第3話 女の子、男の子、女の子の後輩たち

文字数 1,620文字

 「ユカリ先輩!」
 二人の女の子の綺麗にハモった声がユカリの足を止めた。ソプラノとメゾソプラノ。それは彼女の高校の合唱部の後輩のヒバリとミソラだった。二人はモスバーガーの店舗前で手を振っている。
 二人の名前をあわせて、ミソラヒバリという冗談のような名前のこの二人は幼稚園の時からの幼馴染だ。しかし、名前に恥じないくらい二人とも歌は上手い。特にソプラノのヒバリの声は自分たちとはレベルが違うくらいに上手いとユカリは思っていた。
 「ごめん、高校の後輩なの。ちょっと待っててくれる。」
 ユカリはヒロシにそう言って、小走りに後輩二人の元に行った。
 「部活の帰り?」
 「ええ、そうです。コンクールも近いので。」とヒバリが答えた。彼女はソプラノのパートリーダー。身長がスラリと高く、さらさらのロングヘアがその体にそっと寄り添っている。顔立ちはとても整っていて、大人っぽいが、笑顔がとてもキュートで可愛いらしい。
 「先輩、その浴衣、凄く可愛いですね。」とミソラが言った。彼女はメゾソプラノのパートリーダー。身長は普通だが、筋肉質の身体は非常にバランスが取れている。ショートカットということもあり、全体的に少年のような印象を与えるが、彼女も顔立ちはとても美しい。
 「ありがとう。」ユカリは、ミソラの言葉に答えた。
 「先輩、彼氏ですか」とミソラが右手をマイクのようにして、ユカリの口元に近づけながら、囁いた。
 はいはい、やっぱり来たとユカリは思った。
 「ちょっとお、ミソラ。」とヒバリがユカリに謝るように頭を下げながら小さな声で注意をした。ヘナヘナと八の字になった眉毛が可愛いらしい。
 「幼馴染みだよ。」とユカリは意識的に落ち着いた声で答えた。「小学校の時の同級生。中学生になる前に引越したんだけど、久しぶりに帰ってきたから。」
 「ユカリ先輩の幼馴染みなんて、ついてますね。羨ましい。」とミソラはニコニコしながら言った。
 「どうだか。昔は、私が色々注意してたから、凄く嫌がってたけど。」
 「絶対、良かったって思ってますよ」と隣のヒバリもニコニコしながらミソラの意見に同意した。
 「先輩、私たち、ご挨拶してもいいですか?」とミソラがユカリに尋ねた。
 「…別に、いいけど。」
 「きゃあ、ユカリ先輩の彼氏に挨拶するなんて緊張しちゃう。」
 「だから、彼氏じゃないって。」
 「大丈夫、任せておいてください。」
 何を、と彼女が尋ねる前に、ミソラはユカリの横をするするとすり抜け、ヒバリの手を取ってヒロシがいる方に進んで行った。
 「ちょっと、ミソラ!」手を取られて、バランスを崩しながらも、ヒバリは懸命にミソラの後を追う。
 ミソラはヒロシの前まで進むと、ペコリと頭を下げて、「こんばんは。」とヒロシに言った。
 「ああ、こんばんは。」とヒロシも戸惑いつつも頭を下げた。
 「私の合唱部の後輩なの。」二人に追いついたユカリがヒロシに説明した。そして、ヒロシにヒバリとミソラを、後輩二人にヒロシを紹介した。
 何を言われるのやらとユカリは心配したが、二人は簡単な自己紹介をした後、「それでは。」と礼儀正しく別れの挨拶をした。そして別れ際に、二人はユカリのそばに近寄ってきて、ヒロシに聞かれないように小声でささやいた。
 「先輩、彼氏カッコいいですね。」とミソラが言った。
 「ほんと。」とヒバリが同意した。
 「大丈夫、このことは誰にも」とミソラが言った後に、ミソラとヒバリは「言いませんから。」とユニゾンで続けて、笑いながら去っていった。
 絶対に明日、部活のみんなに知られるな、とユカリは遠ざかる二人の女子高生の背中を見ながらぼんやりと思った。
 そして、ヒロシに向かって、「二人がカッコいいって言ってたよ。」
 「ああ、それはどうも。」とヒロシはユカリに頭を下げた。
 「どういたしまして。」とユカリはヒロシに頭を下げた。
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