第27話 焼きそば ラーメン 円形脱毛兎
文字数 5,874文字
「ぬぉああっ。眠っ、瞼の裏の筋肉がなくなっちゃってるぐらいに眠っ」
登校中、俺はアクビを我慢することなく大きく口を開いたあと、全力で噛み殺して涙を放置した。表面世界に帰って来てから日課の勉強をしていたら、寝る時間が短くなっちゃったからなぁ。だから表面世界好きじゃないんだよなぁ、俺のアイデンティティが脅かされる。
「あっ、あーー!なんとなんとなんと!」
そんな俺の後ろから変な声が近づいてくる。無視無視、どんなに教育が義務化された現代でも変な奴はいるもんだ。社会のストレスだったり、教育と呼ぶのもおこがましいような教育を受けてきたりと、そいつが悪いんじゃなくて社会全体が悪いのだ。
「お会いできて光栄ですよ!ええ!いやーー感動しちゃうなぁ!」
俺の後ろでずっと叫んでる。うわ、やなんだけど。最高にやなんだけど。早くどっか行ってくれないかなぁ。なんでわざわざ俺を標的にするんだよ。そこら辺を歩いている可愛い女の子でいいじゃん。冴えなくて勉強だけが取り柄の野郎に絡まないでくれよ。………やっぱこいつ悪い奴だわ。社会のせいにしちゃいけない。こんなことをしようと判断したこいつが悪い。警察にでも通報すっかなぁ。俺はスマホを取り出し11とまで打ち込んでから画面を見続ける。
「4世代前ぐらいのスマホじゃーないっすか!古いなぁ!もっと最先端なの使いましょうよ!技術は日々アップデートされるんですよ!」
「OSはアップデートされるんだからそれでいいじゃん。どんなに優れた機械を持とうと、そのテクノロジーを全て使いきれないのならば高い金出す意味はないよ。ゲームや動画、連絡ツールに使うだけならこんなものでいい」
今時の学生は無駄に最先端を行こうとするから好きじゃあないんだ。どれだけ先を行った機械を使おうと、使ってる本人が進化してなきゃ豚に真珠だよ。………と、友達が少ない根暗野郎が言ってみたり。だから友達少ないんだよなぁ。
「深いことを仰られるなぁ!さすが魔王様だなぁ!」
「………………」
俺は無視して歩き続ける。あっちの世界絡みか………やな感じだな。関わらんでおこう。ああもうっ、なんで反論しちゃったかなぁ!完全無視を決め込むべきだった!
「しかも北海道で名実共に一番の学校の生徒会長もやってるだなんて、尊敬しちゃうなぁ。いやーー気がつかないもんだよなぁ。同じ学校にいたのに魔族だって見抜けなかったわけだし」
俺は立ち止まり後ろを振り返った。俺と同じブレザーを着た173〜5cmぐらいの男。今時のマッシュルームみたいな茶髪のそいつは………見たことないな。
「………なんか用ですか?」
「いや、用ってほどではないんですけどね。ええ、くっついているのが俺の役割といいますか………ほら、あなた魔王でしょ?しかも身バレした。そうなるとねぇ、やっぱり勇者側としては表面世界だけではなく現実世界でも監視をつけたいと思うのは当然じゃないですか」
外見においてはそこまで特徴はないな。今時、モテたい男子はみんなあんな格好をするから違いがわからん。ただ唯一気になるのは、カバンにつけた大量のぬいぐるみだろうか。猫のぬいぐるみがこれでもかとぶら下げられている。
「今日からあなたのことを監視することになった雫石 颯太 です。よろしくお願いしますねー」
俺は上唇を鼻にくっつけ酸っぱい顔をして頷くと、振り返って学校に向かった。あーやだやだ、やっぱイリナに会うのやめといた方がよかったかなぁ。
「…………そんな感じで、ほら、教室の外にいるだろ?休み時間中ずっと俺のこと見てんの」
俺はコーヒー牛乳を飲みながら、遼鋭に目配せで颯太の位置を知らせる。
「まぁ仕方ないよ何やらかすかわからないからね、君って奴は」
「なんつーかさぁ、あれよ、突拍子もなく思いついたことってさ、別に凄いことじゃないけど面白く感じちゃうだろ?カレー食べてる時に[昨日の漢文で読んだ奴くそしょうもなかったなー]って鼻で笑っちゃうみたいな?あれに似た感じで変なことやっちゃう」
コーヒー牛乳を飲みながら喧騒に耳を傾ける。人っていうのはどうしてこうも噂話が好きかねぇ。話し声に耳を傾けるだけで下らない内容が聞けてしまう。人間関係がほとんどメインなのだが、陰口だったり、根も葉もないものだったり、恋愛だったり………鼻で笑ってまうわ。
「やっぱり生徒会長とイリナさんって付き合ってるのかなぁ」
そして今日はこの話がダントツで多い。宏美が言いふらしたのだろうが、昨日、俺とイリナで互いに墓穴を掘ったのが良くなかった。完璧に緩んでいた。表面世界のノリで呼んだのが間違いだった。しかしさぁ、俺みたいなクソ野郎がイリナに釣り合うわけないじゃん。あり得ないって、普通に考えてみ?ないから。そんなこと考えるぐらいなら、最近起きてる連続殺人事件とかスキャンダルのことでも噂した方がいいよ。絶対そっちの情報を集める方が後々人生に役立つから。
「ふふっ、一躍時の人じゃないか。よかったね」
「いや………最高に嬉しくないんだけど」
あーーイリナに出会ってから人生最悪だ。何もせずにダラダラ生きてた方が良かったかなぁ。小説なんか書かなきゃ良かった。
「おい狩虎、明後日空いてるか?」
隣でずっとイリナと喋っていた宏美が聞いてきた。
「明後日ってことは祝日だろ?………ないな、やらなきゃいけない勉強がたんまりあるんだ」
「じゃあ空いてるってことか」
「いや空いてない。俺の言葉をよーく思い出してくれ、そしたら納得するはずだから」
「空いてるってことか」
「むふーー。遼鋭、言ってやれ」
「空いてるよ」
「よし、イリナちゃんと遊ぶぞ」
むふーー。これだから俺の幼馴染は俺からの信用が低いのだ。
〜放課後〜
「どう思うよ翔石君、人の都合を考えずに生きるのってあまりにも身勝手だよね」
「会長の都合なんてあってないようなものですから、別に良いんじゃないですか。貴方が幸せになろうと不幸になろうと興味ないですし」
いや、辛辣すぎない?この後輩、生徒会長である俺に対してあまりにも辛辣すぎない?
「一応俺生徒会長よ?」
「じゃあ仕事してくださいよ。あんた就任してから仕事したことあります?」
「あ、あるよそれぐらい。いつもやってるだろ?PCカチャカチャしてさ」
「ゲームしてるだけじゃないですか」
「ゲームしてないもん」
「コーヒー牛乳飲んでるだけじゃないですか」
「飲んでるもんっ」
俺は冷蔵庫から取り出した500mlのコーヒー牛乳をチューチュー飲み続ける。
「………思ったんですけど、ミフィー君、コーヒー牛乳飲み過ぎじゃないですか?糖尿病になりますよ?」
空いていた生徒会役員用の机に座っていたイリナが宏美に聞いた。
「ぷぷっ、ミフィー君だって。狩虎なのにミフィー君だって」
「イリナが俺のことをそう呼ぶたびに笑うのやめようぜ?悲しみの末に禿げるよ俺」
「円形脱毛兎………ぷぷっ、ダサっ」
あーー禿げる。毛根が死滅する。
「イリナちゃん、狩虎は1日に4本はコーヒー牛乳を飲まなきゃ生きていけないようなジャンキーなんだ。もう手遅れなんだよ…………見放してやれ」
「そうそう。俺みたいなバカが頭を常に使い続けるには大量のエネルギーが必要なのさ。コーヒー牛乳はいわば俺のガソリンなわけよ」
飲み終えた俺は紙パックを洗っていつもの場所に干す。資源回収は大事。特に俺みたいに大量に消費する人はなおのことやらなきゃね。
「…………飽きたー!ジッとしてるのに飽きたー!」
「まだ5秒も経ってないですよ。子供ですかあんた」
「だってさぁ、部屋に人がたくさんいるのに個人個人が仕事してるだけなんだぜ?勿体なくない?遊ぼうよ、ボードゲームとかカードゲームとかしてさ」
「ようやくいつものお前らしくなってきたな」
「えっ!?いつもこんなにわがままでクソガキみたいにふるまってるんですか!?」
「未熟なクソガキだよー。ねぇ翔石君」
「ガキっていうかほとんど赤ちゃんですよ。15歳児」
「円形脱毛赤子兎………ぷぷっ」
「ガキだってバカにされるのは良いんだけど、円形脱毛赤子兎はちょっと受け入れられない」
「……………病気で禿げた兎」
ガラララッ
扉を開けていきなり変なことを言いながら入ってきたのは、生徒会役員、会計の原田雪さんだった。白色の髪で小柄、ずっと無表情の雪さんは何を考えているのかわからない。基本無言だし、たまに何か言ったと思ったら今みたいに変なことだしね。だがそれがいい!たまに変なことを言う無言で無表情な女の子。それがいい!俺的にはそういう人好きよ。
「おーー雪ちゃん遅かったじゃん。なんか用事あったん?」
「……………友達と喋ってた」
席に着くと雪さんはペンタブを自身のPCに繋げてお絵描きをして遊んでいた。雪さんは生徒会室に来ると、絵を描いたり人形を作ったり、知らない友達とビデオカメラで英語で喋ったりしている。今日は絵を描く日だったか。
「………なんの話してたっけ?」
「病気で禿げた兎を虐待する話ですよ」
「病気だけじゃなくストレスでも禿げるようになるからやめてくんない?」
「心因性円形脱毛疥癬症兎………ぷぷっ」
「いや笑えないけどね?………遊ぼうぜって言ってたんだよ。イリナさんも来てくれてるわけだし、ほら、ここは楽しい雰囲気でいきたいじゃん」
「ん?イリナ?」
「イリナさんゆうたやろが!付き合ってねーからな俺らは!」
今俺はその話題に敏感なんだよ!やめろ!
「まぁ、狩虎をからかうのはそこそこにして、確かに言う通りだ。この学校に馴染もうとしている人を楽しませるのも私達の役目だろう。狩虎、遊ぶことを許可してやろう」
「俺生徒会長だからね?んでお前は副生徒会長なのよ。わかる?この違い」
「威厳のないお前が悪い」
むぎゅーー………まぁいいや、七面倒な仕事をサボれるのなら喜んで俺はバカにされようじゃあないか。俺にプライドなどないのだ!
「んじゃあ簡単目なワードウルフでもやるか?難しいのでも良いけれど、今この部屋にあるのって1プレイ3時間ぐらいかかるのしかないから」
「え?ボードゲームをここに常備してるんですか?」
「狩虎が気が向いた時に持ってくんだよ。それが………ほら、ここにたまっている」
宏美が大きめなロッカーを開けると、所狭しと詰め込まれたボードゲームの数々。俺が生徒会長になってから必死に集めたお気に入りのボードゲーム達だ。やっぱりさ、生徒会室ってお堅い雰囲気があるからさ、こうやって遊べるところでもあるって知られたら人が来るようになると思うのよね。……………い、言い訳じゃないよ?俺が遊びたいからっていう理由じゃあないんだ、本当だよ?
「まぁ今回のワードウルフはスマホのアプリでやるけどな。………あっ、インサイダー・ゲームでもやる?1ゲームすぐに終わるよ」
「文字数がかさみますのでワードウルフでいいと思います」
めたいなぁ。しかしあれだ、手軽に遊べるゲームをもっと補充しないといけないな。改善点が見つかって良かった良かった。そんなことを思いながら俺はスマホのアプリを起動すると、みんなの名前を打ち込んでいく。
「人狼ゲームってあるじゃん?市民と人狼に分かれて人狼を倒すやつ。あれの言葉バージョンだと考えてくれたら簡単だ。1ゲームで扱われる単語はたったの2種類。例えば………[ラーメン]と[焼きそば]にするか。それを今回やる5人に4対1になるように振り分けるのさ…………宏美、お前どっちの方が好き?」
「麻婆豆腐」
「どっち?」
「あんかけ焼きそば」
「じゃあ宏美が[焼きそば]だとすると、他の4人は[ラーメン]になる。そして5人で話し合いをして、少数派を探し出すっていうのがこのゲームの内容だ」
「自分のお題は誰にも教えないんですよね?」
「そう。自分のお題以外は何も分からないから、誰が少数派で多数派なのか、そもそも自分のお題がどっちなのかも分からない。上手く立ち回って自分の立ち位置を把握するのがこのゲームの醍醐味だ」
あらかた説明し終えた俺は、スマホを机に置いてみんなを見る。生徒会メンバーはやったことがあるから大丈夫だろう。問題はイリナだな。あいつ友達少ないからこういうの得意じゃなさそうだよなぁ。
「なんとなくわかりました。分からなくなったら誰かに聞きます」
「オッケー。それじゃあ始めるか」
「その前にちょっといいですか?」
ずっと話を聞いていた翔石君が遮った。あれ?彼はこのゲームはよく知ってるはずだけどな?
「彼も入れた方がいいんじゃないですか?ほら、この部屋の外にずっといる男ですよ」
…………ああ、なるほどね。俺は生徒会室の扉を開け、外にいる雫石君に声をかけた。
「やる?ワードウルフ」
「はいっ!やらせていただきます!」
「今回は6人でやるから少数派は2人でやろう」
登録した順番にスマホを手渡していく。イリナ、翔石君、雪さん、宏美、雫石君、俺の順番だ。なにか問題があった時の為に俺を順番の最後にした。
「多数派は誰が少数派かを当てれば勝ち。少数派は逃げ切れば勝ち。ただ少数派だとバレても、多数派のお題を当てることが出来れば逆転勝ちできるから諦めないでほしい」
そして最後に回ってきたお題を見ると、そこには[ラーメン]の文字があった。
「……………マジか」
そして始まるゲーム。しかし空気が重い。それもそのはずだ、さっき俺が例にあげた言葉がお題になっているのだから。こうなるとあれだ、[ラーメン]と[焼きそば]のどっちかの可能性がある。これはちょっとつまらないな。
「んーーとだな、今回はちょっとやめない?さっきの例と同じようなの来ちゃったからさ。面白くないでしょ。」
「…………なるほど?つまり会長のお題は[ラーメン]か[焼きそば]だということですね?」
「いや、そっ………はぁ!?続けるの!?俺がこんなにやめようぜ的な雰囲気出してるのに!?」
「貴方がそう言っているだけでしょう?僕達は何も同意してませんよ」
俺は周りを見る。すると、こ、こいつら………無言でニヤついてやがる!続けるつもりだ!俺のお題を無傷で手に入れたとほくそ笑んでやがる!
「さぁ、続けましょう会長?少数派を炙り出すために………」
じょ、上等だコラァ!テメェらみたいな性悪に負けてらんねぇわ!
こうして6人によるワードウルフが始まった。
登校中、俺はアクビを我慢することなく大きく口を開いたあと、全力で噛み殺して涙を放置した。表面世界に帰って来てから日課の勉強をしていたら、寝る時間が短くなっちゃったからなぁ。だから表面世界好きじゃないんだよなぁ、俺のアイデンティティが脅かされる。
「あっ、あーー!なんとなんとなんと!」
そんな俺の後ろから変な声が近づいてくる。無視無視、どんなに教育が義務化された現代でも変な奴はいるもんだ。社会のストレスだったり、教育と呼ぶのもおこがましいような教育を受けてきたりと、そいつが悪いんじゃなくて社会全体が悪いのだ。
「お会いできて光栄ですよ!ええ!いやーー感動しちゃうなぁ!」
俺の後ろでずっと叫んでる。うわ、やなんだけど。最高にやなんだけど。早くどっか行ってくれないかなぁ。なんでわざわざ俺を標的にするんだよ。そこら辺を歩いている可愛い女の子でいいじゃん。冴えなくて勉強だけが取り柄の野郎に絡まないでくれよ。………やっぱこいつ悪い奴だわ。社会のせいにしちゃいけない。こんなことをしようと判断したこいつが悪い。警察にでも通報すっかなぁ。俺はスマホを取り出し11とまで打ち込んでから画面を見続ける。
「4世代前ぐらいのスマホじゃーないっすか!古いなぁ!もっと最先端なの使いましょうよ!技術は日々アップデートされるんですよ!」
「OSはアップデートされるんだからそれでいいじゃん。どんなに優れた機械を持とうと、そのテクノロジーを全て使いきれないのならば高い金出す意味はないよ。ゲームや動画、連絡ツールに使うだけならこんなものでいい」
今時の学生は無駄に最先端を行こうとするから好きじゃあないんだ。どれだけ先を行った機械を使おうと、使ってる本人が進化してなきゃ豚に真珠だよ。………と、友達が少ない根暗野郎が言ってみたり。だから友達少ないんだよなぁ。
「深いことを仰られるなぁ!さすが魔王様だなぁ!」
「………………」
俺は無視して歩き続ける。あっちの世界絡みか………やな感じだな。関わらんでおこう。ああもうっ、なんで反論しちゃったかなぁ!完全無視を決め込むべきだった!
「しかも北海道で名実共に一番の学校の生徒会長もやってるだなんて、尊敬しちゃうなぁ。いやーー気がつかないもんだよなぁ。同じ学校にいたのに魔族だって見抜けなかったわけだし」
俺は立ち止まり後ろを振り返った。俺と同じブレザーを着た173〜5cmぐらいの男。今時のマッシュルームみたいな茶髪のそいつは………見たことないな。
「………なんか用ですか?」
「いや、用ってほどではないんですけどね。ええ、くっついているのが俺の役割といいますか………ほら、あなた魔王でしょ?しかも身バレした。そうなるとねぇ、やっぱり勇者側としては表面世界だけではなく現実世界でも監視をつけたいと思うのは当然じゃないですか」
外見においてはそこまで特徴はないな。今時、モテたい男子はみんなあんな格好をするから違いがわからん。ただ唯一気になるのは、カバンにつけた大量のぬいぐるみだろうか。猫のぬいぐるみがこれでもかとぶら下げられている。
「今日からあなたのことを監視することになった
俺は上唇を鼻にくっつけ酸っぱい顔をして頷くと、振り返って学校に向かった。あーやだやだ、やっぱイリナに会うのやめといた方がよかったかなぁ。
「…………そんな感じで、ほら、教室の外にいるだろ?休み時間中ずっと俺のこと見てんの」
俺はコーヒー牛乳を飲みながら、遼鋭に目配せで颯太の位置を知らせる。
「まぁ仕方ないよ何やらかすかわからないからね、君って奴は」
「なんつーかさぁ、あれよ、突拍子もなく思いついたことってさ、別に凄いことじゃないけど面白く感じちゃうだろ?カレー食べてる時に[昨日の漢文で読んだ奴くそしょうもなかったなー]って鼻で笑っちゃうみたいな?あれに似た感じで変なことやっちゃう」
コーヒー牛乳を飲みながら喧騒に耳を傾ける。人っていうのはどうしてこうも噂話が好きかねぇ。話し声に耳を傾けるだけで下らない内容が聞けてしまう。人間関係がほとんどメインなのだが、陰口だったり、根も葉もないものだったり、恋愛だったり………鼻で笑ってまうわ。
「やっぱり生徒会長とイリナさんって付き合ってるのかなぁ」
そして今日はこの話がダントツで多い。宏美が言いふらしたのだろうが、昨日、俺とイリナで互いに墓穴を掘ったのが良くなかった。完璧に緩んでいた。表面世界のノリで呼んだのが間違いだった。しかしさぁ、俺みたいなクソ野郎がイリナに釣り合うわけないじゃん。あり得ないって、普通に考えてみ?ないから。そんなこと考えるぐらいなら、最近起きてる連続殺人事件とかスキャンダルのことでも噂した方がいいよ。絶対そっちの情報を集める方が後々人生に役立つから。
「ふふっ、一躍時の人じゃないか。よかったね」
「いや………最高に嬉しくないんだけど」
あーーイリナに出会ってから人生最悪だ。何もせずにダラダラ生きてた方が良かったかなぁ。小説なんか書かなきゃ良かった。
「おい狩虎、明後日空いてるか?」
隣でずっとイリナと喋っていた宏美が聞いてきた。
「明後日ってことは祝日だろ?………ないな、やらなきゃいけない勉強がたんまりあるんだ」
「じゃあ空いてるってことか」
「いや空いてない。俺の言葉をよーく思い出してくれ、そしたら納得するはずだから」
「空いてるってことか」
「むふーー。遼鋭、言ってやれ」
「空いてるよ」
「よし、イリナちゃんと遊ぶぞ」
むふーー。これだから俺の幼馴染は俺からの信用が低いのだ。
〜放課後〜
「どう思うよ翔石君、人の都合を考えずに生きるのってあまりにも身勝手だよね」
「会長の都合なんてあってないようなものですから、別に良いんじゃないですか。貴方が幸せになろうと不幸になろうと興味ないですし」
いや、辛辣すぎない?この後輩、生徒会長である俺に対してあまりにも辛辣すぎない?
「一応俺生徒会長よ?」
「じゃあ仕事してくださいよ。あんた就任してから仕事したことあります?」
「あ、あるよそれぐらい。いつもやってるだろ?PCカチャカチャしてさ」
「ゲームしてるだけじゃないですか」
「ゲームしてないもん」
「コーヒー牛乳飲んでるだけじゃないですか」
「飲んでるもんっ」
俺は冷蔵庫から取り出した500mlのコーヒー牛乳をチューチュー飲み続ける。
「………思ったんですけど、ミフィー君、コーヒー牛乳飲み過ぎじゃないですか?糖尿病になりますよ?」
空いていた生徒会役員用の机に座っていたイリナが宏美に聞いた。
「ぷぷっ、ミフィー君だって。狩虎なのにミフィー君だって」
「イリナが俺のことをそう呼ぶたびに笑うのやめようぜ?悲しみの末に禿げるよ俺」
「円形脱毛兎………ぷぷっ、ダサっ」
あーー禿げる。毛根が死滅する。
「イリナちゃん、狩虎は1日に4本はコーヒー牛乳を飲まなきゃ生きていけないようなジャンキーなんだ。もう手遅れなんだよ…………見放してやれ」
「そうそう。俺みたいなバカが頭を常に使い続けるには大量のエネルギーが必要なのさ。コーヒー牛乳はいわば俺のガソリンなわけよ」
飲み終えた俺は紙パックを洗っていつもの場所に干す。資源回収は大事。特に俺みたいに大量に消費する人はなおのことやらなきゃね。
「…………飽きたー!ジッとしてるのに飽きたー!」
「まだ5秒も経ってないですよ。子供ですかあんた」
「だってさぁ、部屋に人がたくさんいるのに個人個人が仕事してるだけなんだぜ?勿体なくない?遊ぼうよ、ボードゲームとかカードゲームとかしてさ」
「ようやくいつものお前らしくなってきたな」
「えっ!?いつもこんなにわがままでクソガキみたいにふるまってるんですか!?」
「未熟なクソガキだよー。ねぇ翔石君」
「ガキっていうかほとんど赤ちゃんですよ。15歳児」
「円形脱毛赤子兎………ぷぷっ」
「ガキだってバカにされるのは良いんだけど、円形脱毛赤子兎はちょっと受け入れられない」
「……………病気で禿げた兎」
ガラララッ
扉を開けていきなり変なことを言いながら入ってきたのは、生徒会役員、会計の原田雪さんだった。白色の髪で小柄、ずっと無表情の雪さんは何を考えているのかわからない。基本無言だし、たまに何か言ったと思ったら今みたいに変なことだしね。だがそれがいい!たまに変なことを言う無言で無表情な女の子。それがいい!俺的にはそういう人好きよ。
「おーー雪ちゃん遅かったじゃん。なんか用事あったん?」
「……………友達と喋ってた」
席に着くと雪さんはペンタブを自身のPCに繋げてお絵描きをして遊んでいた。雪さんは生徒会室に来ると、絵を描いたり人形を作ったり、知らない友達とビデオカメラで英語で喋ったりしている。今日は絵を描く日だったか。
「………なんの話してたっけ?」
「病気で禿げた兎を虐待する話ですよ」
「病気だけじゃなくストレスでも禿げるようになるからやめてくんない?」
「心因性円形脱毛疥癬症兎………ぷぷっ」
「いや笑えないけどね?………遊ぼうぜって言ってたんだよ。イリナさんも来てくれてるわけだし、ほら、ここは楽しい雰囲気でいきたいじゃん」
「ん?イリナ?」
「イリナさんゆうたやろが!付き合ってねーからな俺らは!」
今俺はその話題に敏感なんだよ!やめろ!
「まぁ、狩虎をからかうのはそこそこにして、確かに言う通りだ。この学校に馴染もうとしている人を楽しませるのも私達の役目だろう。狩虎、遊ぶことを許可してやろう」
「俺生徒会長だからね?んでお前は副生徒会長なのよ。わかる?この違い」
「威厳のないお前が悪い」
むぎゅーー………まぁいいや、七面倒な仕事をサボれるのなら喜んで俺はバカにされようじゃあないか。俺にプライドなどないのだ!
「んじゃあ簡単目なワードウルフでもやるか?難しいのでも良いけれど、今この部屋にあるのって1プレイ3時間ぐらいかかるのしかないから」
「え?ボードゲームをここに常備してるんですか?」
「狩虎が気が向いた時に持ってくんだよ。それが………ほら、ここにたまっている」
宏美が大きめなロッカーを開けると、所狭しと詰め込まれたボードゲームの数々。俺が生徒会長になってから必死に集めたお気に入りのボードゲーム達だ。やっぱりさ、生徒会室ってお堅い雰囲気があるからさ、こうやって遊べるところでもあるって知られたら人が来るようになると思うのよね。……………い、言い訳じゃないよ?俺が遊びたいからっていう理由じゃあないんだ、本当だよ?
「まぁ今回のワードウルフはスマホのアプリでやるけどな。………あっ、インサイダー・ゲームでもやる?1ゲームすぐに終わるよ」
「文字数がかさみますのでワードウルフでいいと思います」
めたいなぁ。しかしあれだ、手軽に遊べるゲームをもっと補充しないといけないな。改善点が見つかって良かった良かった。そんなことを思いながら俺はスマホのアプリを起動すると、みんなの名前を打ち込んでいく。
「人狼ゲームってあるじゃん?市民と人狼に分かれて人狼を倒すやつ。あれの言葉バージョンだと考えてくれたら簡単だ。1ゲームで扱われる単語はたったの2種類。例えば………[ラーメン]と[焼きそば]にするか。それを今回やる5人に4対1になるように振り分けるのさ…………宏美、お前どっちの方が好き?」
「麻婆豆腐」
「どっち?」
「あんかけ焼きそば」
「じゃあ宏美が[焼きそば]だとすると、他の4人は[ラーメン]になる。そして5人で話し合いをして、少数派を探し出すっていうのがこのゲームの内容だ」
「自分のお題は誰にも教えないんですよね?」
「そう。自分のお題以外は何も分からないから、誰が少数派で多数派なのか、そもそも自分のお題がどっちなのかも分からない。上手く立ち回って自分の立ち位置を把握するのがこのゲームの醍醐味だ」
あらかた説明し終えた俺は、スマホを机に置いてみんなを見る。生徒会メンバーはやったことがあるから大丈夫だろう。問題はイリナだな。あいつ友達少ないからこういうの得意じゃなさそうだよなぁ。
「なんとなくわかりました。分からなくなったら誰かに聞きます」
「オッケー。それじゃあ始めるか」
「その前にちょっといいですか?」
ずっと話を聞いていた翔石君が遮った。あれ?彼はこのゲームはよく知ってるはずだけどな?
「彼も入れた方がいいんじゃないですか?ほら、この部屋の外にずっといる男ですよ」
…………ああ、なるほどね。俺は生徒会室の扉を開け、外にいる雫石君に声をかけた。
「やる?ワードウルフ」
「はいっ!やらせていただきます!」
「今回は6人でやるから少数派は2人でやろう」
登録した順番にスマホを手渡していく。イリナ、翔石君、雪さん、宏美、雫石君、俺の順番だ。なにか問題があった時の為に俺を順番の最後にした。
「多数派は誰が少数派かを当てれば勝ち。少数派は逃げ切れば勝ち。ただ少数派だとバレても、多数派のお題を当てることが出来れば逆転勝ちできるから諦めないでほしい」
そして最後に回ってきたお題を見ると、そこには[ラーメン]の文字があった。
「……………マジか」
そして始まるゲーム。しかし空気が重い。それもそのはずだ、さっき俺が例にあげた言葉がお題になっているのだから。こうなるとあれだ、[ラーメン]と[焼きそば]のどっちかの可能性がある。これはちょっとつまらないな。
「んーーとだな、今回はちょっとやめない?さっきの例と同じようなの来ちゃったからさ。面白くないでしょ。」
「…………なるほど?つまり会長のお題は[ラーメン]か[焼きそば]だということですね?」
「いや、そっ………はぁ!?続けるの!?俺がこんなにやめようぜ的な雰囲気出してるのに!?」
「貴方がそう言っているだけでしょう?僕達は何も同意してませんよ」
俺は周りを見る。すると、こ、こいつら………無言でニヤついてやがる!続けるつもりだ!俺のお題を無傷で手に入れたとほくそ笑んでやがる!
「さぁ、続けましょう会長?少数派を炙り出すために………」
じょ、上等だコラァ!テメェらみたいな性悪に負けてらんねぇわ!
こうして6人によるワードウルフが始まった。