
彼はいつになく饒舌でした。
「我々人間は三次元の空間と一次元の時間の世界に生きている。しかし、それが世界のすべてではないんだ。人間にはそれしか認識できないだけなんだよ。普通はね。世界は実は十次元あるいは十一次元からなっているとも言われている。そこではきっと、誰もがある意味、超越的な存在になっているんだと思うよ。死後においてもね」
「死んだら星になるって、そういうことを言っているじゃないかしら」
私は声を弾ませていました。
「そうだね。だからきっと、死んで星になっても、互いの想いは、それぞれの放つ光を交わらせながら通い合っているのさ。永遠にね」
「美雪さんと叔父さんもそうなのね」
「きっと、そうさ」
「なんて素敵なことなのかしら」
私はうっとりとしていたように思います。しかしそれも束の間でした。少年を想うと、また悲しくなり、泣きだしていました。
私は涙ながらに少年のことを話しました。少年が亡くなったと聞くと、彼もまた涙を零していました。
「惨すぎるよ」
彼はやり場のない怒りを感じているようでした。しかししばらくすると、落ち着きを取り戻し、はっきりした口調でまた話しだしました。
「叔父さんも少年も、迫りくる自らの死をどこかで感じていたのかもしれない。しかも叔父さんには子供がなく、少年は父親を知らない。それで引き寄せ合ったんじゃないかな。二人は出会うべくして出会った。そして少年は、叔父さんを美雪さんのもとへ導いたんだ。天使と呼ぶか菩薩と呼ぶかはともかく、そういった類いの超越的な存在になりえていたんだと思うよ」
「そしてそのまま、少年も星になったのね」
「そうさ。星となってお母さんを照らし、見守っているんだ。お母さんを守るって、叔父さんと約束した。お母さんにも誓ったんだから」
「きっと、そうね」
私はふたたび彼の胸に顔をうずめました。心と身体で通い合いたかったのだと思います。彼の温もりに包まれながら、私はそれまで味わったことのないような確かな愛を感じていました。
婚約直後のある日、私は彼の自宅で夕食をともにしました。料理はいつも一緒につくります。その日は彼の好物のマカロニグラタンでした。細かく切ったブロッコリーを彩りよく散りばめました。
食事を終えた後、私は叔父と美雪さんのことを話しはじめました。途中で涙がこみあげ言葉につまると、彼も一緒になって泣いてくれました。私を抱き寄せ、自分たちは幸せになろうと優しく言ってくれました。私は彼の温かい胸のなかで泣きつづけていました。
「叔父さんは美雪さんのもとへゆけたのかしら。美雪さんは叔父さんを温かく迎えてくれたのかしら」
私は顔をあげ、心配そうに尋ねました。
「もちろんさ。叔父さんは亡くなる前からずっと、死んだ美雪さんと心を通わせていたんだと思うよ。最後の日記をつけた夜まで、確信が持てなかったんだろうけどね」
「愛は時空を貫くのね」
「ああ、そうに違いないよ。どんなに離れていても、どんなに隔てられていても、互いの想いは通じ合うのさ。時空さえも超えてゆくんだ」
彼の口調は力強く、目は輝いていました。私は彼の言葉を心から信じました。私の胸は高鳴っていました。
彼はいつになく饒舌でした。
「我々人間は三次元の空間と一次元の時間の世界に生きている。しかし、それが世界のすべてではないんだ。人間にはそれしか認識できないだけなんだよ。普通はね。世界は実は十次元あるいは十一次元からなっているとも言われている。そこではきっと、誰もがある意味、超越的な存在になっているんだと思うよ。死後においてもね」
「死んだら星になるって、そういうことを言っているじゃないかしら」
私は声を弾ませていました。
「そうだね。だからきっと、死んで星になっても、互いの想いは、それぞれの放つ光を交わらせながら通い合っているのさ。永遠にね」
「美雪さんと叔父さんもそうなのね」
「きっと、そうさ」
「なんて素敵なことなのかしら」
私はうっとりとしていたように思います。しかしそれも束の間でした。少年を想うと、また悲しくなり、泣きだしていました。
私は涙ながらに少年のことを話しました。少年が亡くなったと聞くと、彼もまた涙を零していました。
「惨すぎるよ」
彼はやり場のない怒りを感じているようでした。しかししばらくすると、落ち着きを取り戻し、はっきりした口調でまた話しだしました。
「叔父さんも少年も、迫りくる自らの死をどこかで感じていたのかもしれない。しかも叔父さんには子供がなく、少年は父親を知らない。それで引き寄せ合ったんじゃないかな。二人は出会うべくして出会った。そして少年は、叔父さんを美雪さんのもとへ導いたんだ。天使と呼ぶか菩薩と呼ぶかはともかく、そういった類いの超越的な存在になりえていたんだと思うよ」
「そしてそのまま、少年も星になったのね」
「そうさ。星となってお母さんを照らし、見守っているんだ。お母さんを守るって、叔父さんと約束した。お母さんにも誓ったんだから」
「きっと、そうね」
私はふたたび彼の胸に顔をうずめました。心と身体で通い合いたかったのだと思います。彼の温もりに包まれながら、私はそれまで味わったことのないような確かな愛を感じていました。