第7話

文字数 1,191文字

 今日は二つのグループに分かれて仕事をすることになった。
 ヒョードルたちは隊長のムルアカの班に入り山岳地帯へと向かった。残りのメンバーはドビンゴについて里に近い密林に入っていった。

 日が落ち、集まって来た仲間から、ヒョードルは信じられないような話を聞いた。ドビンゴについて行った友人の話は、身の毛もよだつような残酷な出来事だった。
 ドビンゴは、前から目をつけていたのか、高さ六十メートルはある、アフリカンマホガニーを切り倒そうとした。
 アフリカンマホガニーはヨーロッパやアメリカで高く売れる高級家具材だ。
 村の女が駆け寄って来た。
「おい! そこの女、木から離れるのだ」 
「いやだ! この木は村の守り神だ。倒すならオラも一緒に切ってみろ!」
 女はふた抱えもある大木に両手を回した。
 村人たちは遠巻きにこの様子を見ている。
「さっさと離れろ!」
 ドビンゴが女の腕をつかみ、引きずり離そうとした。
「いててててっ! このアマ噛みつきやがったな」
 ドビンゴは、血が滴ってきた自分の右手首を見て逆上した。
 赤鬼のような顔になったビンゴが、銃の台尻で女の横っ面を殴り飛ばした。
「このアマ、望みどおり木と一緒に切り倒してやる。おい、おまえらこの女を木に縛り付けるんだ!」
 気絶した女はあっという間に、立ったまま木に縛り付けられてしまった。
「よーし、やれ!」
 ドビンゴがチェーンソーを持つ男に顎をしゃくった。
「お、俺にはとてもできねー!」
 チェーンソーの男が顔を強張らせて後退さった。
「えーい! 俺に貸してみろ」
 ドビンゴは男を蹴り倒すと、チェーンソーのエンジンを始動した。
 チェーンソーの刃が大木に食い込み始めた。エンジンの音に女の悲鳴が重なった。周りの鳥たちが一斉に飛び立った。
 ヒョードルはその話を聞いて、この仕事に嫌気がさしてきた。
 身も心も疲れ果て、家にたどり着いた。
 だが、アニタの話に、さらに愕然となる。
「あんた、大変なことがおきたわ! 近くの難民村に避難していた従妹が密林のギャングに殺されてしまった。あいつらは悪魔だ!」
 アニタは、大声で泣き始めた。
 ヒョードルが、妻をなだめながら詳しく聞いてみると、従妹をチェーンソーで殺したやつは小指ほどの太さの金のネックレスを下げていたという。やはり、ドビンゴだ。
 焼けるような怒りと悔しさがヒョードルを襲った。
「そうか、わかった。必ずおれが探し出して敵を討ってやる。もう泣くな」
 ヒョードルは明日、隙を狙ってドビンゴを一撃に、と暗い目に不気味な光りを湛えた。
「あんた、それはやめて! あんたが殺されたら私と娘は売春小屋にぶち込まれ、息子は南部のダイヤモンド鉱山に売られていく」
 アニタが大きな目に涙をいっぱい溜めながら、ヒョードルの両腕を揺さぶった。
「わかった――。忘れることにしよう」
 ヒョードルは、ブラックムーンから足を洗おうと決心した。
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