文字数 7,981文字

 八月三十一日

 少年は私に遠くの星を教えてほしいとせがんだ。私は夜空を仰ぎ見た。しばらく探していると、アンドロメダ銀河に目がとまった。肉眼でもわずかに確認できたが、もっとはっきりした姿を見せてあげたい。そう思い、私は急いで天体望遠鏡をセットした。
 「覗いてごらん。あれは私たちの天の川銀河の隣にあるアンドロメダ銀河だ。お隣さんといっても、およそ二百五十万光年の彼方にあるんだ」
 少年は食い入るように見ていた。
 「渦巻いている。これはすべて星なんですよね」
 「ああ、そうだとも。はっきりした数は分からないが、一兆もの恒星があると言われている。惑星などを含めれば、その何倍にもなるだろうね」
 少年は驚嘆したような声をあげ、なお接眼レンズを覗きこんでいた。私は少年にもっといろいろなことを教えてあげたくなっていた。
 「宇宙にはどれくらいの銀河があると思う」
 「さあ、想像もつかないけど…。百くらいですか」
 少年は接眼レンズから目を離すと、私を見て細い声で答えた。
 「いや、そんなもんじゃないんだ。およそ二千億あると言われている。二兆という説もある。もしかしたら、もっと多いのかもしれない。宇宙はとてつもなく広大なんだ」
 「宇宙はまだまだ大きくなっているんでしょ」
 「ああ、そうみたいだね。宇宙はおよそ百三十八億年前に誕生したと言われている。以来、成長しつづけているんだ。しかしやがて、収縮に向かってゆく。そしていつしか、消滅してしまうんだ。あるいは成長しつづけた果てに、すべてがバラバラに引き裂かれてしまうとも言われている。どちらもまだ仮説にすぎないんだけどね。宇宙には謎がいっぱいさ。人間の認識能力ではとても、すべてを解明できやしないよ」
 「科学がどんなに発達してもですか」
 よほど関心を抱いたのだろうか。少年は目を輝かせていた。私はうれしさから興奮気味になっていた。
 「ああ、そうだと思うよ。私たち人間には五つの感覚機能が備わっている。私たちは五感を通じて世界を認識している。けれど、それがすべてなのだろうか。そんなことはないはずさ。差別して言うのではまったくないが、生まれながら全盲の人は、この景色を見ることができない。見るということ自体がよく分からないのだと思う。同じように、人間にはない感覚があるとしたら、私たちはその世界を知ることができない。確かに、科学の発達により五感ではとらえられない現象を確認できるようになっている。例えば昨今、カミオカンデという観測装置を使って、宇宙からやって来たニュートリノという物質を検出することに成功している。ニュートリノは人体はおろか、地球をも簡単に突き抜けてゆく物質なんだ。五感ではまったくとらえられない。しかし、科学にも限界がある。どんなに発達してもね。宇宙には科学を超えた世界が存在していると思うんだ」
 少年は興味深そうに耳を傾けていた。私は夢中で話しつづけていた。滑稽にも、科学の限界を口にしながら、その範疇から抜けだせずにいた。
 「宇宙のおよそ九十五パーセントはダークマターとダークエネルギーで占められているという説もある。どちらもまだ正体不明なんだけどね。いくつもの世界が干渉し合いながら共存しているという説もあるんだ。この世界では今、私はこうして君と話しをしている。しかしもうひとつの世界では、私は今、ここでひとりで星空を眺めている。さらに別の世界では今、私は東京の自宅で妻子と楽しく夕食をとっている。といったように、私たちはいくつもの世界を同時に生きているというんだ。五感では互いの世界を知ることはできないけどね。そもそもミクロの世界においては、物質はさまざまな状態の重ね合わせとしてしか存在していない。人間が観測してはじめて、それはひとつの状態として現れてくるというんだ。このことはきっと、マクロの世界にも当てはまるんじゃないかな」
 私はなぜこんなことまで話してしまったのだろうか。少年の理解をよそに。それでも私は、語らずにはいられなかった。信じずにはいられなかった。この世界がすべてではないことを。別の世界で私は、美雪と結婚し、温かい家庭を築いていることを。それをより強く信じたいがために、私は言葉として発せずにはいられなかったのだろう。そうして自分自身を慰めていたのかもしれない…。

 九月六日

 今宵、少年は来るなり、なにか落ち着かない様子であった。しばらく一緒に星空を眺めていると、おもむろに一枚の紙を私に差しだした。詩を書いたから、見てほしいと恥ずかしそうに言うのだ。紙には一編の詩が小さく優しい字で綴られていた。

 きらめく星のせいだろうか
 夜空をみていると あの頃を想い出す
 一瞬の輝き もうもどれない

 光のなかでは 時はとまっている
 あの想い出も 永遠(とわ)のものだろうか

 天の川には たくさんのスナップ写真
 笑った顔 怒った顔 泣いた顔
 乳白色にかすむのは 涙のせいだろうか

 今夜も 宇宙の彼方へと 汽車がゆく
 悲しみをのせて 流れ星となって

 耳をすますと 汽笛がきこえる

 私はじっくりと詩を味わっていた。少年はこちらをちらちらと見ていた。私の反応が気になって仕方なかったのだろう。私は目を細めながら口を開いた。
 「なかなか素敵な詩じゃないか。心が洗われる気がするよ」
 「本当ですか」
 「本当だとも。汽車は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をモチーフにしたのかな」
 少年はうれしそうに頷いた。
 私はこの詩に美雪との想い出を重ね合わせていた。目頭が熱くなってくるのが分かった。「流れ星となって、汽車がゆく…」。私は心のなかで呟きながら星空を仰ぎ見た。
 天の川に目をやると、美雪のさまざまな表情が浮かんできた。どれもかけがえのない永遠の一瞬…。私は切なさからか、涙を零していた。しかしそれはすぐさま、言いようのない幸福感へと変わっていった。そして、これまで片時も離れなかった胸の痛みが、ふわっと星空へと消えてゆくような不思議な感覚を覚えた。
 このまま汽車に乗って、宇宙の彼方へとゆけたなら。そこにはきっと美雪がいて、私を温かく迎えてくれる…。
 私は涙を指で拭い、少年を見やった。少年も星空を仰ぎ見ていた。
 「君はきっと、芸術の才能があると思うよ。詩人、小説家、あるいは画家を目指すといいんじゃないかな」
 「実は僕、絵も描いているんです。下手ですけど…」
 少年は振り向き、私を見つめると、はにかみながら小さな声で言った。
 「はじめから上手い人なんていやしないさ。試行錯誤しながら描きつづけることで、だんだんと上達してゆくんだ。どんな絵を描くんだい」
 「風景画が多いです」
 「私も風景画は好きさ。特にクロード・モネとか、印象派の絵画がね。あれには一瞬の光が描かれているんだ。永遠の一瞬のね」
 少年は笑顔で頷いた。その瞳は星のようにキラキラと輝いていた。
 少年が帰ってからもなお、私は庭に佇んでいた。少年がどんな絵を描いているのか想像を巡らせてみた。そしてもう一度、少年の詩をゆっくりと味わった。
 少年はどんな想いでこの詩をつくったのだろう。私に贈ろうとしてだろうか。そんなことはあるまい…。それでも、この詩は私の宝ものだ。私は少年に心から感謝していた。とともに、少年の身体が良くなるよう、そしていつの日か夢が叶うよう心から祈っていた。乳白色にかすむ天の川を仰ぎ見ながら。

 九月九日

 空が澄みわたっているせいだろうか。今夜はやけに流れ星が多い気がする。私は庭のベンチで少年が来るのを待ちながら星空を眺めていた。
 少年も流れ星に気づいただろうか。ここに来てくれればいいのに。少年と一緒に流れ星が見られたなら…。
 夜空を眺めていないのかもしれない。それなら知らせてあげたい。こんなに素晴らしい星空はめったにないのだから。しかし私は、少年の連絡先を知らずにいた。何ということだ…。
 部屋で別のことに熱中しているのだろうか。それとも体調がすぐれず、寝ているのだろうか。私は少年のことが気がかりでならなかった。
 前に二人で流れ星を見ていた時、少年はどんな願いごとをしようとしていたのだろうか。身体のこと、将来のこと、それとも母のことだろうか。
 少年の願いを叶えてほしい。少年を幸せにしてほしい。それが私の唯一の願いごとだ。私自身についてはなにもない。私はこのままいつ死んでもかまわない。
 また流れ星だ。ここに移り住んでから随分と経つが、こんなに流れ星を見るのははじめてである。流星群が地球の近くを通り過ぎているのだろうか。
 そういえば、美雪に出会う前夜も流れ星を多く見た。白馬岳頂上宿舎で一夜を過ごしていたが、なぜか寝つけずにいた。仕方なく私は、表に出てずっと星空を眺めていた。夜空一面に星々が光り輝いていた。時折、流れ星が現れては消えていた。身体が星空に吸い込まれてゆくのを感じていた。翌日、運命の出会いがあるとは夢にも思っていなかった。
 あの日、美雪に巡り合わなかったら、私の人生はどうなっていただろうか。ああ、よそう…。美雪に出会えなかった人生なんて考えられない。私は美雪に出会えて心から幸せだった。美雪はどうであったろうか。私なんかに巡り合っていなければ…。いつも同じことを考えてしまう。すべては過ぎ去ったことだというのに…。
 美雪はもういない…。けれども、美雪との想い出は永遠である。あの時確かに、二人は愛し合っていた。流れ星のように一瞬の出来事にすぎなかったが、それは永遠の一瞬であった。美雪と私の愛は永遠なのだ。
 私はふたたび夜空を仰ぎ見ていた。しばらくすると、ペガスス座辺りに流れ星が現れた。ちょうどペガススが前方へ羽ばたいてゆくように星が流れていった。

 九月十六日

 あれ以来、少年は姿を現さなかった。私はどうしたのかと心配した。もしかしたら体調が悪化したのではないか。いや、きっと、私に見せようと、夢中で絵を描いているのだろう。そう思いながら、私は毎晩、少年が来るのを心待ちにして、庭のベンチに座っていた。肌寒くなってきたが、待ちつづけていた。いつの間にか、夜風が冷たい季節になっていた。
 私は一日中、少年のことばかり考えるようになっていた。あの愛らしい瞳、はにかんだ笑顔…。少年に会いたい。会って話しをしたい。いや、話しなんかしなくてもいい。ただそばにいてくれるだけでいいんだ。私は少年が愛おしくてたまらなくなっていた。
 どうして滞在先くらい聞いておかなかったのだろう。名前さえ知らない。私も名乗っていなかったのだが…。私はいつもそうだ。まだどこかで格好をつけようとしている。愚かなことだ。もっと自分の気持ちに正直になれたなら…。私は少年への想いを抑えきれなくなっていた。
 少年は近くのペンションに滞在していると言っていた。この近くのペンションといったら、そう多くはない。一軒ずつ訪ねてみようか…。そんなことをしてどうなる。それで少年に会えたとしても、鬱陶しがられるのが落ちだ。いや、少年が私のことを嫌がるはずがない。喜んで迎えてくれるにきまっている。それなら、なぜ私を訪ねてくれないのか…。
 やはり体調が良くないのだろうか。ここに来られないほどなのか。だったら、なおさら大変だ。ひとりで苦しんでいるのだろうか。母親が付き添っているのだろうか。せめて母親に連絡くらいはしたのだろうか。ああ、私が看病してやれたなら…。できることなら、私が代わってあげたい。少年を元気にしてくれるなら、私の命を差しだしてもいい。
 少年は今どうしているのだろう。少年に会いたい。私は狂おしいほどであった。わざわざ訪ねては訝しがられるかもしれない。だったら、偶然を装えばいい。ペンションの付近を歩いていれば、道で出くわすかもしれない。部屋の窓から私を見つけ、声をかけてくれるかもしれない。体調が良くないからといって、窓の外くらい見ることはあるだろう。私は夜通し考えあぐねた末、それに賭けてみることにした。
 そう決心すると、いても立ってもいられなかった。私は早朝から近くのペンションを一軒ずつ巡ることにした。木の葉が風に揺れていた。その隙間から零れくる陽射しが眩しく感じられた。私はペンション沿いの道を散策しているかのようにゆっくりと歩いた。ときどき立ち止まっては空を見上げる格好をした。少年に気づいてほしい。その一念であった。二回ほど行き来したが、少年に遇うことはなかった。
 私は諦めて、次のペンションへと向かった。そのペンションは通りから奥まったところにあった。私はペンションの敷地に立ち入っていた。二階の各部屋には小さなバルコニーがついていたが、誰も出てはいなかった。
 私は窓に目を移した。窓辺に少年はいないだろうか。こちらを見てはいないだろうか。私は目を凝らしたが、どの窓からも人影を確認することはできなかった。諦めかけて、一階の左端の窓に目をやると、向こうから視線が感じられた。少年ではないのか。私は鼓動が速くなるのを感じた。
 気がつくと私は、建物に近づこうとしていた。心臓が張り裂けそうであった。突然窓が開いた。すると、初老の女性が首を出し、鬼のような形相でこちらを睨んだ。私は目を逸らし、慌てて引き返したのだった。
 私は息も絶え絶えになっていた。それでも諦めることはできなかった。三軒目のペンションにさしかかると、向こうから賑やかな声が聞こえてきた。そのなかに少年がいるかもしれない。私の胸は高鳴った。私は歩を速めていた。ペンションの庭先には中学生か高校生くらいの男子が十数人いた。
 私は目を凝らした。しかし少年の姿はなかった。部活動の合宿かなにかだろう。少年はここにもいないのか…。私は肩を落とし、大きな溜息をついていた。
 その後も私はペンションを巡った。同じように、近くの道をゆっくりと往来したり、空を仰ぎ見たりした。庭を覗きこむようなこともした。随分と遠くまで足を伸ばしていた。しかし少年に遇うことはできなかった。
 私は仕方なく、自宅へ戻ることにした。足が鉛のように重たくなっていた。それでも私は、帰り道で遇えるかもしれないとのかすかな期待を捨てきれずにいた。
 ようやく自宅へ着いた頃には、すでに夕暮れ近くになっていた。私は疲労困憊していた。それでも、少年のことを忘れてはいなかった。少年は今どうしているだろうか。今夜こそ来てくれるだろうか。
 夏はとうに過ぎたというのに、私の身体は汗でびっしょりになっていた。こんな格好を少年に見せたくない。私は急いでシャワーを浴びた。そしてまたいつものように、庭のベンチで少年を待つことにした。
 私は朝からなにも食していなかった。少年に会いたい一心で、空腹さえ感じなかった。それはなお変わることがなかった。私はミルクをかるく温めて飲むことにした。ひと口啜ると、わずかに心が安らいできた。
 松虫の声が方々から聞こえていた。夜空を見上げると、いくつもの綿雲がすこしずつ形を変えながら勢いよく流れていた。その合間からは星々が現れては消えていた。北極星だけが隠れることなく煌々と輝いていた。
 天の北極は地球の歳差運動によって移動するため、北極星は何千年かごとに移り変わるのだという。現在の北極星は、ポラリスの名で知られるこぐま座アルファ星である。この星は驚いたことに、三重連星なのだそうだ。また北極星は妙見菩薩として仏格化されてもいる。ああ、少年にこんな話しをしてあげられたなら…。
 時折冷めたミルクを啜りながら、私はいつまでも待ちつづけていた。しかし少年が現れることはなかった。
 私は諦めて家に入った。身体が冷たくなっていた。頭の方を冷やしたらいい…。私は素直にそう思った。いったいなにをしているのか。なんて愚かなことを…。自分自身が滑稽にも思えてきた。それでも、少年を想わずにはいられなかった。
 私は心を落ち着かせようと、ピアノに向かった。そして美雪を想った。私のこんな姿を見たら、美雪は憐れでくれるだろうか…。私は淋しいのだ。私を温かく迎えてくれるのなら、今すぐにでも美雪のもとへゆきたい…。
 気がつくと私は、「エストレリータ」を弾いていた。スペイン語で「小さな星」という意味だ。歌詞にあるように、小さな星は愛の灯火なのだろうか。
 私は美雪を想いながら、何度も同じ曲を奏でていた。窓からは時折、星明りが差し込んでいた。

 九月十八日

 あんな真似をするのはあの日かぎりでやめにした。少年が私に興味を示さなくなったのなら仕方がない。身体の具合がすぐれないのだとしても、私には関係ないことだ。私はここに移り住んでから、人にはかかわらないで暮らしてきた。私は美雪だけを想って生きている。それでいいのだ。そう幾度となく自分に言い聞かせても、私は少年を想わずにはいられなかった。
 今夜も私は、少年が来るのを心待ちにして、庭のベンチに座っていた。夜風が私の身体と心を冷やしていったが、想いきれず待ちつづけていた。
 夜も更けてきた。もう来ることはないだろう。そう思って、家に入ろうとしていたところに、少年はすっと姿を現した。私はうれしさで飛びあがらんばかりであった。目頭が熱くなっているのを感じた。
 「やあ。しばらくだね」
 私はそれしか言えなかった。必死で感情を抑えようとしていたのだ。少年は黙っていた。なにか重苦しい雰囲気を漂わせていた。やはり体調がすぐれないのだろうか。私は少年の顔を覗きこんだ。少年は唐突に、声を震わせながら私にこう告げた。
 「急ですが明日の昼過ぎ、母と一緒に東京へ帰ることになりました。いろいろと教えてくださって、本当にありがとうございました。短い間でしたけど、かけがえのないひと時でした。僕にとっては永遠の一瞬です」
 少年の目には涙が浮かんでいた。私は崖から突き落とされる思いがした。療養に来ているのだから、寒くなれば帰るのは当然である。しかし私は、少年との別れを予期していなかった。少年との日々がいつまでもつづくと思っていた。知らずに、そう願っていたのかもしれない。
 このところずっと姿を現さなかったが、心のなかではまた来てくれると信じていた。少年のことを諦めてはいなかった。まして体調が良くなくてもいいなんて、心から思ってはいなかったんだ。少年のことが心配で、愛おしくて。それなのに…。
 お願いだ。私のもとから去らないでくれ。どんなにそう叫びたかったことか…。しかし私は、必死で平静を装い、別の言葉を絞りだしていた。
 「私こそお礼を言わないといけないね。君のお陰で随分と楽しい想いをさせてもらったよ。私にとっても永遠の一瞬だったさ。どうもありがとう。身体を大事にするんだよ。それから、お母さんをしっかり守ってあげて…」
 私は腑抜けのようになっていた。立っているのがやっとであった。
 「さようなら」
 そう言って一礼すると、少年は俯きながら帰っていった。私はしばらく呆然と立ち尽くしていた。星々の光に照らされながら。

 九月二十一日

 今夜、私は星空のもとにいた。
 天の川がいつになくキラキラと輝いていた。

 幻覚でも見ていたのだろうか。
 流れる川のように感じられてならなかった。

 私は少年の詩をゆっくりと味わった。
 すでに暗唱できるほど何度も読み返していた。

 私はふたたび天の川を見上げた。
 涙のせいだろうか。
 乳白色にかすんで見えた。

 私は美雪を想った。
 美雪は私に微笑みかけ、優しく頷いた。
 すべてを受けいれてくれるように。

 少年が美雪をいざなってくれたのかもしれない。
 ありがとう。
 これからの人生、幸多きことを。

 明日、白馬岳を登り、星空をゆく。
 そして私も星になる。
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