第32話 目的は変わらない
文字数 3,027文字
突っ込んでくるサミエルさんに合わせて俺は小さめの炎の壁を作り出す。しかし彼はかわすことなく、その炎の壁をすり抜け俺に斬りかかる!今ので確信した!サミエルさんの能力は[身体を一瞬だけ転移させる]能力だ。魔剣と剣がぶつかり、吹き飛ばされた俺を追撃する為にサミエルさんが猛ダッシュ!俺は吹き飛ばされながらも、さっきよりも少しだけ厚みのある炎の壁を作り出す!が、それすらも彼は透過して俺に斬りかか!
ボジュッ!
いつの間にか後退していた炎の壁とサミエルさんの剣がぶつかり、炎はまるで意思を持っているかのように剣を掴んで焼き溶かした!一瞬だけ透過できるのならば、壁を少しずつ後退させることで相対速度を下げある程度の対策にはなる。それに今ので透過できる時間がわかったな、約0.8秒。1秒と見積もっておけば事故は起こらないだろう。
しかしサミエルさんは剣を失ったというのに突っ込んでくる。炎の俺に武器なしで?………まさかな、何か武器を隠していてっ!
俺の魔剣の防御を崩し、一筋の攻撃が俺の頬を掠めた!なんとか首を捻ったから当たらなかったが………なんだ?急に加速しやがったぞ。
サミエルさんの右手には薄らと光る槍が握られており、風が彼の身体に纏わりつき少しだけ浮いていた。あの槍も風で作られたのか?いや、ていうかこれ…………
「魔力をもらいやがったな…………」
風の魔力だけで攻撃をすり抜けるのは困難だ。透過の魔力と風の魔力、2つなければ説明できないことが今目の前で起こっている。………つまり、この事件の背後には奴がいるってわけだ。ようやく見つけたのは嬉しいが、そうなると困ったことになるな。
俺はひとまず制御装置の制御術式を第三まで解放する。魔族側の魔力を貰ったとなると、階級は最低でも幹部クラスだ。対して、第三制御術式まで解放した俺の魔力は幹部より一つ下の公爵クラス。勇者側の魔力も最弱の騎士クラスだし………勝ち目なくないか?
「…………ちょっと用事思い出した!」
俺は全速力で走って逃げ出す!
イリナのことは申し訳ないが、こうなってしまったらしょうがない!やっぱり生存者は1人でも多くいた方がいいでしょ!?
そんな俺を全速力で追っかけてくるサミエルさん!風の魔力と勇者の身体能力が合わさってメチャクチャはえぇえ!突風が巻き上げた砂塵を、弾丸のように突き抜けてこっちに来る!炎の壁を作り出し一瞬の隙を………
風が炎を切り裂いた。やっぱり魔族側の魔力ですら相手の方が上か!風の矛先が俺の首筋につくと同時に、俺は魔剣の能力でサミエルさんと俺の位置を入れ替える!
この一瞬しかない!
俺は炎を渦巻かせて俺ごとサミエルさんを燃やす!風で吹き飛ばそうにも事前に流れを作っておけば一瞬で吹き飛ばすことはできないし、滞留するから約1秒の透過能力だけで対処はできないはずだ!
しかし彼はその炎の流れとは逆の竜巻を作り出してぶつけると、その圧倒的な威力で炎をかき消した。
「ふふふっ…………最高だ。これが力を持った人間の愉悦か」
かき消えた炎の中から現れるサミエルさん。彼は喜びに顔を歪ませている。そこにはいままでの無表情でクールな彼の姿はない。まるで別人………俺を追い詰めることに喜びを見出す悪魔だ。
「あんたを殺して僕は魔王の力を得る。そしてその力で勇者を………最後には王様を殺し、魔王と王様の2つの力を手に入れるんだ。ハハハハハハハハ!!ハハハハハハハハハハハ!!!」
彼の笑いが壊れていく。ああ、狂っている。魔族の力を手に入れてしまったばかりに彼は、自身が後戻りできない場所へと向かっていることに気がつかない。
「強さなんて必要ないだろ!サミエルさんならわかってるだろそんなこと!」
俺は走りながらサミエルさんに向けて叫ぶ!
「必要ないダァ?………必要に決まってるだろ!この世界は強さで全てが決まるんだ!あんたみたいに、イリナさんみたいに!最初から強い奴らが知った風な口を聞くな!」
風が吹き荒み周りにある物全てを切り裂いていく。そして切り裂かれたものは更に空中で切り裂かれ、地面に落ちる前に塵芥となり風に吹かれて舞い上がる。
「想像もできないだろ弱いだけで人生を決められる僕達の気持ちなんて!一生人に使われるだけの僕達のことなんて!…………そんな惨めな人生を変える力を僕は手に入れたんだ!世界をぶち壊す力を!」
風は嵐となり、黒く、深く、染まっていく。それはとても獰猛で、破壊的で壊滅的。でも俺にはどうもそれが破滅的に………そして、心を隠すブラインドのように見えてしまう。
「…………変わんないよ、世界を壊したって」
俺は立ち止まった。迫り来る黒色の嵐を見つめ、深く深く、呼吸する。
「争いで世界を変えたところで、また争いが世界を支配するだけさ。…………変わんないよ、何も」
そして一歩、前へ出た。風が大地を、木々を切り裂いていくが俺は構わず進む。
「それに俺を殺すのは不可能だ。サミエルさんの計画は第一歩で破滅しているってことを理解した方がいい」
「…………なんで余裕なんだ!僕は今のあんたよりもずっとずっと強いんだぞ!それなのにそんな呑気にペラペラ、しまいには勝てないだ!?階級が全ての世界だぞここは!勝敗は覆らないって決まってるんだ!」
サミエルさんが嵐を纏い、槍の矛先を俺に向けて突っ込んでくる!60m先の俺の元に到達するのに約1秒。時速216kmか………人間が出していい速度じゃないな。今の俺じゃあかわせない。じゃあかわさなければいい。
瞬きの後に視界に入ってきたのは水だった。俺とサミエルさんを囲む半径100mの半球状の水のドーム。風が全てを切り裂くというのなら、切られない液体で満たせばいい。風が全てを吹き飛ばすというのなら、吹き飛ばさないほどの体積を生み出せばいい。水の抵抗によって減速することを恐れたサミエルさんは、透過の能力を使って一気に俺の元へと詰めて来る!…………0.8秒。
ザンッ!!
透過を終え現れた風の槍が俺の右腕を切り裂いた。
「負けだよ、サミエルさん」
そしてその切られた右腕を燃料に炎が発生。身体の一部を犠牲にした魔力の出力は凄まじく、半径50mの範囲の水を一瞬にして蒸発させ、その衝撃波によってサミエルさんの目や口、鼓膜などの粘膜で保護された身体部位を破壊した。
「なんで余裕かって?決まってるだろ、魔王だぞ俺は」
耳の内部構造と眼球、鼻の穴、口から血を垂れ流しサミエルさんは地面に倒れて暴れている。聴力と視力、嗅覚、平衡感覚を失ったんだ。自分が地面に倒れて暴れていることにも気がついてないんだろうな。
「…………ねぇサミエルさん」
俺は協力者に頼んでテレパシーを使ってもらい、サミエルさんの脳内に直接語りかける。
「昨日言ったじゃないですか、俺の目的。世界平和だって。…………本当にそう思ってるんですよ。誰も争わなければ階級の重要性は下がり、この世界の根幹を揺るがすことができる…………俺はこの世界から争いを無くしたい」
血の涙を流すサミエルさんの目を見ながら俺は言葉を繋ぐ。
「もしそんな世界を本当に望んでいて…………誰かの上に立つことが望みでないのならば……………また俺の元へ来てください」
そして俺はサミエルさんから離れ、この墓場の最深部へと向かう。そこにいるはずのイリナと、この事件を起こしている張本人に会いにいくために……
ボジュッ!
いつの間にか後退していた炎の壁とサミエルさんの剣がぶつかり、炎はまるで意思を持っているかのように剣を掴んで焼き溶かした!一瞬だけ透過できるのならば、壁を少しずつ後退させることで相対速度を下げある程度の対策にはなる。それに今ので透過できる時間がわかったな、約0.8秒。1秒と見積もっておけば事故は起こらないだろう。
しかしサミエルさんは剣を失ったというのに突っ込んでくる。炎の俺に武器なしで?………まさかな、何か武器を隠していてっ!
俺の魔剣の防御を崩し、一筋の攻撃が俺の頬を掠めた!なんとか首を捻ったから当たらなかったが………なんだ?急に加速しやがったぞ。
サミエルさんの右手には薄らと光る槍が握られており、風が彼の身体に纏わりつき少しだけ浮いていた。あの槍も風で作られたのか?いや、ていうかこれ…………
「魔力をもらいやがったな…………」
風の魔力だけで攻撃をすり抜けるのは困難だ。透過の魔力と風の魔力、2つなければ説明できないことが今目の前で起こっている。………つまり、この事件の背後には奴がいるってわけだ。ようやく見つけたのは嬉しいが、そうなると困ったことになるな。
俺はひとまず制御装置の制御術式を第三まで解放する。魔族側の魔力を貰ったとなると、階級は最低でも幹部クラスだ。対して、第三制御術式まで解放した俺の魔力は幹部より一つ下の公爵クラス。勇者側の魔力も最弱の騎士クラスだし………勝ち目なくないか?
「…………ちょっと用事思い出した!」
俺は全速力で走って逃げ出す!
イリナのことは申し訳ないが、こうなってしまったらしょうがない!やっぱり生存者は1人でも多くいた方がいいでしょ!?
そんな俺を全速力で追っかけてくるサミエルさん!風の魔力と勇者の身体能力が合わさってメチャクチャはえぇえ!突風が巻き上げた砂塵を、弾丸のように突き抜けてこっちに来る!炎の壁を作り出し一瞬の隙を………
風が炎を切り裂いた。やっぱり魔族側の魔力ですら相手の方が上か!風の矛先が俺の首筋につくと同時に、俺は魔剣の能力でサミエルさんと俺の位置を入れ替える!
この一瞬しかない!
俺は炎を渦巻かせて俺ごとサミエルさんを燃やす!風で吹き飛ばそうにも事前に流れを作っておけば一瞬で吹き飛ばすことはできないし、滞留するから約1秒の透過能力だけで対処はできないはずだ!
しかし彼はその炎の流れとは逆の竜巻を作り出してぶつけると、その圧倒的な威力で炎をかき消した。
「ふふふっ…………最高だ。これが力を持った人間の愉悦か」
かき消えた炎の中から現れるサミエルさん。彼は喜びに顔を歪ませている。そこにはいままでの無表情でクールな彼の姿はない。まるで別人………俺を追い詰めることに喜びを見出す悪魔だ。
「あんたを殺して僕は魔王の力を得る。そしてその力で勇者を………最後には王様を殺し、魔王と王様の2つの力を手に入れるんだ。ハハハハハハハハ!!ハハハハハハハハハハハ!!!」
彼の笑いが壊れていく。ああ、狂っている。魔族の力を手に入れてしまったばかりに彼は、自身が後戻りできない場所へと向かっていることに気がつかない。
「強さなんて必要ないだろ!サミエルさんならわかってるだろそんなこと!」
俺は走りながらサミエルさんに向けて叫ぶ!
「必要ないダァ?………必要に決まってるだろ!この世界は強さで全てが決まるんだ!あんたみたいに、イリナさんみたいに!最初から強い奴らが知った風な口を聞くな!」
風が吹き荒み周りにある物全てを切り裂いていく。そして切り裂かれたものは更に空中で切り裂かれ、地面に落ちる前に塵芥となり風に吹かれて舞い上がる。
「想像もできないだろ弱いだけで人生を決められる僕達の気持ちなんて!一生人に使われるだけの僕達のことなんて!…………そんな惨めな人生を変える力を僕は手に入れたんだ!世界をぶち壊す力を!」
風は嵐となり、黒く、深く、染まっていく。それはとても獰猛で、破壊的で壊滅的。でも俺にはどうもそれが破滅的に………そして、心を隠すブラインドのように見えてしまう。
「…………変わんないよ、世界を壊したって」
俺は立ち止まった。迫り来る黒色の嵐を見つめ、深く深く、呼吸する。
「争いで世界を変えたところで、また争いが世界を支配するだけさ。…………変わんないよ、何も」
そして一歩、前へ出た。風が大地を、木々を切り裂いていくが俺は構わず進む。
「それに俺を殺すのは不可能だ。サミエルさんの計画は第一歩で破滅しているってことを理解した方がいい」
「…………なんで余裕なんだ!僕は今のあんたよりもずっとずっと強いんだぞ!それなのにそんな呑気にペラペラ、しまいには勝てないだ!?階級が全ての世界だぞここは!勝敗は覆らないって決まってるんだ!」
サミエルさんが嵐を纏い、槍の矛先を俺に向けて突っ込んでくる!60m先の俺の元に到達するのに約1秒。時速216kmか………人間が出していい速度じゃないな。今の俺じゃあかわせない。じゃあかわさなければいい。
瞬きの後に視界に入ってきたのは水だった。俺とサミエルさんを囲む半径100mの半球状の水のドーム。風が全てを切り裂くというのなら、切られない液体で満たせばいい。風が全てを吹き飛ばすというのなら、吹き飛ばさないほどの体積を生み出せばいい。水の抵抗によって減速することを恐れたサミエルさんは、透過の能力を使って一気に俺の元へと詰めて来る!…………0.8秒。
ザンッ!!
透過を終え現れた風の槍が俺の右腕を切り裂いた。
「負けだよ、サミエルさん」
そしてその切られた右腕を燃料に炎が発生。身体の一部を犠牲にした魔力の出力は凄まじく、半径50mの範囲の水を一瞬にして蒸発させ、その衝撃波によってサミエルさんの目や口、鼓膜などの粘膜で保護された身体部位を破壊した。
「なんで余裕かって?決まってるだろ、魔王だぞ俺は」
耳の内部構造と眼球、鼻の穴、口から血を垂れ流しサミエルさんは地面に倒れて暴れている。聴力と視力、嗅覚、平衡感覚を失ったんだ。自分が地面に倒れて暴れていることにも気がついてないんだろうな。
「…………ねぇサミエルさん」
俺は協力者に頼んでテレパシーを使ってもらい、サミエルさんの脳内に直接語りかける。
「昨日言ったじゃないですか、俺の目的。世界平和だって。…………本当にそう思ってるんですよ。誰も争わなければ階級の重要性は下がり、この世界の根幹を揺るがすことができる…………俺はこの世界から争いを無くしたい」
血の涙を流すサミエルさんの目を見ながら俺は言葉を繋ぐ。
「もしそんな世界を本当に望んでいて…………誰かの上に立つことが望みでないのならば……………また俺の元へ来てください」
そして俺はサミエルさんから離れ、この墓場の最深部へと向かう。そこにいるはずのイリナと、この事件を起こしている張本人に会いにいくために……