第9話【解放】

文字数 2,474文字

こんなところにいたのか…
険しい顔をした【ヴェイト】の伯父が立っていた。
伯父さん…
三年前のあの日、逃げるように島から出たときから、今日まで一度も会わず、声もかけてこなかった伯父。

【サイパ】の結婚式には出席していたことは【ヴェイト】も気づいていたが、あんなことがあったのもあり、

【ヴェイト】も気まずく、声すらかけることはできなかった。

村長や【サイパ】に【魔性】と会うことを許されたと聞いた。それも、この【魔性】…化け物を解放するとか言ったそうだな。何も知らないよそ者に…村を好き勝手にされては困るんだよっ!!
感情をあらわにした伯父は【ヴェイト】と【魔性】に殺意と嫌悪感など不快な感情を向けた。


伯父さん、確かに僕は迷惑をかけてしまった。けど、【セレン】を好きになった感情だけは誰にも邪魔されたくない。僕は絶対に【セレン】を救って見せる。だから…伯父さんにももう少しだけ見守ってほしいんだ。
【魔性】を好きになった!?

化け物を【セレン】だと!?


ははははは…。


バカをいうな。


そいつは私の息子を引き込んだ。

いや、私の息子だけではない、数多くの男を連れて逝った。

人間ではない…人に害する化け物だ。


……
お前のことは信用できないからな。

私があの化け物を始末してきた。

伯父はそういって、持ってきた狩猟銃を【魔性】に向けて構えた。
伯父さんっ!!
ガーンという大音量が響き渡った。【セレン】は瞳を閉じることもなく、その放たれた弾丸を見つめていた。

一方の【ヴェイト】は伯父の狂気とも思える凶行に恐怖を抱いていた。

その轟音は村にまで届き、村にいた【サイパ】や【村長】や村人たちが聞いていた。

そして、一抹の不安が駆け巡った。

【ヴェイト】くん…!?
……
一瞬の出来事だった。

轟音が止み、伯父が見たのは【魔性】を庇い、撃たれて倒れた【ヴェイト】の姿だった。

あ…
伯父はガシャンと狩猟銃を落とし、自らの過ちに気づき、地面に崩れ落ちた。
【セレン】無事だったんだね…よかった…
どうして…?

私は【魔性】だから…銃なんて効かないのに…

そうだとしても…君が撃たれる姿なんて見たく…ないよ。

それに…【今度こそ】君を守りたかった…から…

そうだよ。俺は…君を救いに来たんだよ。

【セレン】

【ヴェイト】の体から透き通った人物が現れて、そう言った。

人であった【セレン】が好きになった【ヴェイト】その人だった。

【ヴェイト】…
【セレン】ごめん。俺がふがいないばっかりで、君を助けられずにつらい目に合わせてしまった…。


もういいの。

私は【ヴェイト】に会うことができた。

それで十分…。

逝こう、【セレン】。

今度こそ、俺は君を幸せにするよ。

【ヴェイト】は透き通った手を【セレン】の前に差し出した。

【セレン】は笑みを浮かべながら、静かに言葉を続けた。

姿かたちは【セレン】でありながら、それは徐々に【魔性】のそれに代わっていった。

えぇ…。

この手を取れば、【セレン】の意識はなくなり…【魔性】と一緒になるわね。

【ヴェイト】…あなたもそれでいいの?

違う、そうじゃない。【セレン】は【魔性】から解放されるんだ。

いや、解放しないとダメなんだよ…!!

【セレン】は私たちと契約を結んだ。

そして、契約者として自らの命を捧げて【魔性】を取り込んだ。

私たちは元々別々の人間だけど、今は【魔性】という一つの集合体…。

【セレン】だけ解放するのは…許さないわ…。

…わかった。僕が逝くよ。だから…【セレン】を解放してくれないか…
【ヴェイト】、何をいっているんだ?

そんなことをしたら…

時折、【セレン】の意識が出ては声をあげる。


ダメよ、【ヴェイト】。私のためにあなたがそんなことをする必要はないわ。

私たちとあなたは関係ないのよ。

関係なくないだろ?

僕は彼…【ヴェイト】の生まれ変わりなんだろう?

今ならはっきりとわかるよ…。

きっと、君と会えたのも【運命】じゃなくて【必然】で…

君を助けてあげられるからなんだって。

【ヴェイト】は【セレン】の隣にいる透き通った…いわゆる魂だけの存在の【ヴェイト】をみた。


…そうだね。君は俺の生まれ変わり。本来なら、俺の意識や自我は意識の奥底で沈んでいるはずなんだ。そして君の人生を歩いている…だけど、俺の自我と意識が【セレン】に会いたいという想いが強すぎた。それが君の人生をめちゃくちゃにしてしまったんだ…。本当にすまないと思っている…。
【ヴェイト】…
そのおかげで【セレン】に出会えた。この気持ちが元々【ヴェイト】の気持ちだと知っても、僕は僕の意思で【セレン】を助けたいと…そして、君も…助けたいんだ。
…【ヴェイト】…ありがとう…
(…俺も君のように強かったら…あの時の未来は変わっていたのだろうか…)
さあ、どうするの?

私たちはどんな選択でも構わないわ。

でも、そんなに時間はないようだけどね…

大音量を聞いた【サイパ】【村長】が村人たちを引き連れて入り江に集まってきた。

狩猟銃とぐったりと崩れ落ちた伯父を見た【村長】は伯父の凶行を察してはいたが、

【ヴェイト】たちとのやり取りに頭が付いていけなかった。

【サイパ】さん、ありがとう。これからいいお付き合いしたかったけど…残念かな。
【ヴェイト】は【サイパ】の方に顔を向けると、一言いった。
【ヴェイト】くん?

何を言っているんだ?

覚悟を決めたのだね。
さあ、約束は守ってもらうよ。
【ヴェイト】は【魔性】の手を取ると、静かに【魔性】に取り込まれていった。
【セレン】…悪い、約束守れそうにない…。

【ヴェイト】一人にいいカッコさせたくないからね。

【セレン】を守るのは俺の役目だろ?

そうね。私もけじめをつけるわ。

今度は守られるだけじゃなくて…好きな人を守りたいから…

続いて、魂だけの【ヴェイト】も自ら【魔性】に取り込まれていく。

【セレン】は村の人たちの方に向けると笑みをこぼして、一礼してから海の底へと潜っていった。

しばらくすると、海の底からいくつもの光が吹き出し、海面を白く染め、辺りはひかり輝いた。

ひかり輝くなか、海面からいくつもの光が天へと昇って行った。

村人たちはそれを涙を流しながら見つめていた。


つづく

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登場人物紹介

【ヴェイト=スグレイ】

ごく普通の大学生で小説を書くことが趣味。

彼女が欲しいと思ったことはあるが付き合いたい女性はいなかったため

恋愛経験はほとんどないに等しい。

若干、内向的な性格ではある


【伯父さん】

島の村長とは親交があり、島の暮らしは長い

普段はとてもやさしいが、規則などに厳しく保守的な考え方を持つ

息子がいたが【魔性】の犠牲になった

【サイパ】

村長の息子で次期村長。

保守的な考えの持つ島民が多いなかで柔軟な考えを持つ。

父の村長とは意見の対立が大人になるにつれ増えつつも逆らえない自分に憤りさえ感じている。

【セイレーン】

島の入り江に住む【魔性】

若い男を綺麗な歌声で誘い、海に引きずり込む。

成仏できない死者たちの集合体とも云われている

【村長】

【サイパ】の父で村の村長を務め、【伯父】と親交がある。

しきたりや礼節に厳しく、古い考え方の持ち主でもあり、保守的でもある。

息子とは考え方の相違によって喧嘩が絶えないが、親として応援したいと思っている。

【ヴェイト】

島の伝承で語られている村長の息子。

遭難した【セレン】を助け、面倒を見るうちに好意を持つようになる。

島の外の世界に興味がある。

【セレン】

島の伝承で語られている遭難した女性。

【ヴェイト】に助けられ、村で生活しているうちに【ヴェイト】に好意を寄せる。

助けてもらった恩があるせいで、その気持ちを隠している。

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