第5話 女の子、男の子 、燕尾服の男(黒猫)
文字数 1,282文字
市街地に近づき、かなり込み合いだしたので、二人は裏通りに抜けることにした。しばらく歩くと緑に囲まれた小さな神社が見えてきた。
「へえ、こんなところに神社があったんだ。」とヒロシが言った。
「私も知らなかった。こっちにはあまり来ないから。」とユカリも言った。
神社の階段を上ると、境内に一人の男がいて、二人の方を向いて立っていた。
「なんなの、うそでしょ。」とユカリは心の中でつぶやいた。その恰好があまりに周りから浮いていたからだ。男は黒い燕尾服に白い手袋をして、黒いシルクハットをかぶって、黒いステッキを持っていた。
「なんでこんな夏の夜の神社に、こんな怪しげなマジシャンみたいな人がいるの?」とユカリは思った。
「やあ、こんばんは。」とその男はにこやかに笑ってシルクハットを脱いで二人に挨拶をした。
「こんばんは。」とヒロシも笑顔で挨拶をした。
誰?ユカリはそっとヒロシの方を見た。ユカリには全く見覚えのない男だった。
「先ほど、君たちを見かけてね。ヒロシ君、ずいぶん久しぶりだね。」
「ええ、こっちに帰ってきたのは5年ぶりくらいです。」
男は嬉しそうにうなずいて、今度はユカリの方を向き、意外なことを言った。
「ユカリちゃんも元気になって良かったね。」
え、何のこと、何のこと。私のこと、知っているの。ヒロシ君の知り合いだから?
「ええ、おかげさまで。」とユカリは頭の中ではクエスチョンマークが渦巻いてはいたが、とりあえず、おっかなびっくり、当たり障りのない返事をした。
「二人に会えるとは本当に懐かしい。嬉しいよ。それではお祭りを楽しんで。」とその男は言った。そして空を見上げ、鼻をピクピク動かして、こう続けた。「もう少ししたら雨が降ってくるから。傘を買っておいた方がいいよ。」
「ああ、ありがとうございます。」とヒロシはお礼を言った。
「それでは、また、いつかお会いしましょう。」と男は二人に言って、丁寧にお辞儀をした。そして、器用にシルクハットをくるりと回して頭に乗せた。ユカリはその動きにあわせて心の中で「クルリンパ。」とつぶやいた。
男は楽しそうにステッキをクルクル回しながら、神社の裏に歩いていった。
男の後ろ姿が見えなくなった後、ヒロシはユカリに小声で尋ねた。
「あの男の人、誰だっけ?」
「はあ?」とユカリは呆れながら、やはり小声で答えた。「知らないよお。ヒロシ君の知り合いでしょ。」
「うーん、どこかで会った気がするんだけれど、思い出せないんだよね。」
「あなたの名前を知ってたから、絶対あなたの知り合いでしょ。」
「でも、ユカリちゃんの名前も知ってたでしょ。」
「確かにそうだけど、私、あんな怪しいマジシャンみたいな男の人、知らないよ。」
「でも、元気になって良かったねって。」
「うん。そうね。それは謎ね。」
「僕の知っている限り、君が元気じゃない時なんてあったっけ。」
「ちょっと、なんでにやけてるのよ。完全にバカにしてるでしょ。」
その時、二人のおでこに雨粒が当たった。二人は同時に空を見上げた。ポツリポツリと雨が降り出していた。
「へえ、こんなところに神社があったんだ。」とヒロシが言った。
「私も知らなかった。こっちにはあまり来ないから。」とユカリも言った。
神社の階段を上ると、境内に一人の男がいて、二人の方を向いて立っていた。
「なんなの、うそでしょ。」とユカリは心の中でつぶやいた。その恰好があまりに周りから浮いていたからだ。男は黒い燕尾服に白い手袋をして、黒いシルクハットをかぶって、黒いステッキを持っていた。
「なんでこんな夏の夜の神社に、こんな怪しげなマジシャンみたいな人がいるの?」とユカリは思った。
「やあ、こんばんは。」とその男はにこやかに笑ってシルクハットを脱いで二人に挨拶をした。
「こんばんは。」とヒロシも笑顔で挨拶をした。
誰?ユカリはそっとヒロシの方を見た。ユカリには全く見覚えのない男だった。
「先ほど、君たちを見かけてね。ヒロシ君、ずいぶん久しぶりだね。」
「ええ、こっちに帰ってきたのは5年ぶりくらいです。」
男は嬉しそうにうなずいて、今度はユカリの方を向き、意外なことを言った。
「ユカリちゃんも元気になって良かったね。」
え、何のこと、何のこと。私のこと、知っているの。ヒロシ君の知り合いだから?
「ええ、おかげさまで。」とユカリは頭の中ではクエスチョンマークが渦巻いてはいたが、とりあえず、おっかなびっくり、当たり障りのない返事をした。
「二人に会えるとは本当に懐かしい。嬉しいよ。それではお祭りを楽しんで。」とその男は言った。そして空を見上げ、鼻をピクピク動かして、こう続けた。「もう少ししたら雨が降ってくるから。傘を買っておいた方がいいよ。」
「ああ、ありがとうございます。」とヒロシはお礼を言った。
「それでは、また、いつかお会いしましょう。」と男は二人に言って、丁寧にお辞儀をした。そして、器用にシルクハットをくるりと回して頭に乗せた。ユカリはその動きにあわせて心の中で「クルリンパ。」とつぶやいた。
男は楽しそうにステッキをクルクル回しながら、神社の裏に歩いていった。
男の後ろ姿が見えなくなった後、ヒロシはユカリに小声で尋ねた。
「あの男の人、誰だっけ?」
「はあ?」とユカリは呆れながら、やはり小声で答えた。「知らないよお。ヒロシ君の知り合いでしょ。」
「うーん、どこかで会った気がするんだけれど、思い出せないんだよね。」
「あなたの名前を知ってたから、絶対あなたの知り合いでしょ。」
「でも、ユカリちゃんの名前も知ってたでしょ。」
「確かにそうだけど、私、あんな怪しいマジシャンみたいな男の人、知らないよ。」
「でも、元気になって良かったねって。」
「うん。そうね。それは謎ね。」
「僕の知っている限り、君が元気じゃない時なんてあったっけ。」
「ちょっと、なんでにやけてるのよ。完全にバカにしてるでしょ。」
その時、二人のおでこに雨粒が当たった。二人は同時に空を見上げた。ポツリポツリと雨が降り出していた。