篠原千晶(7)

文字数 836文字

 もちろん、物理的な実体が有る訳じゃない。
 霊感の無い者には見えさえしないだろう。
「オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ」
「オン・バサラ・クシャ・アランジャ・ウン・ソワカ」
 太陽の光より生まれたとされる戦いの女神・摩利支天を守護尊とする私の「気」は……オレンジ色の光線のように見えた。
 炎をまとう忿怒尊・金剛蔵王権現を守護尊とする関口の「気」は……炎のように見える。
 もっとも、関口の流派は「魔法使い」のクセに異様に合理的で、「守護尊なんて実在するかは判らない」「守護尊とは、単に『霊力』のタイプや得意な術の系統を一言で言い表す為の『記号』」って「教義」らしいが……。
 ともかく、標的(ターゲット)と似たタイプの「気配」を持ってるヤツが遠くに行ってくれたお蔭で、「誤射・誤爆」が起きる確率は大幅に減った。
 私と関口の「気弾」は狼男に命中……効いてない、一瞬だけ足止めをしたぐらいだ。
 瀾の方は……困った事に、あの「鎧」は大概の魔法を防ぐ代償に着装者の霊感がほぼ(ゼロ)になって……しまった……。
 瀾は何が起きたか把握出来てない。
 だが、瞬時に狼男の脇腹を狙った掌底撃ち。
 瀾の鎧の各部から放出される「何か」が攻撃を加速させ……。
「うがああああッ‼」
 瞬時に狼男の爪がのび……瀾の頭部を狙う。
 が……動きが一瞬止まり……瀾の掌底撃ちが命中。
 何が起きた?
 私は……狼男の「気」を「観」る。
 「観る」とは、言わばパッシブ・センシングだ。
 こちらから「気」を放ち、相手の反応を観察する。
 気配だけを検知するより得られる情報は多いが……ある程度の経験が必要な上に、相手にも「観られている」のを気付かれる可能性が……。
 狼男の体内で、何か、とんでもない事が起きている。
 死ぬまでには至らないが……立っているのが不思議な位だ……。
 ドゴオッ‼
 派手な音と共に狼男は前のめりに倒れる。
 その背中には何本もの矢。
「日本のサムライって、背中の傷は不名誉なんだっけ?」
 狼男の背後には……片手に弓を持った緋桜が居た。
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