二十一~二十四

文字数 15,470文字

 二十一
 「きょうはね、ほんとに息切れしなかったんだよ。試合は負けちゃったけどね」
 JR蒲田駅に到着したのは十時すぎのことで、小林良介との約束までまだ時間があった。隣接する東急多摩川線蒲田駅の高架下まで足早に歩きながらサナエが電話を入れると、和幸はうれしそうに話しだした。車いすでもらくに入店できるいつもの東雲の食堂で、コーチを囲んで遅い夕食を食べているところだという。
 「ごめんね、行けなくて。お店のほうがてんてこまいで、ヘルプ頼まれちゃったの」
 「いいって。ねえ、晩ご飯食べちゃった? カナちゃん」
 和幸はバンディッツのボランティア名簿に登録された偽名でサナエのことを呼んだ。その名で呼びかけられるたびに、サナエはいまの境遇がいやになる。堂々と本名――サナエだって偽名だ――の厚川めぐみが名乗れる日はやって来るのだろうか。
 「うぅん、適当にすませちゃった」
 「もうお腹いっぱい?」
 「そうねえ……」
 「もうしばらくやってると思う。いまから来たら?」
 「いまから? もう遅いわよぉ」
 和幸はものわかりがよかった。いつも分をわきまえている。それがサナエには切なかった。浜野を訪ねた渋谷界隈には、この時間から和幸と同年代の若い子たちが集まりだす。体さえしっかりしていれば、和幸だって親の目を盗んでそれに加わることだってできたのだ。
 電話を終え、サナエは右肩にさげたいつものデイパックの肩ひもを握りしめた。
 指定された高架下には居酒屋がひしめいていたが、しばらく進むと人気が急に途絶えた。そこから先、線路は地上に下り、中学校の前を通過してつぎの矢口渡駅へと伸びていく。その地上に下りるあたりで待つようにサナエは指示されていた。
 記憶が正しいなら、小林良介は二十三年前、父が潜入していた暴力団「菅和会」――いまではSGコーポレーションなんてまっとうな企業を名乗っていた――の構成員だった。同姓同名の可能性もあったが、クスリの仲買人というところを見ると、きっと同一人物だろう。人形町のマンションに隠してあるファイルには顔写真も添付されていた。本当ならそれを確かめてきたほうがよかったが、その時間はなかった。それに当時、二十四歳だったから、ずいぶん顔も変わっただろう。写真なんてあてにできない。向こうはこっちの風体をいろいろ訊ねてきたが、自分の格好についてはなにも言わなかった。サナエは腹をくくるほかなかった。
 浜野の事務所を出たあとサナエは、夏崎巌なる人物が経営する町工場――アロー・コネクタ産業という電子部品メーカー――に勤める小林良介に電話を入れてみた。突然の電話に小林は初めはいぶかしそうにしていたが、浜野の名前とヘロインの話をすると警戒しながらも話に耳を傾けた。
 サナエは処分に困ったぶんがあるので格安で買い取らないかと代金を提示した。小林はしばらく思案したが、会うことに同意した。サナエにはこの男の腹のなかが見えるようだった。おとり捜査に女を使うわけがない。だったら浜野と付き合いのある――もしくはやつが手を出した――ホステスかなにかだろう。もしブツが本物なら、うまいことだましてぶん取るのも悪くあるまい……ざっとこんな感じだ。そして面会場所に指定した高架下の暗がりでは、お仲間がずらりと見張っている――。
 スマホが鳴った。
 家路を急ぐサラリーマンが何人か、目の前を通過したときだった。二回目のコールでサナエは電話に出た。
 「よお」小林は最初に電話したときより気安い感じになっていた。サナエは秘密工作用のデイパックの中身を再度、頭のなかで確かめた。「あんた、見えてるぜ。なかなかの美人だな」
 すばやく目を走らせたが、線路わきに車が何台か停まっているだけで人気は途絶えていた。「どこにいるの?」
 「すこしもどってくれ、あんた、行き過ぎてる。そこからだと三台目になるかな」
 「車のなかなの?」
 「ああ」
 電話は切れた。サナエは目を凝らした。一台目は工事現場にフリーターたちを乗せていく白のワゴン車。二台目は小金持ちの若い女が好みそうな赤いアルファロメオ。そして三台目はその筋の者にはぴったりの黒のベンツだった。サナエはそっちに向かって歩きだした。
 ワゴン車のわきを通ったとき、運転席が目に入った。髪を金色に染めた若い男が火のついたたばこを運転席の窓から出していた。サナエに気づくと、いやらしい目つきで見返してきた。それを無視してサナエはアルファロメオに近づいた。
 そのときだった。
 背後でスライドドアが開くがらっという音がした。
 振り向いたときは遅かった。サナエは二人の男に抱えあげられ、たちまちワゴン車に連れこまれた。運転席の金髪男はスライドドアが閉じるより先にアクセルを踏みこんだ。
 「放して!」
 ワゴン車の最後列のシートだった。サナエは激しく体を揺すり、左右の腕をつかむ男たちを振り払った。だが前のシートにいた男が手にするものがサナエの抵抗を制止した。
 「いやいや、ほんとに美人だな」
 二十代のころの面影がわずかに残っているような気がした。リボルバーの銃口をサナエの顔に向ける男こそ、小林良介だった。
 「どこに連れて行くって言うの? 商売しにきただけなのに」憮然としてサナエは小林をにらみつけた。
 「わかってるって。でもこんなところじゃ、商売するわけにいかないだろう。あんたがおとりの刑事(ルビ、デカ)さんじゃないなんて証拠もないんだからよ。こっちだって見極めが必要なのさ。まあ、見たところ、張り込みの連中はいないみたいだったがな」
 「そんなふうに思われてるなんて知らなかったわ」
 「まさか。素人じゃあるまいし」
 車は蒲田の裏道を猛スピードで進み、環八も横ぎった。その先は多摩川だ。
 「ちょっとでもへんなまねしてみろ。商売はなしだ。そのまま解放してやる。ただそれも若い連中がうんと言えばの話だがな、べっぴんさんよ」
 背中に虫酸が走った。小林はなめ回すようにサナエのことをねめつけてきた。両脇の男たちもそうだし、運転席の男は始終、バックミラーに目を凝らしていた。
 「この車、動くラブホテルってわけなの? あんたたち、しょっちゅうそんなことしてるんでしょう。会社帰りの女の子たちを連れこんで」
 「どうかな。若い連中のすることなんていちいち気にしてねえからよ」
 「小林さん、ぜんぜん更生してないのね。夏崎さんが泣くわよ。せっかく働かせてもらってるんだから」
 小林はひるんだ。いきなりジャブをくりだされ、目を丸くしている。「驚いたぜ。ちゃんと調べてるとはな。つまり、あんた、保護司の先生の回し者ってわけか?」
 「そんなまっとうな人間じゃないわ」
 明かりの消えた町工場が並ぶ裏道をワゴン車は疾走し、土手にぶつかった。その先は河川敷だ。金髪男はそこへ至る真っ暗な遊歩道を見つけ、ハンドルを切ってそこに乗りあげた。
 小林は背後に目を凝らした。「お供はついてきてないみたいだな」
 「あたりまえじゃない。ほんとに商売しに来ただけなんだから。こんなに警戒されたこと初めてよ。なにビビってんの?」
 「威勢がいいな、お姉ちゃん」右隣の男が声をあげた。「もっと話聞かせてくれよ。ここならだれもこない。おれたちだけだぜ」まだ十代だろう。シャブ漬けらしく目がうつろだった。
 「商売以外のことをたくらんでるなら、残念な結果になるわよ」
 「おれは年上が大好きだ」
 いきなりサナエは右胸をつかまれた。瞬時に体が反応し、左の拳が若い男の鼻にめりこんだ。サナエは中指にエッジの尖った指輪をはめていた。それが皮膚を切り裂き、骨を砕くのが感じられた。三十秒は身動きできまい。そのまま男のひざを乗り越え、スライドドアに飛びつけばいい。だが小林のリボルバーはどうしよう。
 「よせって」小林が苦々しく言った。「仲よくやろうぜ。おれたちだって商売が第一なんだ」
 ワゴン車は川岸ぎりぎりのところまでそろそろと進み、堤防のところでとまった。目の前に黒い川面が見える。大雨が降ったらしく増水し、流れは早かった。
 「見せてみろよ。あんたの言うブツを」
 サナエは鼻を押さえてうめく右隣の男を警戒しながら腹の前で抱えたデイパックを開こうとした。小林がそれをとめる。「おれが確かめる」
 途端、左側にいた男にデイパックを奪われ、そのままそれは小林の手に渡った。
 「いいわ。好きに確かめるといい。上物よ」
 小林は探るような目でサナエを見つめたまま、デイパックのジッパーを開き、ずっしりとした洋菓子店の紙袋を取りだした。「五キロか」
 厳重に封をしたガムテープを小林が剥がしはじめるのを見て、サナエは悟られぬようTシャツのすそをめくり、へその前でジーンズにはさんだものに手をやった。
 「お金は持って来たんでしょうね」
 「信用第一だぜ」そう言って小林は、身を乗りだしてかたずを飲む男たちの前で、紙袋を一気に開いた。
 その瞬間、猛然と白煙が噴出した。
 「……!」
 男たちは声をあげることができなかった。激しくむせ返りながら目を押さえている。すでにそのときにはサナエは、隠し持っていたガスマスクを装着していた。
 スライドドアから最初に外に転がり出たのは、サナエが鼻の骨を折った右隣の男だった。それに這うようにして小林がつづく。運転席の金髪男はドアロックの場所が見つからぬまま催涙ガスをさらに吸いこみ、ドアをかきむしっていた。
 サナエも外に出た。
 駅前よりずっと涼しかった。
 コンクリートの堤防の上で、鼻から血を吹いた男がのたうちまわっていた。サナエは男がもう一度立ちあがったとき、背中を軽く押し、水に落とした。左隣にいた男もスライドドアから転がり出て、両目をかきむしりながらゾンビのように草むらをさまよっていた。サナエが手を貸してやる必要はなさそうだった。あと十歩も歩けば、増水した川が待っていた。
 運転席のドアがようやく開いた。
 サナエはそっちに足を向け、金髪男のシャツを引っ張って、仲間が真夜中に水遊びをする場所までエスコートしてやった。
 あやうくそれに加わるところだった小林に、サナエは足払いをかけた。堤防に後頭部をしたたか打ちつける鈍い音がした。
 「はめた……な……」小林の両手はなおも開かぬ目を必死にこすっていた。
 「軍事用のガスなの。できるだけ早く洗浄しないと、二度とものが見えなくなるわ」アブグレイブで米軍がイラク人に対して行った拷問の一つについて、サナエは手短に説明し、仰向けになったままもがいている男の腹にまたがった。
 「たすけてくれ……」
 「それはあなたしだいよ。あなたがいま勤めてる工場の社長さんのことなんだけどね、黒い金を洗ってるらしいじゃない?」
 「洗うって……おまえ……何者だ……ちがうんだぜ。洗ってるのは……社長じゃない」
 「夏崎さんじゃないの?」
 「ぎ……銀行の男だ……あぁっ、目が焼けそう……だ!」
 助けを求めて小林はうめいたが、サナエは無視した。ついに銀行員が浮上したのだ。ここで手をゆるめるわけにいかない。
 「だれなの?」
 「おれたちが……使ってるんだ。帝都大洋銀行……ウスイ……って男だ」
 「ウスイ?」
 サナエはサイードの話を思いだした。銀行の要職に就く人物で、その男を確保すればマネロンも当面は容易になるという。
 小林は苦しみながらも銀行員の行状についてしゃべった。
 その銀行員はいま、小林たちSGコーポレーションの金を洗ってきたことが部下にばれそうになり、窮地に陥っているという。まさにサイードが言っていた話だった。サイードはそのことを、ムハマドの賭博仲間である浜野に紹介された夏崎巌から聞かされ、銀行員が部下を殺害するためにC4を融通した。たしかその実行行為は間に入った“協力者”が面倒を見るとの話だった。
 「ここに……入ってる」小林はズボンに手を突っこみ、スマホを取りだした。サナエはその電話帳を開き、笛吹勝二の名前を見つけた。帝都大洋銀行経営企画室の次長だった。時間がなかった。サナエはそのまま小林のスマホで笛吹に電話を入れた。
 不通だった。
 「笛吹さんはいまどこ! 今夜やるんでしょ!」サナエは声を荒げた。
 「知らねえ……よ」
 「自分の部下を殺すんでしょ……爆弾で!」
 「なんだよ……それ……」口調からうそでないとわかった。小林は殺害計画までは知らないようだった。
 そうか。
 サナエは合点した。裏で糸を引いているのは“協力者”であるアロー・コネクタ産業の社長、夏崎巌だ。
 「夏崎さんはあんたたちの仲間なの?」
 「ちがう……社長はおれのこと……面倒見てくれた……ムショ入ってたから……おれがヤクから抜けられない……ことも……わかってくれて……笛吹のことも話したんだ……社長も苦労してんだよ。笛吹のこと……前から知ってたんだ」
 「夏崎さんが笛吹さんのことを知っていた?」
 「ムショだよ……笛吹にはめられたって……」小林の声は消え入りそうだった。
 「どういうこと?」
 「もう何年も前の……話だ。社長の会社がつぶされたんだよ……笛吹のせいで……元々はうちの社長……実験用の猿の……輸入会社にいたんだ。その利権を……奪われたあげく……逮捕された」
 「笛吹さんのせいで?」
 「笛吹は動いた……だけだ……黒幕は……商社の男だ……東洋開発の……白石とか……言ってた」
 「白石?」
 「そうさ……いまも恨んでる……みたいだ」
 サナエは小林を立ちあがらせた。小林はいまではSGコーポレーションを名乗る暴力団の構成員で、二十三年前、サナエの家族が惨殺されたときもそこに所属していた。
 「もう一つ、聞きたいことがあるの」
 「目が……もうだめだ」
 それを無視してサナエはいくつか質問をした。小林は必死になって記憶をたどらざるをえなかった。
 「歩けるかしら?」
 「な……なんとか」
 「じゃあ、そのまままっすぐ進んで。水場で目をよく洗うといいわ」
 ようやく解放された薬物密売人は、ふらふらと仲間たちのもとへと歩きだした。

 二十二
 「酸素の消費量が四分の三になったっていうのに、ぜんぜんらくにならないな」
 口走ったのはおれでなかった。祐子の死体に腰掛け、切れかかった懐中電灯の明かりのなか、村山がぼそりと言ったのだ。
 もう十時半だった。
 監禁されてからもう六時間がたっている。行員の大半が退社し、ほかのエレベーターも一階で停止しているころだ。警備員も定期的に巡回するほかは、防犯カメラのモニター画面をおざなりに眺めている。そんななか、一台のエレベーターがビルの何階かで宙ぶらりんになったまま忘れ去られている。
 経営企画室御用達の黒塗りクラウンはもうとっくに出発している。それどころか羽田に到着した専務を首尾よく後部座席に乗せているころだろう。ということは起爆装置となる携帯メールに掛けた保険がいよいよ発動される第二ステージに移行し、昨夜、家に電話をかけてきたあの外国人が、まだエレベーターのなかでもたもたしているスマホに向けて外部からしきりに電波を発射しているころだろう。そう思うとぞっとした。
 おれは換気口がふさがれた天井を見あげ、あんぐりと口を開けたまま声も出せなかった。祐子の死臭や村山の汗の臭いにくわえ、おれ自身、ひどく臭った。言うなればエレベーターのなかは、排水管が詰まった築四十年の都営住宅の台所で、腸炎ビブリオ菌に侵された大量のアサリをうっかりシンクにぶちまけたまま一週間以上が過ぎた真夏のある日のようなありさまだった。
 計画失敗を認めたくなかった。
 だから次善の策を考える必要があった。が、とにかくいまはここを出るほかない。
 「やっぱり笛吹さん、そこのタッパーに入ったスマホのメルアド、言ってもらわにゃならんですよ。ほかの二つの質問は答えずらくても、メルアドなら大丈夫でしょう。このエレベーター、いまは圏外の場所のほうが多いんですから」
 村山の顔にも憔悴の色が漂っていた。しかし手には殺人警棒を握りしめている。おれは慎重に言葉を選んだ。つぎに頭をかち割られるのは断じておれであってはならない。村山よりもむしろおれの近くに身を寄せ、キャリーバッグに顔を埋めたまま肩を震わせる小黒エミという女のほうの息の根をとめてもらわねば。
 「たしかにそうとも言えるよな」
 「そうですとも!」村山は歓喜したような声になり、立ちあがった。思わずおれは両手を頭上にかざした。「絶対にそれがいい! そうすればきっと最寄り階まで降りるか上がるかして、自動的に扉が開くはずですよ。それでタッパーを置き去りにしてダッシュで逃げればいい。もうこの際だ。爆弾のことなんか忘れちまってくださいよ。そうすればあとで電波の圏内にエレベーターが入って爆発したとしても、命だけは助かる」
 「なるほど。そうすれば祐子の死体も吹き飛ぶ。うん、さすがだな。おれも村山さんも安泰ってわけだ」
 「でしょ。カメラだって映っていないんだし」
 「試す価値ありってやつか」
 村山は本気で乗ってきた。「やっぱり男どうしは話が早い」そう言って特殊警防を縮めて腰のベルトに収めた。
 「待ってくれ。メルアドったって、正確に覚えてるわけじゃない。そうかと言って、タッパー開いてスマホのボタンを操作するのはちょっと――」
 「まあゆっくり思いだしてくださいよ。わたしはわたしでやることがある。ぜんぶが吹き飛ぶ前にね」そう告げるや、村山はいきなりうずくまったままのエミの体に覆いかぶさった。
 エミはキャッと悲鳴をあげ、細っこい腰を折らんばかりの勢いで絡みついてくる太い腕を振り払おうと、激しくもがきだした。
 「いいだろ、このアマ!」唖然とするおれの目の前で、村山は汚い言葉を立てつづけに吐いた。「やっぱり生身の女のほうがいいゼ!」
 祐子の遺体は壁ぎわへ押しやられ、壁に向かって血が筋を引いた。
 「よせ……よ」やっとのことでおれは声を絞りだせた。
 巨漢は聞く耳を持たず、おれの目の前でみるみるレイプ犯へと変貌していった。
 「助けて!」エミが叫んだ瞬間、彼女と目が合った。
 制服のスカートが腰までめくれあがり、パンストは破れてなかのレモン色のパンティが丸見えとなっていた。村山の手はもちろんそこにあてがわれ、反対の手がいま、汗のしみたブラウスを引きちぎっているところだった。エミは手足をばたつかせたが、大人に抵抗しようとする幼子のようだった。それでもおれは立ちあがることさえできなかった。まるで映画館の観客のように、目の前で繰り広げられる光景に釘づけとなるばかりだった。
 「おねがい……!」冷たく悲しい視線がもう一度、おれの目を射抜いた。
 「やめろって……」もう一度、声に出してみたが、村山は聞こえないかのように無視していた。それがわずかにおれのなかに残っていた自尊心に火をつけた。「よせって言ってるんだ!」
 ようやくそれで村山が気づき、エミの体のあちこちを触りながら憎たらしそうにこっちを見た。「いまいいところなんだぜ。じゃますんなよ。どうせ証拠なんて残らねえんだ」
 「そういう問題じゃないんだよ、このクソ警備員野郎!」
 おれもやつも同時に立ちあがった。
 「ぶっ殺してやる」憤怒に駆られた警備員がふたたび腰から縮こまった警棒を引き抜き、ひと振りして伸長させた。目は血走り、口は網焼きされたアワビのようにぐちゃっと歪んでいる。
 つぎの瞬間、警棒が目の前の空を切った。反射的にあとずさったおれは背後の壁にしたたか後頭部を打ちつけた。だが痛みを感じる間もなくつぎの一撃がくりだされ、たまらずおれはひざを折り、横たわったままの祐子の上に倒れた。そのときおれは無意識のうちに身を守ろうと、そこにあったなにか硬いものをつかんでいた。
 「死にやがれ! このクソサラリーマン!」
 殺人鬼と化した大男がコンクリートをも打ち砕く凶器でさらに襲いかかってきたとき、おれはとっさに横に身をかわしてかろうじて死の一撃から逃れた。そして手にしたものを闇雲にやつに向かって何度もたたきつけた。
 そのうちの何発目かがどこかにあたった。ぐちゃりというなにかが潰れたような感触が手に伝わってきた。
 「うぅっ……」
 懐中電灯はどこかにすっ飛んでおり、なにが起きたか暗くてよく見えなかった。だがそれ以上、村山は襲ってこなかった。床にがっくりとひざをつき、たったいまおれが倒れこんでいた祐子の遺体の上に覆いかぶさった。
 おれは、むきだしになったままのエミのパンティを照らしつづける懐中電灯に飛びつき、拝むような格好で両手で顔を押さえる村山を照らした。広い肩がぴくぴくとけいれんし、首のうしろが粟立っている。いきなり振り向いて襲ってくる気配はなかった。
 キャンプ場のバンガローでアオダイショウを見つけたときのようにびくびくしながら、おれは警備員の肩に手を伸ばし、力を入れてみた。
 ごぼごぼと喉の奥が鳴り、村山の口から大量の血が噴きだした。だがそれよりもおれが胆を潰したのは、やつの右目に深々と突き刺さった祐子のハイヒールだった。
 黒いエルメスの高く細いヒールは、ちょっと前には傍若無人の持ち主が気まぐれにくりだす殺人キックによってこの警備員の顔の肉を削り取っていた。だが最終的にはおれがこの手でつかんでやつの眼球を貫き、その先端を脳の柔らかい部分へと導いてやっていた。
 アンモニアの臭いが鼻を突いた。
 死に向かって一直線に進む警備員の筋肉が弛緩したのかと思ったが、そうではなかった。スカートを直しおえたエミの尻のあたりに液体が広がりだしている。恐怖の余韻に失禁したのだ。
 「もう大丈夫さ」
 真っ青な顔をしたエミに向かってそうは言ったものの、おれだって手が震えていた。同時に強烈な尿意をもよおした。考えてみてくれ。もう六時間も小便をがまんしてるんだぜ。汗になって蒸発したぶんもあるんだろうが、それでももう膀胱は臨界点だ。だからエミだって似たようなものだったのだろう。尿意に気づいた途端、もうがまんならなくなってきた。
 おなじだ。
 あのときとおんなじだ。
 おれは一九九二年の夏を思いだしていた。
 銀行が儲かって儲かってしかたなかった時代、まだ勤めて二、三年目のころだ。蒸し暑い真夜中、おれは成田まで趣味の悪い改造を施したセドリックを飛ばし、地図で確かめておいたちっぽけな貿易会社近くの林道に停めた。ほんとはおれがそこまでする予定はなかったが、不測の事態だった。実行犯役のちんぴらが急に下痢で動けなくなって、代わりにおれがやつの改造車を駆るはめになったのだ。
 おれはまだなにもしていないのに手が震え、小便がしたくてたまらなくなった。それでもこの手で計画を実行した。
 そうしなければならなかったのだ。
 それからおれは貿易会社の建物まで暗闇を進んだ。途中、だれかに見つかるかとひやひやもんだった。 震える手には夏なのに革手袋をはめ、白い粉の詰まったビニール袋をしっかり握りしめていた。

 二十三
 「休ませてください。もう歩けない……」
 二十分も歩かぬうちに夏崎が音をあげた。顔面蒼白で死人のようだった。杖をついているものの、骨折の痛みと出血がひどく、体力を急速に消耗させているのだ。
 「だめだ」
 白石はそう言い放ち、無情な足どりで道を進んだ。足下はかろうじて開けている。このまま町まで出られそうな予感がした。すがりつくようにあとからついてくる同級生の苦しげな息づかいを聞くにつけ、白石は歪んだ優越感にひたった。夏崎がなにをたくらんでいるか知れないが、これでもうおしまいだ。やつとの関係はこれっきりにしよう。ねたむにもほどがある。さんざんこっちをもてあそんだ罰だ。せいぜい苦しむがいい。
 「だめだ……もう……」がさりと大きな音がした。白石が振り返ると、夏崎は草むらで倒れていた。
 「マムシに食われるぞ。それでもいいなら置いていく」
 「五分でいい。休ませてください……」
 「熊が出るんだろ。できるだけ動いて音を出していたほうがいいはずだ。ほら、立てよ」
 「足が痛くて……痛み止めをください」
 「さっきリュックを見たんだが、なかったぞ。あるのは人殺しに使えそうな鉈ぐらいだった」
 「うそだ……ちゃんと持ってきました……よく見てください。サイドポケット――」
 そのときだった。
 いましがた夏崎が倒れたときとそっくりの大きな音が、右手であがった。白石はぎくりとして身構え、四方の闇に懐中電灯を振り向けた。なにかがこっちを見ているような気がする。何時間か前、川原で遭遇した黄色く光る目のことが頭に浮かんだ。
 「熊がいる」夏崎が不安そうに言った。「縄張りに入ってしまったかもしれない」
 「だったらなおのこと急がないとな。おれは一人でも進むぞ。おまえはゆっくり休んでからついてくるといい。心配するな。歌でも歌いながら進んでやる。そっちに向かって歩いてこい」
 だが実際問題、道に迷わないともかぎらない。たとえ夏崎でも一緒にいたほうがいい。
 うめきながら夏崎は立ちあがった。「行きます。熊なんてごめんだ」
 それからさらに二人で歩きつづけた。ろくに休んでいないし、食糧も補給していないのに、どういうわけか白石は体力が増していた。ゴールが近いからだろう。ただ始終、どこからか見られているような気がしてならなかった。飢えた熊があとをつけてきているのだろうか。白石は本当に歌を歌いだした。カラオケでやるような海の男の演歌に始まり、大学の校歌、マグマ大使の主題歌にまでおよんだ。うしろの男はそれをじっと聞いていた。しかし三十分ほど歩いても深い森のままだった。
 白石は不安を覚えた。
 足下は下草ばかりで道も消えている。道は町までつづいている。夏崎はそう言っていた。迷ったのだろうか。
 水の音がした。
 川だ。
 もうここまで来たんだ。そっちに行ってそれに沿って進んでもいい。白石は足をとめ、耳をすませた。右手の方角だった。
 「ど……どうしました」十メートルほど離れたところからついてきた夏崎が訊ねた。
 「さすがに喉渇いてきたろ」
 「はい、喉が焼けそうで」
 「川があるみたいだ。そこで喉を潤して、ついでにそれに沿って下るってのはどうだ」
 「そうですね……迷っちまったみたいだし」
 あっさりと言われ、白石はぎくりとした。「そうなのか?」
 「はい、もっとゆっくり進んでいただければ……わたしも記憶をたどりながらついてきたのですが……すみません、途中で言えばよかった」
 白石は右のほうを懐中電灯で照らした。明かりは弱々しかったが、そっちに目を凝らした夏崎が言った。「崖ですよ」
 白石は草むらをかきわけて前に出た。こうなったらそっちを進むしかない。
 夏崎の言うとおりだった。川は近いが、崖の下だった。高さは七、八メートル。垂直に近かった。
 「わたしには無理だ」
 「迷ったならしかたあるまい。川沿いに行くぞ」
 「また伏流します」
 「なんだと?」
 「おなじだと思います。戻ったほうがいい」
 それまで散らしてきた疲労感がどっと高まった。白石は憮然として言った。「おまえ、ほんとに道知ってるのか? うそつくのもいいかげんにしろよ」
 「やめてください……こんな体ですよ。見てください」
 そう言われ白石はやつの足下を照らした。折れた足首が、象皮病患者のようにこぶ状に腫れあがっていた。
 「こんなので歩けるわけない……熱も出てきたみたいだし」
 白石は選択を迫られた。だがまずは喉の渇きを抑えないと。頭がおかしくなりそうだった。「おれは水を飲んでくる」荷物をその場に置き、白石は一人で崖を下り始めた。
 「すみません……これを……」
 夏崎は空のペットボトルを手渡そうと杖をついて近づいてきた。白石は黙ってそれを受け取り、崖を下った。
 やっとの思いで下まで到達した。白石は心躍った。明かりに照らしだされた川面はよどんだ泥水でなく、白波が砕ける清らかな渓流だったのだ。白石はそこに四つん這いになり、顔を突っこんだ。
 きょうの苦難をすべて忘れさせるような軟らかな水だった。本能のおもむくまま白石はがぶがぶと飲んだ。
 白石は生き返った。
 それからペットボトルに水をくみ、崖を登った。だがぐったりとして横になる夏崎にペットボトルは渡さなかった。キャップに水を注ぎ、それを開いた口に一度、流してやっただけだった。
 「もっとください!」
 「やるよ。ちゃんとした道に出たらな」
 「ひどいことを」
 「おまえがちゃんと道を教えればよかったんだよ。へたに水をやって、まただまされたらたまらないからな」
 「おねがいです。もうひと口でいい!」
 「だめだ。さあ、行くぞ!」白石は夏崎を立ちあがらせ、先を歩くよう駆り立てて前に来た道を戻った。
 だが夏崎は一度休んだことで力尽きたらしく、牛歩のようにしか進めなくなっていた。それにいつまでたっても道らしきところに戻らない。
 「いったいどうなってるんだ」
 夏崎は足をとめ、うずくまった。「頭が痛くなってきた。もうだめです。歩けません……」
 「そんなことを聞いてるんじゃない。さっきの道はどこなんだよ!」
 「迷ったんですよ。明かりも弱いから……見逃したのかもしれない。とにかく、もう――」
 「許さんぞ」白石は憎悪をこめた。「欲しいのは水か、痛み止めか? もういいかげんにしろ。おまえだって、早く医者に診てほしいだろ。見ろよ」そう言って白石は懐中電灯を夏崎の足下に振り向けた。「出血がひどい。そんなタオルじゃ、止血にならないんだ。太い血管を切ったんだ。骨折よりそっちを心配したほうがいい。へたすりゃ今晩もたないぞ」
 「わからないんですよ……ほんとです。もう困らせようなんて思っちゃいない……」
 「やっぱりそうだったか。なんの恨みがあるか知らないが、ぜんぶ計画的だったんだろ。東京に帰ったら覚えてろよ。おまえの会社とは絶縁する。弁護士とも相談するからな。警察に告訴してやる。おまえをどん底に落とす。絶対に」
 「小屋がある」
 「なに?」
 「もう長いこと使ってないんでしょうが、避難小屋があるんです」
 「避難小屋?」
 「この木です」夏崎は左手に立つミズナラの巨木を震える指で差した。「根元に縄がかけてある」明かりを向けると、太い木の根のところに黒くなった荒縄がひと回り巻かれていた。「つぎに我々が切り開くルートだったんです。そっちに入ってきてしまった。予定地の目印として太い木に縄をかけていった。避難小屋を起点にね……番号札を見てください」
 白石は木に近づき、根の回りを一周した。幹回りでゆうに五メートルはある。裏側に犬の鑑札のようなステンレス札がついていた。
 「七番だ」
 「よかった……近いですよ。十五メートルおきに巻きつけてある。目ぼしい木……探してください。無線機が――」そこで夏崎は力尽き、横たわった。
 「無線機? 無線があるのか?」
 返事はない。白石は無駄なエネルギーは使いたくなかった。へたる寸前のライトを何度もたたきながら目を凝らした。
 おなじような巨木――松のようだった――の根元できらりとなにかが反射した。白石はそっちに向かって進んで行った。

 二十四
 C4の花火がまだあがっていないことを祈りながら、サナエは金髪男が運転していたワゴン車を駆っていた。
 アロー・コネクタ産業はすぐ近くだ。サイードが新たなマネーロンダリング先に選び、恩を売るためにプラスチック爆弾を融通した帝都大洋銀行経営企画室次長の所在がわからない以上、仲介役である町工場の社長を見つけねばならない。時間がなかった。いまから新宿中央公園に戻ってホームレス姿の連絡係に頼るわけにいかない。もしまだ花火があがっていないとしても、零時は一つのリミットだ。すでに十一時近いからアロー社の従業員が残っているとは考えにくいが、夏崎巌の自宅を突きとめるにはほかに方法がなかった。
 SGコーポレーションの小林良介から最後に聞いた話が、サナエを突き動かしていた。
 指定暴力団「菅和会」の構成員だった野口秀文――正体は警視庁の特捜刑事・厚川二郎――が川崎の自宅で妻子とともに惨殺された事件について、小林は覚えていた。容疑者として浮上していたのは身長差のあるともに浅黒い顔をした二人組だった。それについてサナエが訊ねると、小林は、二人はクスリの輸入元であるジャカルタの組織が放った男たちで、彼らに関する情報をつかんでいる人物がいると教えてくれた。一人は、ジャカルタの組織から流れるヘロインを販売していた菅和会に奉仕する銀行員の笛吹。もう一人は笛吹をそもそもジャカルタの組織にあっせんした商社マンの白石だ。
 ワゴン車は多摩川沿いの道を疾走した。
 サナエは胸が痛んだ。
 川向こうは川崎だ。それも実家に近い。あの惨劇が起きた家――。
 そのときスマホが鳴った。
 サラ・スークのタツヒコからだった。
 「どうしたの?」
 「ムハマドとザゴラが戻ってきてさ。上で飲み始めたのさ。もう店閉める時間だろ。一緒に飲もうぜって言われてるんだけど、どうしようかなって思ってさ」
 「あら、飲めばいいじゃない」
 タツヒコはいい子だ。が、ときどき間の悪さが気になることがある。今夜はだめなのだ。絶対に。
 「サナエさん、なにしてるの?」
 「コンビニでアイス買ってるの。一日の締めくくりにふさわしい女の子らしい楽しみでしょ」
 そう口走った途端、サナエは背中に冷たいものを覚えた。タツヒコの言葉になにか探るようなニュアンスを感じ取ったのだ。それは根津の安アパートでサイードと今夜会ったときに一瞬嗅ぎ取ったのとおなじたぐいの不安だった。
 「もう人形町に帰ったんだ」
 どきりとしたが、アクセルを緩めたり、停車したりはできない。「ずっと前よ。いま外に出たところ。それがどうかした?」
 「時間あるなら、ほかのところでサナエさんと飲めるかなって」
 サナエは安堵した。そこには疑念なんかでなく、年上の女への思慕が読み取れたからだ。サナエもそれについては前から気づいていたし、べつに悪くないと思っていた。だから嫉妬するようなことをザゴラたちに言われたりするのだ。
 「ありがとう。でもまたこんどね。おいしいもの食べに行こう」
 「ほんと? うれしいな」
 「わたしも楽しみ。だから今夜は二人に付き合ってやったら?」
 「二人じゃないよ」
 「え?」
 「サイードもさっき合流した。なんか怖い顔してる」
 ほんのわずかの間、サナエは絶句したが、なんとか適当なことを言って電話を切った。
 サイードが店にやって来た。
 怖い顔をして――。
 それがなにを意味するかサナエは考えたくなかった。いまはとにかくやることがある。とはいえ頭の半分では、猛スピードでさまざまなシミュレーションが始まっていた。この不安定な状況。それこそが“埋めこみ”の宿命だった。
 そうだ。
 サイードが疑うなら、こう言えばいい。町工場の経営者という夏崎巌こそ潜入捜査官にちがいないとの仮説の下に独自調査を行っていた、と。
 胸にたまった緊張の吐息を一気に吐きだし、サナエは電柱の番地表示に目を凝らした。ガス橋を越え、町工場が立ち並ぶ路地に入ったところが、アロー・コネクタ産業の住所である下丸子三丁目だった。もう一本、路地を入ったところで目指す会社を見つけた。
 二階建ての建物と併設された工場を見るかぎり、比較的新しい会社のようだった。製品案内を記した看板によると、コネクタとは、パソコンと光ファイバーケーブルなどをつなぐ際の部品のようだった。アロー社はおもにそれを製造しているらしい。
 小林の話では、夏崎はかつて成田で実験用の猿の輸入販売を行っていたという。ところがそこへ大手商社・東洋開発の白石という男の息がかかった帝都大洋銀行の笛吹がやって来た。それで薬物犯罪の濡れ衣を着せられ、刑務所に放りこまれた。
 そのときの復讐か。
 だが待て。
 正門に立つ看板のわきにあるインターホンを押しながらサナエは頭をめぐらせた。
 SGコーポレーションのために薬物密売の利益を洗浄しつづける笛吹の不正に気づいたその部下をわざわざ高性能プラスチック爆弾を使って殺害してやることは、笛吹の利益にこそなれ、復讐にはほど遠い。
 この機会を利用して笛吹に意趣返しを行うなら、爆発物の所持を警察に通報して逮捕させればいい。かつて自らがはめられたように。しかしそれなら、わざわざ中東のテロリストなんて大それた連中に接近することもなかったはずだ。もっと言うなら、SGコーポレーションの金を洗っている事実を通報すればそれで事足りる。
 ムハマドの賭博仲間である浜野誠の話では、夏崎は出所した小林良介を更生させようとアロー社に誘ったという。自らが臭い飯を食ったから、出所後に自分とおなじように世間から冷たい目で見られる男に憐憫を感じたのだろうか? そうではないだろう。小林は根っからの悪人だ。サナエはそれを感じ取っていた。だからもし夏崎がまともな男なら、そんな人間を自分の会社に勤めさせたりはしまい。どう考えてもそこにはなにか魂胆があったように思われる。それがいま進行中の復讐劇に絡んでいるのだろうか。
 インターホンは反応がなかった。
 建物に侵入して調べるほかない。そう思って重たい鉄門を乗り越えようと手をかけたとき、サナエはうしろから声をかけられた。
 いま警察に捕まるわけにいかなかった。
 振り返ると、目の前に銭湯帰りのようなランニングシャツにスエットパンツ姿の老人が立っていた。
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