第8話 いおんかー!
文字数 5,184文字
「グレン!彼の能力は何!?」
膝まである池を走りなんとかグレンに追いついた私はひとまず戦闘に必要そうな情報を聞いた。
「どう説明すればいいか………簡単に言うと法則をぶっ壊す能力だ」
法則をぶ、ぶっこわす!?
「あいつがこの街を凍らせ一瞬で氷を溶かしたのは水の融点と沸点を変え、さらに水の上を走ったのも水がダイラタンシーのような反応を示すように変更したからだ。イマイチピンとこないだろう?その身をもって味わってみな」
ブンッ!!!
いきなり目の前に現れた男の子の蹴りをかわし私は殴りかかる!しかしパンチが当たると同時に彼の体はねじ曲がり衝撃を散らすとまた夜の闇の中に消えていった!透明化か?光の屈折率を無理矢理変えて彼の背景が私の目に映るようにしているんだ。それに私の攻撃の衝撃を受け流したのも、自身の弾力性を変化させたからだ。この能力、自由度が高いなんてもんじゃないよ。なんでもできるじゃないか!
「姿を炙り出すには全体攻撃をするしかない!」
「いや、それはやめた方がいい」
敵が透明化しているのならば全てをまとめて破壊するのが手っ取り早いはずだ!それなのになぜグレンは躊躇っているの?
「あいつの魔力はベクトルすらも変更する。もしお前を中心にして拡散する雷を放っても、その終着点はお前になり焼かれるのはお前自身になる。余計なダメージを受けたくなかったらやめるんだな」
…………完全に八方塞がりじゃないか。
「こんな凄い魔力を持った人見たことがないよ」
「俺もだ」
一瞬で何百もの街を滅ぼす危険な魔力と相対したことはある。でも彼の魔力はそんなものよりも創造性があって自由度が高い。神様がこの世にいるとは思えないけれど、もしいたとしたらそれと同等の力だ。
「だから保護してやってたんだが、あのバカは暴れたくて暴れたくてしょうがない聞かん坊でな、今日みたいなことがたびたび起きてるんだ。ただのガキならまだしも法則を捻じ曲げる奴の遊びなんて人智を超えている」
水の粘性が変わり私達の足に絡みついてくる。さらに水は重力を無視して空高く伸び上がると、花火のように爆発して空に固定された。空中に固定された水で作られた花…………言ってて意味がわからないけれど、私達の目の前にあるのはまさしくそれなのだ。
「………なんで暴れてるの」
「俺がダイラタンシーのことを教えたら、[すごーい!]って興奮して奴なりに液体を変化させて遊んでんだよ」
言ってることは凄く子供なんだけどなぁ………スライムに興奮した子供がスライムを自作するみたいな感じで。
彼の興奮が高まっているのだろうか、この場にあるすべての水に形が与えられていく。それはまるで静止画のように……走り回る干支の獣達、墜落するヘリコプター、倒壊するビル、沈没する巨大な船と脈絡のないものが次々と空に描かれる。
パチンッ!!!!
右側から飛んできた水の塊が私の手を弾いた。時速12kmぐらいの速度で直進する水………その時点でもはや法則を無視しているのだけれども、まったく威力のないはずの水が、払おうとした私の手を弾いたのだ。
「お姉さんは僕に何を教えてくれるのかな?」
私は辺り一面を吹き飛ばす為に放電した!しかしグレンの言う通り、雷は私に跳ね返ってきてダメージを受ける!でもそんなの、関係ない!あたり一面の水が電気により分解され電子が放出されイオン化する!こうすることでこの池全体は通電するようになった!たとえベクトルを変更しようがすべての方向から来る攻撃を処理することはできない!!
「グォォォオオオォオオオアアアアアアアアア!!!!」
5匹の雷の龍を生み出し5方向から池に叩きつける!!池は水ではなく雷が溜まっているかのように、電気が暴れ狂い2分間、雷の池となって近づくもの全てを焼き切った!!
たとえ水の上を歩けようが、ベクトルを変更できようが、この全方向からの長時間攻撃は避けようがないでしょ!!
「いや、飛べばいいじゃんこんなの」
しかし男の子は空をこともなげに飛んでいた。反重力?いや、揚力をいじってるのだろうか?とにかく彼からすれば空に漂うことなど造作もないのだ。出来ないことの方が少ないから。
「でもでも、電気って凄いね!プラスとマイナスしかないのにこんなに凄い力になるんだから!えーーっと、つまり…………こう!!」
バチンッ!!
彼の両手から電気がほと走り火花をあげた。今この一瞬で、[なんとなく]で電気を生み出したってことか?彼なりの法則で。
「…………………」
「…………イリナ、勘違いすんなよ。俺達の役目はあいつが飽きるまで攻撃を喰らってやることだ。無力化できるだなんて思わない方がいい」
なんだ………なんなんだこの子は。すべての物語のラスボスだと言われても納得しちゃうようなスペックしてるんだけど。それになんでこんな危険な子と関わりがあるんだよこいつ。
「じゃあいくよ!!これが僕流の雷だ!!」
空気間で発生する静電気が極限にまで高められ放電が発生した。氷があるわけでもないただの空気でこんなことは起きないのに、彼の魔力は簡単に普通を無視していく。しかし彼が放った電気は私の足元にも及ばず食らったところで無傷だろう。グレンの言う通りに食らってあげるか………
バチィンン!!!
私の目の前で雷が弾けた。水の盾が雷を完全に遮断したのだ。
「はぁ……はぁ…………死ぬっ。」
「ミフィー君!来ちゃダメだって言ったじゃん!」
あまりにも速すぎるイリナにようやく追いついた俺は、息を切らしながらイリナの横に立った。ミフィー君か……しまらないなぁ。もっとマトモなあだ名がいいよ。狩虎ちゃんとかそこらへん。
「だって1人でいる方が怖いじゃん!襲われたらどうしようもないじゃん!弱いんだから俺!」
「子供か!グレンの敷地で悪事働くような人間なんていないんだから気にしなくていいんだよ!」
「そういう事情を知らない魔族が襲ってくるかもしれないだろう!?みんながみんな、ここがグレンの敷地だとわかっていると思うな!」
「観光スポットとして紹介されてるんだから知ってるに決まってるじゃん!」
えっ、ここ観光スポットなの!?確かに気味悪い建築物ばかりで見ていて飽きないけれど、観光するほどの場所じゃないでしょ!
「いちおう1kmおきに売店があるぞ。レストランもあるし、散策路マップも売っている。買うか?売ってる本人もドンビクぐらいたけーぞ」
「購入を勧める人が高いなんて言ったら買うわけないだろ!え?いや、それよりもショップやレストランがあるようなまともな観光地なの?それなのにあの子供が暴れ回ってるの?ヤバくない?被害大丈夫?」
「従業員は全員避難させてある。亜花 のこともあるが、それ以前の問題だ」
亜花…………ああ、あの男の子の名前ね。俺はイリナの方を見た。もしかしたらグレンの敷地は今、緊急事態に陥っているのかもしれない。その確認だ。
「えーーっと、た、確か、魔族が攻めてきてるんだっけ?」
「南西から勇者領の中心地に向かって魔族が攻め込んでて、ここがその進路上にあるってわけ。魔族掃討戦はその進行してきている魔族を倒すのが目的だ。………参加するお前が知らないわけがないよなぁ?」
言っておくと俺は知らなかったよ。イリナの方を見る。
「し、知ってたよ!」
両手を腰について胸を張るイリナ。とても元気で微笑ましい姿なのだが、あまりにも絶壁なのが目に痛っ!!
「………………」
イリナの回し蹴りが後頭部に炸裂する!なんでこいつ俺の考えを読めるんだ!
「………し、知ってたからグレンを魔族掃討戦の私の部隊に入れてあげようと誘いにきたの!ここに大きな損害が出る前に私達の手で魔族を倒しちゃおうよ!」
「あーー無理無理、参加する気ねーよ」
グレンは片手を振って嘲笑った。
「俺の敷地が破壊されうるのに参加してないって時点で察してくれ。魔族と戦う気はねーんだ俺は」
テクテクテク…………
小さな鎧を着た人間がどこからともなく出てきてグレンの近くに歩いていく。なんだろう、召使いかな?とか思ったら、グレンはその人間を四つん這いにさせて背中の上に座った。召使いじゃなくて奴隷だったか…………
「このバカガキは俺クラスの人間じゃないと面倒見きれねーんだ。俺が離れている間にこいつなら勇者領を破壊しきる可能性があるから、俺は監視しなきゃいけない」
「それじゃあ彼……亜花君を掃討戦に連れて行けばいいじゃん」
「イリナ、お前バカか?」
「バカじゃないもん!」
「じゃあなんでそんなこと言えんだよ。こいつが戦場で暴れてみろ、勇者も魔族も大ダメージだ。戦いは三つ巴、もしかしたら亜花を倒すためだけに勇者と魔族が手を組んで1対2になる可能性すらある。こんな爆弾を戦わせようとすんじゃねぇ」
確かに、亜花君はイリナの雷すらも無力化できるし、なんなら全ての攻撃を相手に跳ね返すことができる。そんな人間が戦場の真ん中にいたら…………戦いどころではないな。
「でも……………」
それでもイリナは諦めない。どうにかしてグレンを自分の部隊に入れようとする。
「……お前にしちゃあ珍しいな。自分以外の戦力を取り入れて万全を期そうとするなんて。……この弱っちそうな男のせいか」
グレンの視線がようやく俺の方に向いた。この人の目は…………なんていうか怖いな。威圧感があるからとかじゃなく、見定められている感じがゾクゾクくる。
「[自分1人じゃ守りきれないかもしれないから、他の人にも守らせよう!]って感じか?…………お前、イリナのなんなんだ?」
俺はイリナのなんなんだろうね。俺もよく分からないよ。
「パートナーほど信頼はされてない。友達ほど仲良くもない。正直俺とイリナの関係性なんてよくわかりませんよ」
出会ってまだ3日目だ、これと言った人間関係は築けていないと言えるのは間違いない。ただ、俺はイリナの元相棒の記憶を持っていて、イリナと一緒に炎帝を倒す約束をしてしまった。友達ほど仲良くはないにしろ、それよりは深い関係と言えなくもない。
「強いて言うなら……腐れ縁ですかね」
「…………イリナ相手にそんなこと言う奴はお前が初めてだよ」
グレンはまた新たな小間使いを呼び出し飲み物を受け取ると、そのグラスをゆっくりと回した。カランッと氷が一つ、グラスと他の氷の隙間に落ちていく。
「しょうがねーな。俺からいいやつ紹介してやるから、そいつを部隊に入れてやれ。俺ほどじゃないがそいつもつえーぞ」
「誰そいつ?」
「昴 」
「えーー…………グレンの次に誘おうと思ってたんだけど」
「丁度いいじゃねーか。おら、こっちで連絡してやるからさっさと会いに行け」
俺達はグレンに押されるようにして敷地から追い出された。
「グレンなんか誘わなきゃよかったー!完全に無駄足だったじゃん!」
イリナがプリプリと怒り不機嫌になる。
「いや、俺的にはそこまで無駄じゃあなかったかな」
振り返ってグレンの敷地を見つめる。
「…………なんかあったの?」
「いや、別に凄いことがあったわけじゃないんだ。ただ亜花君の能力を見れたおかげで、この世界において大切なことがなんなのかわかった気がする」
「ふーーん?…………というと?」
「常識はあってないようなもの」
「あーー言えてる。……どうしたの?」
俺がグレンの敷地を見ながら固まっているのに気がついたイリナが聞いてきた。
「…………いや、亜花君がこっちを見てきてるんだよね」
「えっ……………」
敷地のギリギリから体を隠すようにしてこっちを見てくる亜花君。たぶん体を隠しているんだよな?身体が半分まるまる見えているからなんとも………
「なんで水なのに電気が流れなかったの!?」
「……あ、それを聞きたかったの?」
頭を激しく上下に振って答える亜花君。
「不純物のない水を真水っていうんだけど、それは共有結合によって電離しないんだ。ただ真水でも電離平衡によって水酸化物イオンと水素イオンが僅かに存在していて、亜花君が放った電気の電圧なら通電する可能性があったから密度をあげることで電気の通り道を……………」
亜花君が難しい顔をしている。もっと噛み砕くか。
「電気が通るには電子が必要で、水をイオン化させれば電子が発生するんだけど、俺はイオン化させないように頑張ったんだ。これ以上話すと難しくなるからそこら辺はグレンさんに聞いてね」
「イオン化!」
「イオン化イオン化!イオン化ー!じゃあね亜花君!」
「バイバーイ!」
俺は亜花君に笑いながら手を振ってその場を後にした。彼がイオンにまで目を向けられるようになったらどうなってしまうのか………ふふふっ、楽しみだなぁ。
膝まである池を走りなんとかグレンに追いついた私はひとまず戦闘に必要そうな情報を聞いた。
「どう説明すればいいか………簡単に言うと法則をぶっ壊す能力だ」
法則をぶ、ぶっこわす!?
「あいつがこの街を凍らせ一瞬で氷を溶かしたのは水の融点と沸点を変え、さらに水の上を走ったのも水がダイラタンシーのような反応を示すように変更したからだ。イマイチピンとこないだろう?その身をもって味わってみな」
ブンッ!!!
いきなり目の前に現れた男の子の蹴りをかわし私は殴りかかる!しかしパンチが当たると同時に彼の体はねじ曲がり衝撃を散らすとまた夜の闇の中に消えていった!透明化か?光の屈折率を無理矢理変えて彼の背景が私の目に映るようにしているんだ。それに私の攻撃の衝撃を受け流したのも、自身の弾力性を変化させたからだ。この能力、自由度が高いなんてもんじゃないよ。なんでもできるじゃないか!
「姿を炙り出すには全体攻撃をするしかない!」
「いや、それはやめた方がいい」
敵が透明化しているのならば全てをまとめて破壊するのが手っ取り早いはずだ!それなのになぜグレンは躊躇っているの?
「あいつの魔力はベクトルすらも変更する。もしお前を中心にして拡散する雷を放っても、その終着点はお前になり焼かれるのはお前自身になる。余計なダメージを受けたくなかったらやめるんだな」
…………完全に八方塞がりじゃないか。
「こんな凄い魔力を持った人見たことがないよ」
「俺もだ」
一瞬で何百もの街を滅ぼす危険な魔力と相対したことはある。でも彼の魔力はそんなものよりも創造性があって自由度が高い。神様がこの世にいるとは思えないけれど、もしいたとしたらそれと同等の力だ。
「だから保護してやってたんだが、あのバカは暴れたくて暴れたくてしょうがない聞かん坊でな、今日みたいなことがたびたび起きてるんだ。ただのガキならまだしも法則を捻じ曲げる奴の遊びなんて人智を超えている」
水の粘性が変わり私達の足に絡みついてくる。さらに水は重力を無視して空高く伸び上がると、花火のように爆発して空に固定された。空中に固定された水で作られた花…………言ってて意味がわからないけれど、私達の目の前にあるのはまさしくそれなのだ。
「………なんで暴れてるの」
「俺がダイラタンシーのことを教えたら、[すごーい!]って興奮して奴なりに液体を変化させて遊んでんだよ」
言ってることは凄く子供なんだけどなぁ………スライムに興奮した子供がスライムを自作するみたいな感じで。
彼の興奮が高まっているのだろうか、この場にあるすべての水に形が与えられていく。それはまるで静止画のように……走り回る干支の獣達、墜落するヘリコプター、倒壊するビル、沈没する巨大な船と脈絡のないものが次々と空に描かれる。
パチンッ!!!!
右側から飛んできた水の塊が私の手を弾いた。時速12kmぐらいの速度で直進する水………その時点でもはや法則を無視しているのだけれども、まったく威力のないはずの水が、払おうとした私の手を弾いたのだ。
「お姉さんは僕に何を教えてくれるのかな?」
私は辺り一面を吹き飛ばす為に放電した!しかしグレンの言う通り、雷は私に跳ね返ってきてダメージを受ける!でもそんなの、関係ない!あたり一面の水が電気により分解され電子が放出されイオン化する!こうすることでこの池全体は通電するようになった!たとえベクトルを変更しようがすべての方向から来る攻撃を処理することはできない!!
「グォォォオオオォオオオアアアアアアアアア!!!!」
5匹の雷の龍を生み出し5方向から池に叩きつける!!池は水ではなく雷が溜まっているかのように、電気が暴れ狂い2分間、雷の池となって近づくもの全てを焼き切った!!
たとえ水の上を歩けようが、ベクトルを変更できようが、この全方向からの長時間攻撃は避けようがないでしょ!!
「いや、飛べばいいじゃんこんなの」
しかし男の子は空をこともなげに飛んでいた。反重力?いや、揚力をいじってるのだろうか?とにかく彼からすれば空に漂うことなど造作もないのだ。出来ないことの方が少ないから。
「でもでも、電気って凄いね!プラスとマイナスしかないのにこんなに凄い力になるんだから!えーーっと、つまり…………こう!!」
バチンッ!!
彼の両手から電気がほと走り火花をあげた。今この一瞬で、[なんとなく]で電気を生み出したってことか?彼なりの法則で。
「…………………」
「…………イリナ、勘違いすんなよ。俺達の役目はあいつが飽きるまで攻撃を喰らってやることだ。無力化できるだなんて思わない方がいい」
なんだ………なんなんだこの子は。すべての物語のラスボスだと言われても納得しちゃうようなスペックしてるんだけど。それになんでこんな危険な子と関わりがあるんだよこいつ。
「じゃあいくよ!!これが僕流の雷だ!!」
空気間で発生する静電気が極限にまで高められ放電が発生した。氷があるわけでもないただの空気でこんなことは起きないのに、彼の魔力は簡単に普通を無視していく。しかし彼が放った電気は私の足元にも及ばず食らったところで無傷だろう。グレンの言う通りに食らってあげるか………
バチィンン!!!
私の目の前で雷が弾けた。水の盾が雷を完全に遮断したのだ。
「はぁ……はぁ…………死ぬっ。」
「ミフィー君!来ちゃダメだって言ったじゃん!」
あまりにも速すぎるイリナにようやく追いついた俺は、息を切らしながらイリナの横に立った。ミフィー君か……しまらないなぁ。もっとマトモなあだ名がいいよ。狩虎ちゃんとかそこらへん。
「だって1人でいる方が怖いじゃん!襲われたらどうしようもないじゃん!弱いんだから俺!」
「子供か!グレンの敷地で悪事働くような人間なんていないんだから気にしなくていいんだよ!」
「そういう事情を知らない魔族が襲ってくるかもしれないだろう!?みんながみんな、ここがグレンの敷地だとわかっていると思うな!」
「観光スポットとして紹介されてるんだから知ってるに決まってるじゃん!」
えっ、ここ観光スポットなの!?確かに気味悪い建築物ばかりで見ていて飽きないけれど、観光するほどの場所じゃないでしょ!
「いちおう1kmおきに売店があるぞ。レストランもあるし、散策路マップも売っている。買うか?売ってる本人もドンビクぐらいたけーぞ」
「購入を勧める人が高いなんて言ったら買うわけないだろ!え?いや、それよりもショップやレストランがあるようなまともな観光地なの?それなのにあの子供が暴れ回ってるの?ヤバくない?被害大丈夫?」
「従業員は全員避難させてある。
亜花…………ああ、あの男の子の名前ね。俺はイリナの方を見た。もしかしたらグレンの敷地は今、緊急事態に陥っているのかもしれない。その確認だ。
「えーーっと、た、確か、魔族が攻めてきてるんだっけ?」
「南西から勇者領の中心地に向かって魔族が攻め込んでて、ここがその進路上にあるってわけ。魔族掃討戦はその進行してきている魔族を倒すのが目的だ。………参加するお前が知らないわけがないよなぁ?」
言っておくと俺は知らなかったよ。イリナの方を見る。
「し、知ってたよ!」
両手を腰について胸を張るイリナ。とても元気で微笑ましい姿なのだが、あまりにも絶壁なのが目に痛っ!!
「………………」
イリナの回し蹴りが後頭部に炸裂する!なんでこいつ俺の考えを読めるんだ!
「………し、知ってたからグレンを魔族掃討戦の私の部隊に入れてあげようと誘いにきたの!ここに大きな損害が出る前に私達の手で魔族を倒しちゃおうよ!」
「あーー無理無理、参加する気ねーよ」
グレンは片手を振って嘲笑った。
「俺の敷地が破壊されうるのに参加してないって時点で察してくれ。魔族と戦う気はねーんだ俺は」
テクテクテク…………
小さな鎧を着た人間がどこからともなく出てきてグレンの近くに歩いていく。なんだろう、召使いかな?とか思ったら、グレンはその人間を四つん這いにさせて背中の上に座った。召使いじゃなくて奴隷だったか…………
「このバカガキは俺クラスの人間じゃないと面倒見きれねーんだ。俺が離れている間にこいつなら勇者領を破壊しきる可能性があるから、俺は監視しなきゃいけない」
「それじゃあ彼……亜花君を掃討戦に連れて行けばいいじゃん」
「イリナ、お前バカか?」
「バカじゃないもん!」
「じゃあなんでそんなこと言えんだよ。こいつが戦場で暴れてみろ、勇者も魔族も大ダメージだ。戦いは三つ巴、もしかしたら亜花を倒すためだけに勇者と魔族が手を組んで1対2になる可能性すらある。こんな爆弾を戦わせようとすんじゃねぇ」
確かに、亜花君はイリナの雷すらも無力化できるし、なんなら全ての攻撃を相手に跳ね返すことができる。そんな人間が戦場の真ん中にいたら…………戦いどころではないな。
「でも……………」
それでもイリナは諦めない。どうにかしてグレンを自分の部隊に入れようとする。
「……お前にしちゃあ珍しいな。自分以外の戦力を取り入れて万全を期そうとするなんて。……この弱っちそうな男のせいか」
グレンの視線がようやく俺の方に向いた。この人の目は…………なんていうか怖いな。威圧感があるからとかじゃなく、見定められている感じがゾクゾクくる。
「[自分1人じゃ守りきれないかもしれないから、他の人にも守らせよう!]って感じか?…………お前、イリナのなんなんだ?」
俺はイリナのなんなんだろうね。俺もよく分からないよ。
「パートナーほど信頼はされてない。友達ほど仲良くもない。正直俺とイリナの関係性なんてよくわかりませんよ」
出会ってまだ3日目だ、これと言った人間関係は築けていないと言えるのは間違いない。ただ、俺はイリナの元相棒の記憶を持っていて、イリナと一緒に炎帝を倒す約束をしてしまった。友達ほど仲良くはないにしろ、それよりは深い関係と言えなくもない。
「強いて言うなら……腐れ縁ですかね」
「…………イリナ相手にそんなこと言う奴はお前が初めてだよ」
グレンはまた新たな小間使いを呼び出し飲み物を受け取ると、そのグラスをゆっくりと回した。カランッと氷が一つ、グラスと他の氷の隙間に落ちていく。
「しょうがねーな。俺からいいやつ紹介してやるから、そいつを部隊に入れてやれ。俺ほどじゃないがそいつもつえーぞ」
「誰そいつ?」
「
「えーー…………グレンの次に誘おうと思ってたんだけど」
「丁度いいじゃねーか。おら、こっちで連絡してやるからさっさと会いに行け」
俺達はグレンに押されるようにして敷地から追い出された。
「グレンなんか誘わなきゃよかったー!完全に無駄足だったじゃん!」
イリナがプリプリと怒り不機嫌になる。
「いや、俺的にはそこまで無駄じゃあなかったかな」
振り返ってグレンの敷地を見つめる。
「…………なんかあったの?」
「いや、別に凄いことがあったわけじゃないんだ。ただ亜花君の能力を見れたおかげで、この世界において大切なことがなんなのかわかった気がする」
「ふーーん?…………というと?」
「常識はあってないようなもの」
「あーー言えてる。……どうしたの?」
俺がグレンの敷地を見ながら固まっているのに気がついたイリナが聞いてきた。
「…………いや、亜花君がこっちを見てきてるんだよね」
「えっ……………」
敷地のギリギリから体を隠すようにしてこっちを見てくる亜花君。たぶん体を隠しているんだよな?身体が半分まるまる見えているからなんとも………
「なんで水なのに電気が流れなかったの!?」
「……あ、それを聞きたかったの?」
頭を激しく上下に振って答える亜花君。
「不純物のない水を真水っていうんだけど、それは共有結合によって電離しないんだ。ただ真水でも電離平衡によって水酸化物イオンと水素イオンが僅かに存在していて、亜花君が放った電気の電圧なら通電する可能性があったから密度をあげることで電気の通り道を……………」
亜花君が難しい顔をしている。もっと噛み砕くか。
「電気が通るには電子が必要で、水をイオン化させれば電子が発生するんだけど、俺はイオン化させないように頑張ったんだ。これ以上話すと難しくなるからそこら辺はグレンさんに聞いてね」
「イオン化!」
「イオン化イオン化!イオン化ー!じゃあね亜花君!」
「バイバーイ!」
俺は亜花君に笑いながら手を振ってその場を後にした。彼がイオンにまで目を向けられるようになったらどうなってしまうのか………ふふふっ、楽しみだなぁ。