失恋

文字数 1,070文字

 振られちゃった。
 届かなかった。あの日からずっと米谷さんに寄せていたこの思い。
 まだ告白するのには早すぎると分かっていたのに。もっと時間をかけて少しずつ距離を縮めていかないといけないことも最初から分かっていたのに。それなのに。我慢ができなかった。
 米谷さんと一緒にいるだけで胸が苦しくなって。米谷さんと手をつなぐだけで体中が熱くなって。
 早く恋人になりたかった。早く米谷さんを自分のものにしたかった。自分のことだけをずっと見ていて欲しかった。
 ……焦りすぎたかなぁ。だって、まだ出会って二日目だもんね。
 もしかしたら軽い女の子だと思われたのかもしれない。簡単に惚れて簡単に告白して簡単に別れる、そんな女の子だと思われたのかもしれない。
 ……まぁ、今となってはもう確かめようがないけど。
 告白して振られたからって逃げ出して。合わせる顔なんてある訳がない。今更戻ったって気まずくなるだけ。
 きっと年の差もあったんだ。17才の私と25才の米谷さん、8才も離れてるし。
 ……気にしてたって仕方無いよね。もう終わったことなんだから。言い訳するだけ無駄。
 米谷さんは素敵な人だ。目つきは悪くて疑り深い人だけど、本当は優しくてお人好しで……とにかくカッコいい。きっと、すぐに私なんかよりも何百倍も素敵な女の人を見つけるはずだもん。
 私の恋愛は終わったんだ。もう米谷さんのことは忘れよう。覚えていても辛いだけだ。とっとと忘れて……
「忘れられるわけないよぉ!」
 だって私には米谷さんしかいなかったのに。米谷さんがいたから生きようと思えたのに!
 米谷さんとずっと一緒にいたいって、そう思ったから勇気を出して告白したのに! 何が「自分よりもいい人を見つける」だ。そうやって自分を無理矢理納得させようとして。米谷さんのことが本当に好きなら、心から愛しているなら。もっと、もっと……
「一人で熱くなっているところ悪いんだけど」
 突然、空から声がした。あの日からずっとそばにいてくれたあの人の声だ。性別がはっきりしない、中性的な声。
「残念ながら時間切れだ、唯奈。キミはも負けたんだ。もう今更どうこう言ったところで何も変わらない。諦めてくれ」
 あぁ……そうだ。私は負けた。米谷さんのことを忘れられようがそうじゃなかろうが、そんなことは関係ない。負けは負け。それ以上でもそれ以下でもないんだから。
 もうこんな気持ち、嫌だ。辛いよ。胸が痛いよ。早くして。早く終わらせて。
「約束は守ってもらうよ……いいね?」
「……はい、お父さん」
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登場人物紹介

米谷


 25歳会社員。昔、とある出来事があったせいで友達・恋人共にゼロ。

 仕事尽くしの人生に癒しを求めている。

唯奈


 アキバ絶対領域で働いている女子高生。

 主人公に思いを寄せるがその正体は……

真緒


 唯奈のバイト仲間。唯奈のことが大好きで、唯奈に彼氏ができるのを恐れている。

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