第8話 女の子、男の子

文字数 857文字

 お祭りはまだ続いていたが、ヒロシの帰りの電車の時間もあり、二人はゆっくりとユカリの家の方に歩き出した。
 駅の方に向かう帰りの人波も先ほどより多くなっていた。
 「はぐれないように手をつなぐよ。」とヒロシがユカリに言った。
 ユカリは黙ってヒロシの方に左手を出した。
 その左手を昔よりも随分大きくなった手がしっかりと握った。
 安心、安心とユカリは思った。
 踏切を過ぎ、駅も過ぎると人波はなくなったが、ヒロシはそのままユカリの手を握り続けた。ユカリも何も言わず、ヒロシの大きな手を握り続けた。
 「家まで送るよ。」とヒロシが言った。
 「電車の時間は大丈夫?」とユカリは尋ねた。
 「うん、もう少し大丈夫。」
 「うん。」とユカリはうなずいて、嬉しくなって握った手を大きく振った。
 それに合わせてヒロシも腕を振ったので、ユカリは少し体勢を崩して前のめりになった。そんな彼女をヒロシは倒れないように支えて、「ごめん、ごめん。大丈夫。」と心配そうに尋ねた。
 「うん、平気、平気。」と言ってユカリは笑って、ヒロシを見つめた。
 「えっと。」とヒロシはユカリを見つめて言った。
 「その浴衣よく似合ってるね。」
 「へえ、そんなこと言うようになったんだ。」ユカリは悪戯っぽく言った。
 「結構、勇気を出して頑張って言ってみたんだけど。ダメだった?」
 「別にダメじゃないけど。帰り道に言うよりも行くときに言ってくれればよかったのに。」
 「そうだね。そうすれば良かった。ちょっと緊張していたからなあ。」
 ユカリはありがとうとお礼を言った。どういたしましてとヒロシは答えた。
 図書館の前を通るとき、ヒロシがこう言った。
 「そういえば、この図書館にもちょっと不思議な話があるよ。」
 「どんな話?」
 「ある女子高生がある本を通じて、ある人と出会って不思議な体験を…。」ヒロシの話が終わる前に、ユカリは「聞いてあげるから、話して。」と言った
 「それは夏休みの図書館でのこと。」ヒロシは嬉しそうに話し出した。
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