第3話 【別れ】
文字数 2,389文字
心配していたのか、【サイパ】が隣で椅子に座っていた。
その顔には安堵の表情が浮かんでいた。
【サイパ】にしてみれば【魔性】から助けた側で、普通であれば感謝されるのだが
彼が放ったその言葉は感謝とは程遠いものだった。
そして、すぐに【サイパ】の手が【ヴェイト】の頬を叩き、乾いた音が響いた。
そして、そのまま言葉を続けた。
そんなこと、分かってます。僕だって本当は分かってたんだ。
あのまま、死んだら【セレン】は何もない本当の【魔性】になってしまうって…
それでも…僕は【セレン】と一緒に…いたかったんだ…。
それが偽りの感情だとしても…
【サイパ】が【ヴェイト】の気持ちを知ってか、毎日、日課のように看病と称し、世話を焼いてくれていた。
それもあり【セレン】のことを考える時間がなかったのだ。
村では【魔性】が再び、人を襲ったという話が流れ、緊張状態が続いていた。
このまま、ここにいても居心地も悪いし、【サイパ】にも伯父にも迷惑がかかるかもしれない。
それに、また【セレン】と一緒にいたいことを望んでしまうかもしれない。
まだ、気持ちの整理がついてない【ヴェイト】だったが、その提案を受け入れた。
そこへ、あの日からまったく会わなかった伯父が部屋を訪ねてきた。
今回のことでお前が【魔性】を刺激したという者も出ている。
それもあって、村に招待した私にも責任があると批判され、信用がガタ落ちだ。
あれほど村に迷惑をかけるな。と言っておいたのに、お前には幻滅した。
見送りはしない。もう、お前とは会うことはないだろう。
【ヴェイト】は伯父の一方的な言葉に怒りと悔しさがこみ上げた。
叫びそうになる感情をグッと堪えていた。
見送りは誰もおらず、彼だけだった。
伯父の心無い言葉を聞いたあとだったからか、【サイパ】の言葉はジ…ンと胸を熱くさせる。
それでも【サイパ】も村の人間側である以上、【ヴェイト】もそれ以上何もいわず、当たり障りない受け答えをしていた。
船は静かに動き始め、島は遠くなっていった。
【サイパ】のいつか遊びに来て欲しい。その言葉が頭の中を反すうする。
忘れようとした気持ちが青い水面をみるだけで蘇る。
別れを告げることもなく逃げるように島を出たこと。
そして、罪の意識から、もうあの島にはいけないという思いが一気にあふれ出した。
愛しい名を呼びながら、女々しく泣き崩れた。
【ヴェイト】にはその声が届かなかったが、風が優しく彼を包むように通り過ぎた。
つづく