第6話 【伝承/恋心】
文字数 1,746文字
ノックをすると、待っていたように返事がすぐに返ってきた。
歳も近いし、性格も問題ないだろう。
【ユヴォリ】夫妻の了承ももらっているから、これは決定事項だと心しておけ。
一度きめたことは一切曲げず、人の意見すら聞く人でもなかった。
結婚をして、村のために成すことをする。
遅いよりも早い方がいいに決まっている。
これは命令だ。
本人にとって、結婚はまだ早いと思っていたし、好きな人と結婚したいと思っていたからだ。
村の外へ行きたいという夢は父がいる限り、それは叶わないと感じていた。
村長の息子として生まれてしまったという半ば、諦めもあった。
それでも結婚だけは自分のしたいようにしたかった。
それに、結婚してからお互いに【情】が生まれることもある。
お前の母との結婚もそうだったからな。心配はしていない。
話は終わりだ。
しばらく、部屋の前で呆然としながらも、胸の奥から沸き起こる怒りと絶望にどうしていいか
わからなくなった。
潮風が気持ちがいい。はっきりいって、村から出るのは名残惜しい。
村長は少し強引で威圧的な性格で【セレン】は苦手ではあったが、
それ以外は村人たちは基本、いい人が多く、住み心地がよかった。
窓から外を見ていると、浜辺に行く人影が見えた。
【セレン】はその背中を見て、元気がないように感じた。
声をかけるか迷っていたが、彼女は意を決して声をかけた。
静寂と波音、そして、潮風が二人を包んだ。
世界に二人だけしかいなくなったような錯覚さえ感じていた。
『息子が一緒に行きたいといってきたら断ってくれ』
【セレン】の頭の中に村長の言葉が蘇っていた。
彼女も数日しかいなかったが、村長の人となりは理解しているつもりだった。
村長と【ヴェイト】の二人の気持ちも言い分もわかるだけに【セレン】もどう返事をしていいのか、わからずにいた。
誰かを村長として育てればいいだけなんだから。
父さんは自分の思い通りになる人間が欲しいんだ。そうに決まっているよ。
そうじゃなきゃ、俺に結婚しろなんていわないよっ!!
静寂が辺りを包み込み、二人だけの空間に変わっていた。
それを遠くて見ていた人物がいたが、【ヴェイト】と【セレン】は気づくことはなかった。