第4話 使徒言行録

文字数 1,465文字

概要

 聖書には、化学の記号式であらわせる世界と霊の世界があり、霊の世界は人間に証明することはできず、信仰の領域に属する。たとえば、人間は霊、心、体からなっているととらえられており、霊の存在を前提として書かれている。また、聖書によく出てくる霊は、神の霊(聖霊)、人間の霊、悪魔の霊(悪霊)の三つである。

 使徒言行録には、イエスの十字架上での死後、50日ほど経ち、イエスの弟子たちが聖霊を受け、知らない他国語で語りはじめたことが記されている。ペンテコステの出来事と呼ばれているものである。前半は、イエスの弟子たちのなかで中心的であったペテロ(ペトロ)のことが書かれており、後半は、ユダヤ教からキリスト教に改宗したパウロのことが書かれている。

 新約聖書を読み、イエスのことを知ってから旧約聖書を読む方法は、「キリスト教的読み方」、「キリスト論的読み方」、「十字架の窓を通しての読み方」と言われる。

使徒行伝の内容

 使徒言行録の9章1節から9章19節は、サウロ(=パウロ)の回心に関する記述である。ここには、パウロは、ファリサイ派としてキリスト教徒を迫害する立場にいたのだが、キリスト教の迫害のため、ダマスコに向かう途中、光に包まれ、イエスの声を聞いたあと、洗礼を受けたことが書かれている。

コメント

 使徒言行録はルカが書いたものとされるが、ここにはサウロ(=パウロ)の回心の出来事も述べられている。この出来事は、パウロが、律法の遵守により神から義とされる行為義認論の立場から、イエスによる罪のあがないによる救いを求める信仰義認論の立場、福音主義の立場へ変わったことを示すものである。
 パウロは、もともと律法の遵守を重視するファリサイ派に属していたのだが、使徒言行録の第9章には、ダマスコに行く途中、光に包まれ、イエスの声を聞き、のちに洗礼を受けたことが記されている。新井によれば、回心とは「不安を感じ、危機感を抱いている人が、今までの生き方や価値観が心の中で分裂し、心が転回し、新しいより高い宗教的な境地に入っていくことである」とされるが、より高い宗教的境地に入ったかどうかはともかく、パウロは、この体験により、イエスの十字架上での死による救済を信じるキリスト教徒となったと伝えられている。
 回心後のパウロの考えは使徒行伝以外にも述べられており、たとえばローマ信徒への手紙には「ただキリスト・イエスによる贖いの業を通して、神の恵みにより無償で義とされるのです。」(3:24)、「なぜなら、わたしたちは、人が義とされるのは律法の行いによるのではなく、信仰によると考えるからです。」(3:28)などと記されている。
 このように、パウロは行為義認論から信仰義認論の立場に変わったのだが、さらにパウロは「それとも、神はユダヤ人だけの神でしょうか。異邦人の神でもないのですか。そうです。異邦人の神でもあります。実に、神は唯一だからです。この神は、割礼のある者を信仰のゆえに義とし、割礼のない者をも信仰によって義としてくださるのです。」(ロマ3:29-30)と考え、福音主義を異邦人世界へと伝道した。パウロは、キリスト教の中心思想の確立、キリスト教の世界宗教化につながる役割を果たしたのである。

参考文献
新井智(1976)『聖書その歴史的事実』日本放送出版協会
佐藤優(2010)『新約聖書I』文藝春秋
鈴木崇巨(2016)『1年で聖書を読破する』いのちのことば社
山折哲雄(2014)『キリスト教入門』岩波書店
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