第6話 殺し屋と上司

文字数 909文字

「おめでとう、レッドくん。ビンゴだよ」
 深夜の呼び出しに応じて本社に行くと、支配人がもろ手を挙げてレッドを出迎えた。室内には「バード、バード」とトラッシュメンのサーフィンバードを大音量で流していて、こんなとき余計な口を挟むとろくなことがない。
「ナカアキセイタ殺しの件で県警本部の一課が動いている。あいつの恋人か何かが妹が怪しいとタレこんでるみたいだな。お前もこの情報を掴んでいたのか?」
 偶然にもレッドが調べるのと軌を一にして警察もナカアキ兄妹を調べていたらしい。さすがに上司に対して『幽霊』に悩んでいたからともいえず、軽く肩をすくめる。
「初耳です。もう警察はナカアキセツコのところに行ってるんですか」
「いや、まだだ。証拠は残っていないし、決め手に欠けるんだろうよ。いまのところは内偵段階だ」
 ナカアキセイタはキンポウゲの一種を使って殺害した。本来は自然毒なのだが、遺伝子操作をしており、極めて少量で心機能を停止できるものとなっている。そのため毒物検査で検出することができず、今回も司法解剖をされたが、原因不明の急性心不全で処理されていた。
「証拠がないならなんとかなりませんかね」
「ナカアキセツコが黙ってるならな」
 スピーカーが止められた。
「反社の連中と違って素人だから何を言うかわからん。もし『罪の意識』なんてもんがあったら魔がさすことだってあるだろう」
 被害者が素人だと警察も本気で捜査する。反社と違って素人は殺しやすいが抜けにくいのだ。だから素人がらみの案件を受ける際には、いざというときに支障がない人物か確認しておく必要がある。
「ナカアキセツコに家族はほとんどいなかったな」
「そうですね。兄妹で祖母のところで生活してましたが、祖母が死んで、兄も死んだのでいまは1人だけです」
「後くされがないってわけだ」
 支配人は大げさに何度も頷き、レッドを見据える。
「ナカアキセツコを口止めするんだ。やり方は任せる。絶対に話さないならそれでいいんだがな」
 いつの間にかスピーカーも再開して、今度は男たちが野太い声で歌うミッキーマウスソングが流れている。お気に入りの映画のサントラで、こういうときの支配人に逆らっても無駄である。
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