第4話 秘密の書庫

文字数 2,270文字

「すごい……こんなところがあるなんて……。」
るなちゃんは感動して声をあげた。るなちゃんがドッジボールで倒れたのはついさっき。保健室に行ったるなちゃんだけど、私がどうしても気になることがあると言うと、ついてきてくれた。ここは図書室の書庫。鍵がかかっていて普通の人は入れないけど、図書委員の副委員長である私は特別に鍵をもらってて入れるんだ。書庫はたくさんの本がとにかく敷き詰められている。狭い空間だけど、本好きの私にとってはめちゃくちゃ幸せの空間!暇になったらいつでもここに来る。近くの脚立に座って本を開いたら、自分の世界に入っちゃう!毎日そんなことをしている内に、気がつけばどこにどんな本があるか、把握できるようになってしまった。
「確かここら辺にあったはず……。あ、あった!」
私は探していた本を引っこ抜く。
「この本?」
るなちゃんが本を覗き込んで、くしゅん、と小さくくしゃみをする。
「大丈夫?」
「ごめん、埃かも。」
そっか、るなちゃんは埃に弱かったなー。私はるなちゃんから遠いところで、本をパンパンと叩いて埃を落とす。
「ありがと。」
「全然!」
私は近くの机に本を置いた。小さくて薄い本で、明らかに古そう。でもこの間これを読んだとき、何かを感じたんだ。その何かを確かめなくちゃ。
「開くよ?」
「うん。」
ちょっと深呼吸する。緊張してきた。いつもは読んだ内容を覚えてないなんてことあんまりないんだ。あまりにも面白くない本なら、それはそれで覚えられる。なのに、この本は何故か思い出せない。記憶に霧がかかっているみたい。どうして思い出せないのか分からないけど、多分大切なことなんだ。心がそう言ってる……気がする!
「お前がそういったんだろ!!」
大きな声が聞こえた。私とるなちゃんは一緒になって身を縮め、机の影に隠れる。書庫の前に誰かいる。男子の声だ。立ち入り禁止ゾーンの前で何を話してるの?「お前がそういった」そう聞こえた。お前ってことはもう一人いる?でもその人の声は聞こえない。いろんな事が頭を巡り、今の状況を必死に理解しようとする。
「だって……谷……保健……んだぜ……おま……な……どうしてくれるんだ!」
声の主はさっきよりも声を落として話し出す。そのせいで全部聞き取れない。でも、声には怒りが滲んでいた。相当怒っている。
「誰の声?」
るなちゃんがそっと囁いてくる。るなちゃんの顔は不安でいっぱいの時の表情だった。少しだけ青ざめているように見える。
「誰だろ?でも、誰でも大丈夫。書庫は鍵が閉まってるから誰も入れないよ。」
「え、あの後鍵を閉めたの?」
今度は私が青ざめる番だった。いつもは私が自分で入って、その後すぐ鍵を閉めるから鍵は閉まってる。でも今日は違う!私に続いてるなちゃんも部屋に入った。その後るなちゃんが鍵を閉めなくちゃ、鍵が閉まってるはずがない。
「るなちゃん、閉めてないよね?」
「閉めてないよ!え、待って。花梨ちゃん閉めた?」
「し、閉めてない。」
「ってことは……。」
二人で顔を見合わせた。どうしよう!書庫の鍵は閉まってない!もし、書庫の前にいる人が入ってきたら?話を盗み聞きしてたと思われたら?どうなるか分からない!
「だ、大丈夫。こんなとこに誰も入ってこないよ。」
自分とるなちゃんを落ち着かせる。でも、内心ドキドキしまくり。もし、もし!書庫の前で話してるのが秘密の話なら?嫌な想像がどんどん頭を巡り始める。
「だから!謝りもないのかよ!」
大きな声と共に、ばーんとドアを叩く音がした。そして、鍵がかかってないドアは勢いよく開く。
「……びっくりした。」
ドアが開いてさっきよりも声が聞こえやすくなる。ドアが開いたお陰で、暑苦しい部屋の中に風が吹き込んだ。
「くしゅん!」
吹いた風のせいで埃が舞ったんだ。るなちゃんは思い切りそれを吸い込んでくしゃみをしちゃった!やばい!やばい!
「誰かいるの!」
今までは聞こえなかった相手の声が叫んだ。その声は可愛らしくて高め。つまり……女子だ。
「ま、そういうことだから!上手くやってよね。」
その女子は高い声のトーンを落として最後に忠告する。その後すぐにパタパタと足音が遠ざかっていった。
「誰だ?いるんだろ?出てこいよ!」
男子の声はまだ緊迫感があり、私たちを疑っている。でも、ドアの位置からは動いてないみたい。ドアからここは見えないはず。今なら動ける!私は恐怖で震えるるなちゃんの手を強く握る。るなちゃんは、はっと顔をあげて私を見た。私はるなちゃんに大丈夫だよって思いを込めて笑いかけた。るなちゃんも不安そうに笑ってくれた。その笑顔を確認した私は、静かに立ち上がる。書庫には非常階段があるんだ。そこに行けば必ず逃げられる!まだ顔に不安を残しながらも立ち上がったるなちゃんの手を引いて、机の影から出た。ばれないように今度は本棚の影に隠れる。このまままっすぐ行けばすぐに非常階段がある!大丈夫だ!きっと間に合う!私は小走りで非常階段のドアに行く。そのままドアを思いっきり開けたんだ。その瞬間、きぃーっとドアが軋む音がした。普段開けられることがないから、急に開けたら軋んじゃったんだ。
「おい!誰なんだ!どこにいる!」
大きな声がして、走り出す音が聞こえた。やばい!見つかる!助けて!ぎゅっと目を閉じた瞬間、どこに行きたい?と聞かれた。誰に?分からない。頭の中で声が響くんだ。私はとにかく心の中で叫んだ。理科準備室へ!!その瞬間自分の体がちょっとだけ宙に浮いた気がした。
「え?」
驚いたようなるなちゃんの声で目を開けた。そこは理科準備室だった。
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登場人物紹介

白浜花梨

クラスでは目立たないポジ。図書委員で本が大好き。

谷口るな

花梨の友達で、挨拶委員会。しっかり者の頼れる存在!

東山星

学校中の人気者。可愛くて優しい!

吉田直人

スポーツ万能だか、勉強はあんまり。元気でうるさいポジ。

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