6.帽子からハトが出ま〜〜す

文字数 4,706文字

とりあえず仲間のステータスの見方がわかった。
このステータスを表示したパネルは、指2本でタッチした状態で手を動かすと上下左右どこでも、視界の邪魔にならない所に移動できることも判明。指2本で2回タップすると消えるとのことなので、さっそくベヌーのデータを消す。脳筋ブスに興味はねえ、目(ざわ)りだ。
おれはお気に入りの眼鏡っ娘妖精アリューダちゃんのステータスを確認してみることにした。

【エルフ】アリューダ Lv.1 JOB : プリースト Lv.1
HP : 130 MP : 48 信頼度 : 4
物理攻撃力 : 6
魔法攻撃力 : 24+1
物理防御力 : 17+2
魔法防御力 : 21+1
器用さ : 8
素早さ : 3
運 : 6
【装備】
武器 : ウッドワンド
副装具 :
頭 : カチューシャ
胴 : ノービスローブ
腕 :
脚 :
足 : 皮ブーツ
【スキル】(1/7)
F)ヒール Lv.1(4)
【アビリティ】(1/5)
Aレジスト Lv.1


おおっ、アリューダちゃんにはアビリティがついてるじゃないの。タップして内容を見てみると『物理ダメージを減少 8%』となっている。ま、アリューダちゃん殴ろうとするヤツがいたらソッコーおれがブチ殺してやるけどね。しかし、腕と脚に防具を着けてもらってないのが気に食わねえ。バカ女神め、けしからんな。脳筋ブスのベヌーが着けてんのを引っぺがして装備する、ってことでいいんじゃねえかな?

「ところでイスタルシア、自分のステータス見るにはどうしたらいいんだ?」

「先ほどとやり方はほぼ同じですね。まず自分自身をマーキングして。違うのは、指で2回自分の体をタップするっていうとこですね」

「なるほど、自分の場合は直接触れるわけか。了解」

よし、じゃさっそく見てみるか。そういやおれのJOBはどんなのになってんだろな。当然おれが主戦力なわけだから、強力な職業に就いてるはずだよな。バーサーカーとか? アサシンなんてのもカッコよくていいよねえ。
ちょっとドキドキしながら確認してみると。

〔LS〕【ヒューマン】梶龍彦 Lv.1 JOB : マジシャン Lv.1
HP : 119 MP : 45 信頼度 : 0
物理攻撃力 : 12
魔法攻撃力 : 7
物理防御力 : 17+4
魔法防御力 : 6
器用さ : 12
素早さ : 13
運 : 6
【装備】
武器 :
副装具 :
頭 :
胴 : ノービスプロテクター
腕 : ノービスアームガード
脚 : ノービスレギンス
足 : 皮ブーツ
【スキル】(1/7)
F)ファイアボール Lv.1(4)
【アビリティ】(1/5)
F)MP消費ダウン Lv.1

「なんじゃあこりゃああああぁぁーーーっっ!!!」

驚愕(きょうがく)のあまり絶叫しちまったよっ。

「あら、どうかしましたか?」

イスタルシアはキョトンとしている。

「あらどうかしましたかじゃねえっ、なんだこのJOBは、ああっっ!!!?
マジシャンっつったらアレだろうがっ、スカーフからウサギちゃん出したりハトちゃん出したり!! あと帽子からウサギちゃん出したりハトちゃん出したり!! 縦ジマのハンカチを一瞬で横ジマにしたりするアレだろうがあっ!!」

「違います。縦ジマのハンカチを一瞬で横ジマにするのは、マジックじゃありません。司郎先生独自のネタです」

「そこかっ!? そこじゃねえだろおぉっ! ツッこむのはその部分じゃねえだろがあああぁぁっっ!!」

このバカ女神と関わってると、ホントに脳の血管がブチ切れちまいそうだわっっ!!
なんだコレは、なんちゅう嫌がらせだ。よりによってマジシャンはねえだろおぉっ!
激昂(げっこう)するおれを見て、脳筋女ベヌーと黒髪クール剣士が女神の前に立ちはだかる。

「何か問題がありますか?」

バカ女神は本気でわからないって顔してやがる。

「問題(おお)ありだろっ。あのなあ、おれはボクサーなんだ。近接戦闘のスペシャリスト、(こぶし)系ファイターなんだよ!!」

「ストライカーはベヌーがいます」

女神め、しれっとした顔で言ってくれたよ。

「知らねえよ! だいたいなあ、お前おれのステータス確認したのか? 見てねえなら見てみろコラッ。魔法使いが、魔法攻撃力7だぞ7、たったの7! で物理攻撃力の方が12って。どうすんだこれ、ああ!!? 手に持った杖でブン殴って敵倒すのかよ!!!」

眉間(みけん)にシワを寄せたイスタルシアが、溜め息をつきながらおれのステータスを確認している。アリューダは心配そうな顔で女神とおれを交互に見つめ。チビ犬っ娘ウーフェルファは巨体のガンロウに登って遊んでいる。
不機嫌な顔のイスタルシアが大声で言った。

「龍彦、あなたはLS=ライブソウルです。わたしが不在の時は、あなたが指揮官になります。広く戦局を見つつ、皆を動かしながら戦ってもらわなければならない場合もあるのです。ですから最前線に出るJOBに就くと都合が悪いのです」

「なんだテメェ。指揮を取るのはわたしです、あんたの役目じゃありませんみてえなことをぬかしたよな!? 指揮官代理なんて話は全く聞いてねえぞっ。まあいいや、それは置いといてだ。いい機会だから、全くわかってないオメェに教えてやるよ、よく聞けっ!!」

おれはデカい声で、女神だけじゃなくBU=バトラーユニット全員に聞こえるように言ってやった。

「色んな武人が、こう言ってる。ボクシングの世界でも、世界チャンピオンを何人も育てた名トレーナーが言ってる。
『優れたファイターは360度の視界を持つ』ってな。おれは何度も、ひとりで何十人もの敵を相手にして戦った経験がある。敵が全方位から群がってくる、そんな喧嘩でも負けたことがねえんだよ。生まれつきの天才にして、何度も修羅場を潜り抜けてきた『本物』なんだ、おれはっ!!
隊列の後ろにいなくても周りの状況はちゃんと見えるんだ、自分の後方もな。一番前にいても、自分の後ろの兵隊に指示を出すことくらい簡単にできるんだよ。わかったか? わかったらさっさとJOBを変えろ、今すぐ変えやがれっっ!!!」

ところがだ。あからさまに更に不機嫌になった女神は、生意気にも首を横に振りやがった。

「あなたは間違っているわ、梶龍彦。経験がある? 違うでしょう。あなたがいた地球世界にモンスターはいましたか? いないでしょう。人間の数倍のスピードで動き、魔法をバンバン撃ってくる。武器と化した体の色んな部位を使って多彩な攻撃を仕掛けてくる。そんな敵とあなたは戦ったことがないはずです。ですから最初はマジシャンとして後ろに位置して、この世界での戦い方についてしっかり学んでください」

女神は何がなんでも引かないつもりらしい。

「おいイスタルシア、お前。ベヌーになら前衛を任せられるが、お前には任せられないと、おれにそう言ってんのか?」

「そんなことは一言も言ってないじゃありませんか。前衛のベヌーもガンロウも経験が無く未熟です。でもそれでも、わたし達は戦っていかなければなりません。彼らが力不足だからこそ、その彼らを()かす指示が、後ろのあなたから欲しいのです。どうしてわかってくれないの」

「だから、それがおかしいじゃねえか。指示は指揮官のお前が出すんだろ? お前がいる時、おれは何すりゃいいんだ。皆を応援か?」

イスタルシアは頭を振りながら大きな溜め息をつき、下を向いた。

「おい女神様。お前、日頃の神様としての仕事の中で戦うことはあるのか?」

「いいえ。わたしは大地に恵みをもたらす豊穣(ほうじょう)神です。勤めの中で戦うことはありません」

「そうかい。あんただけじゃなく、ごく一部の武神や戦神を除いたほとんどの神様は、戦いに関して素人なんじゃねえのか?」

「まあ、そうですね」

女神は正直に答えやがった。やっぱそうなのかい。これは詰み筋の王手が見えたな。

「このゲームで、死んだ戦士を記憶を残した状態で召喚して、必ずパーティーに入れることになってんのは。いくら神だからって、戦いに関して素人じゃこのゲームを進めていくのは無理だと主催者が判断してるからなんじゃねえのか? 戦いのプロがいねえと無理ゲーだと、ゲームをデザインしたヤツが判断してるからじゃねえのかよ。おれ達LSは戦闘のプロとして、パーティーの戦略戦術を組み立てる司令官か、勝ち筋を切り開く主戦力として使われる為に呼ばれてんだろうがよ。違うか?」

「それは……」

イスタルシアの表情が険しくなった。屁理屈こねてた女神が言葉に詰まってる。

「お前は司令官は自分だと言った。なら残るおれの使い道はひとつ、前衛の主戦力だ。おれが持てる力を最大限発揮できる場所は後ろじゃねえんだよ。わかるだろ? おれが必要なら、前に位置取るJOBにしてくれ」

イスタルシアは(うつむ)き、美しい顔を苦しげに(ゆが)めてしばらく考えていた。少しして意を決したように顔を上げると、おれの目をまっすぐ見ながら言った。

「龍彦、あなたの言い分もわかりますが。それでもこれからスタートなわけですから。最初はわたしの組み立てたプランでいきます。上手くいかない部分があれば、そこを修正していくことにします。これが結論です」

おいおいおい、なんなんだよコイツは。筋道通して話をしても、全く聞く耳を持たねえってのか。適材適所すら考慮されないんじゃあ、使われるこっちはもはや道具以下だ。おれはイスタルシア達に背を向けると、来た道を戻り始めた。

「おれの意見も力も必要ねえってんなら()けるわ。お前とはやってられねえ。組めねえよ」

まったくクソ女神が、冗談じゃねえ。ちいっと自分のツラがいいからってノボセ上がってんじゃねえのか。自己中過ぎてカケラも可愛げがねえ。美形なら何をしても男は許すとでも思ってんのかね。ふざけんじゃねえよ。
背後から怒気を含んだイスタルシアの声が飛んできた。

「どこへ行くつもりですかっ」

「とりあえず街に戻って戦士ギルドに行くわ。新しい飼い主を探さないといかんからな」

「そんなことができると思ってるんですか!?」

「できるかどうかじゃねえ、やるんだよ。もう決めたんだ。気に食わねえなら電撃でも魔法でも山ほど撃ってこい、おれが死ぬまでな」

あんなクソ女にコケにされながら使われるくらいなら、もういっぺん死んだ方がマシだ。
迷いなく街の方へと歩いていくおれの前に。突然、斜め後ろから走り込んできた何かが立ち(ふさ)がった。握られた両手が、抵抗する間もなく相手の豊満な胸に押し付けられる。今にも泣き出しそうな潤んだ瞳がおれを見つめていた。お気に入りの妖精ちゃん、アリューダだ。

「お願いです龍彦さん、行かないで。お別れなんて嫌です。いえ、一度でいいからわたし達が戦っているところを見てください。見ながらもう一度だけ考えて欲しいの。お願い……! それでもわたし達の元を去るとおっしゃるなら、その時は止めません。お願いします、龍彦さん……」

か、可愛い。超可愛い。
『お別れなんて嫌です』のセリフで、バカ女神全力電撃の10倍の衝撃を受けてシビレてもうた。

「うんわかった、そうする!」

おれの決断は(まばた)きするよりも早く、一瞬で下された。


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