1.ウーフェルファとの初夜〜犬耳美少女攻略クエスト
文字数 7,124文字
火の街ザウロトの夜間市場の中央、煌々 と明かりを灯した飲食店が集まる賑 やかな一角。そのうちの一軒、大きな居酒屋におれ達はいる。日付けが変わって深夜になっている。
みんなで美味いものを腹一杯食ったあと、席は酒盛りに移行していた。テーブルには小魚の唐揚げやチーズ、ジャーキーみたいなの、ナッツやドライフルーツの盛り合わせなどなど、たくさんのツマミが並んでいる。飲み物はガンロウとアリューダが甘みのある発泡酒ウェルプ、おれとベヌーは蒸留酒、メルアッタはワイン、イスタルシアもワイン中心だがチャンポンでその他も。チビ犬っ娘のウーフだけはジュースを飲んでいる。
BU達は酒を飲むのは初めてだそうだ。そのせいか、皆なんだか様子がおかしい。特に度数の高い蒸留酒をグイグイいってるベヌーは既に目つきが『トンでる人』になってる。それよりヤバいのがチャンポンで飲んでるイスタルシアだ。コイツ酒が好きなようなんだが、明らかにメチャクチャ弱い。もう何を言ってるのか全然わからなくなってる。
それでも皆で初日の狩りを振り返って、あれはヤバかっただのあの時はこうすれば良かっただのと盛り上がっている。さすがにギガス戦のことには触れないけどね。蒸留酒のボトルを追加すると、右隣りのベヌーがグラスを差し出してきた。大丈夫なのかコイツと思いながら注 いでやる。
そういえばと思い、気になっていたことを聞いた。
「ウーフお前、メルの刀を拾ってきたんだよな。てことはだよ、アレを斃 しちまったってことだよな、あのギガスを」
ギガスと聞いた途端、酔っ払っている皆の顔に緊張が走る。だがまあ、この質問なら問題ないだろ。
「そうだヨー、ウーフがヤッてやったヨー」
犬っ娘はナッツをボリボリ食いながら胸を張る。ウソだろオイ、あのオモチャみたいな弓であのバケモノを!? でも腹に刺さってたメルの刀が戻ってきてんだから、殺 ったのは間違いないんだよな。
「スゴいなお前。どうやったんだ?」
フルーツミックスジュースを一気に飲み干し、ウーフはニコニコ顔で答える。
「んーとナー、走って逃げてたんだヨー。疲れてきちゃったナ、困ったヨーと思ってたらナ、急に犬がコロンて倒れたんダ。そんで消えちゃったんダヨー」
はあ? なんだそれ。んーーと……なるほどね、そういうことか。刃物が胴体貫通してたんだ、そりゃ平気なはずがねえよな。刀が刺さったままの大ダメージがある体で、高速で逃げ回るウーフを追走し続けた。結果力尽 きて、おっ死 んだってわけだ。てかそれ、お前が斃 したんじゃなくて、8割くらいおれの手柄 じゃね?
その時斜め前のイスタルシアが大声を上げ始めた。
「そうだじょおぉ、龍彦こるあぁ。おみゃえ、敗戦とか失敗とか言ってたけろにゃあ、勝ってんらよ、ちゃんと! ギガシュ斃 してんらからなあ。クエシュトちゃんとクリアしてんらよ!! わかってんのかコラァ」
うわあ、もうコレ、めっちゃベロベロじゃん。
「おみゃえええ!! 今日、何回わらひのことクショ女神って言ったんら、おおコラアァァ! 何回バカ女神って言ったんらよこにょ野郎おおっっ。アホのクセにぃ、女神のわらひのこと『お前』って。こにょ野郎おぉ、バカってゆう方がバカなんらぞぉ、お前ってゆう方がお前なんらからにゃあああ!!!」
なんだそれ。意味がわからんぞ。
「わらひはなあぁ、じぇんじゃいしゃんはらいて、エルエシュゲットしたんら。祈 ったんらよ、一生懸命祈ったんらあ!!」
全財産はたいてLSをゲットしたんだ、そして一生懸命祈ったと言ってるらしい。何をだ?
「どうかでんしぇつの英雄級を引きましゅようにって祈ったんら。なのにぃ、それなのにいいいいぃぃっっ!! なんれおみゃえみらいなアンピョンタンのシャル野郎が出てくるんらよおおおぉぉ、れ、なんれしょのシャル野郎におみゃえ呼びゃわりさりぇて、アホとか言われるんら、もうイヤらああ、ああああああああぁぁんんんんんんっっっ」
オイオイ、なんか女神がいきなり号泣し始めちまったぞ!!?
なんか、伝説の英雄級を引きますようにって祈ったのに、なんでお前みたいなアンポンタンのサル野郎が出てくるんだって言ってるようだ。
うーむ、どうもこれは……てっきりイスタルシアはおれを選んで召喚したもんだと思ってたんだが、そうじゃないようだ。ガチャみたいなのを引いたってことか? で伝説の英雄級を当てたかったのに、ハズレのおれが出たと。で号泣してると。
…………。
ふざけんなよコラァッ、ナメてんのか!? 誰がハズレのアンポンタンのサル野郎だっっ!!
カッときて、外に引きずり出して説教してやろうとしたんだが。立ち上がろうとした時に肩を、左隣りのメルアッタにガッシリと掴 まれた。横を見ると、そのメルがおれを睨 んでいた。酔って顔が赤紫色になり、異様な目の据 わり方をしている。
「うおおおおおおおんんんんんっっっ、ひくっ、えぐあっ、ああああああぁぁんんんんんっっ」
親にひっパタかれた3歳児のような、見事な泣っぷりのイスタルシア。
メルアッタが、まるでおれを呪い殺そうとしているかのような物凄い目つきで低く唸 った。
「龍彦がマスターを泣かした。謝って、ちゃんとマスターに謝って」
まるで地獄の底から響いてくるような声だ。
「なんでおれが謝るんだ、コイツが酔って勝手に泣き出したんじゃねえかっ。おれはアンポンタンのサル野郎呼ばわりされてんだぞ、こっちが謝って欲しいくらいだっ!」
「また、またシャルがコイツって言ったああああああぁぁんんんんんっっ」
滝のように涙を流し、鼻水を垂らして号泣する女神。元が超美形だけに、その顔面崩壊には凄まじい迫力がある。
「ほらあ! やっぱり龍彦が泣かしてるっ」
メルアッタが叫ぶ。
つい今しがたまで大勢の客が談笑する声でメチャメチャ騒がしかった店内が、気づくとシンと静まり返っていた。見回すと周りの客全員が、食べる手飲む手を止め、何事かとおれ達の方を凝視 している。その静寂の中で、イスタルシアのバカみたいに大きな泣き声だけが店中に響き渡る。
えーと………と、とりあえずどっちが悪いとか言ってる場合じゃねえなコレ!! とにかく今は、なんでもいいから女神に泣きやんでもらわねえと!
「あああ、あのイスタルシア? いやイスタルシア様! とりあえず落ち着きましょう、ね? 悪かった、おれが悪かったから。アホとかバカとか言って、いや言ってないと思うんだけど、頭の中で考えてごめんなさい! ね、謝るからさ。そんなに泣いてると、せっかくの超美人が台無しだよ?」
「バカって言うからあああぁぁっ、わらひは女神にゃのにお前って言うからああああああぁぁんんんっっ」
メルアッタに、もっとちゃんと謝ってと叱 られる。いや、ちゃんと謝ってるじゃねえかよ!
「イスタルシア様っ、もうお前って言わないから! マスターって呼べばいい? マスターって呼ぶからこれから! ちゃんと、ね? それでいいよね? お前って言ってゴメンて! アホ女神って言ってごめんなさい!! な、もう泣きやも? そんなに大泣きしてると変だよ、神様なのに!」
あーもう、なんだよコレ、なんなんだ!? コイツ、酒癖が悪いにも程があるな。もう二度と飲ませねえ。おっといけねえ、こんなこと考えてると泣きやまねえか。くっそメンドくせぇ、なんでおれがこんな目に遭わなきゃいけねえんだ。こっちが泣きてえよ!!
◾️ ◾️ ◾️ ◾️ ◾️ ◾️
ガンロウが完全にツブれてるベヌーを、おれが泣き疲れて死んだようにグッタリしているイスタルシアをおぶって。午前2時過ぎ、自宅コテージに帰宅した。
パテメンの居室は2階の4つの部屋だ。ベヌーは同室のメルアッタに任せる。イスタルシアは個室なのでベッドに寝かせ、念の為疲れた顔をしているが酔いが浅いアリューダに側についてもらう。気の毒なことにガンロウには部屋がないらしく、1階のリビングのスミで寝るそうだ。イスタルシアの電撃を食らって失神したおれが、目を覚ました時に寝ていたのがガンロウのベッドらしい。
湯を浴びるために風呂場に行く。脱衣所の姿見に映った自分の姿を、初めてまじまじと見た。
白くキレイな肌の引き締まった体。悪い造りではないんだが、鍛え抜いたボクサー時代の体には遠く及ばない。以前168センチだった身長は少し高くなっているようだ。173、4センチってとこか。ホワイトシルバーの髪、女のように綺麗だが鋭い青い目、スッと通った鼻筋、少し削 げた頬 。シャープな面 構えのイケメンだ。ケンカで潰 れ傷だらけだったブサメン梶龍彦の面影 はどこにもない。
左右のコメカミには銀色に輝く金属球が埋まっている。忌々 しい『矯正 用デバイス』とかいうヤツだ。見た目はアクセ風でシャレてるが、用途はシャレにならない。思い出すとムカついてくる。
「先に入るヨーッ」
パンツを脱ぎ捨てたウーフェルファが勢いよく扉を開け、浴室に駆け込む。おれもトランクスを脱衣カゴに放り込んで続いた。
洗面器でお湯を掬 い、まずウーフにかける。首周り、脇、尻を軽く擦 り洗い。
「よし、いいぞ」
おれの合図で、ウーフはピョンと跳ねて風呂に飛び込んだ。自分の体も丁寧に濯 いで浴槽に入る。3〜4人がゆったり浸かれるくらい浴槽は大きい。
「ふうぅーーーっっ」
いいねえ、湯はいい。今日はいきなり死にかけた上に、メシの時まで大変な思いをした。芯 まで疲れている心と体が、湯の柔らかさ温かさでホワホワと解 れていく。これぞ幸せ、だ。この気持ちよさを『生き返る』って表現したヤツは天才だな。
「こっちにこいウーフ」
向かい側で膝 を抱えていたウーフェルファが、脚の間に入ってくる。短いフワッフワの白い毛で覆われた背中をピタリとおれの胸につけ、大きく息を吐いた。
瑞々 しい肌、細く引き締まった体、わずかに膨らみかけた胸。まだ『女』ではない。だがおれは、この世界で最初、この体で最初の夜を一緒に過ごす相手にこの『少女』を選んだ。
瀕死のおれを救うべくギガスの前に立ちはだかったこの娘の後ろ姿が忘れられない。尻尾は毛が逆立っていつもの3倍くらいに膨れ上がり。膝 は遠目からでもハッキリわかるほど、大きく震えていた。
本当は死ぬほど怖かったんだろう。泣き叫びたいほど怯 えていたんだろう。そう考えると胸が張り裂けそうになる。
おれの二の腕に頭を乗せ。頬 を桜色に染めてうっとりと目を閉じているウーフの横顔を見下ろしながら思う。お前はいい。可愛いヤツだ。言っとくがおれはロリコンじゃない。
このチビだけど勇敢な、そして明るくて無邪気なウーフが、出会って間もないというのにもう、おれの中でとても大切な存在になってるってことなんだ。
◾️ ◾️ ◾️ ◾️
2階のおれ用の個室の大きなベッドには、石鹸のいい香りがする清潔なシーツが敷かれていた。ベッドサイドのチェストに置かれたランプに、ロウソクくらいの小さな火が灯っている。おれ達が風呂に入ってる間にこれを用意してくれたのは間違いなくアリューダだな。そう考えたら可愛い眼鏡っ娘妖精の顔が頭に浮かんだ。いかんいかん。他の女を思い浮かべるなんて、ウーフに失礼だ。絶対ダメだぞと自分を戒 める。
オレンジ色の淡い光がわずかに室内を照らしている。薄明かりの中に、パンツ1枚のウーフの綺麗な体が浮かび上がっている。
「ウーフも今日は疲れたろ。眠いか? もう夜中だし、今日はこのまま寝ようか」
「ちょっとだけ疲れたけどナー。でも大丈夫だヨー」
犬っ娘がニャハハと笑う。BU達は全員『快感』の必要性について、マスターのイスタルシアからキッチリと教え込まれているそうだ。積極的におれとキモチイイことをするようにと指示されているらしい。
さて。ではいよいよウーフェルファちゃん攻略クエスト開始だ。右手でウーフのスベスベの頬 から首筋にかけて撫でてみる。
「ウヒヒヒィ、くすぐったいヨーッ」
犬っ娘は脚をバタバタさせながら身を捩 った。肩から胸、脇腹へと手を滑らせると。
「やめろヨーッ、くすぐるナー、アヒャヒャヒャッ」
けたたましい笑い声を上げ、けっこうな力で跳ねるようにして暴れる。ウーフはどこをどう撫でてもくすぐったいようで、広いベッドの上で息を切らしながら七転八倒した。
うーむ、ちょっとこれ、このままじゃダメだな。このクエスト、意外に難しいぞ。おれは少し考え、作戦を変更した。
「ウーフ、ちょっとうつ伏せになってみろ」
「うつ伏せ? うつ伏せってこうカー?」
ウーフはひっくり返り、生まれたての仔犬のようなフワッフワの毛が生える背中を向けた。
「そうだ。力を抜いて楽ぅにしてろ。眠くなったらそのまま寝ちまっていい」
「うん、わかっタ」
おれが生前所属していたボクシングジムには、アメリカに留学してスポーツ・ボディコンディショニングマッサージを学んできたというトレーナーがいた。おれには、かなり気が早い話だが、現役引退後はトレーナーになって自分の手で世界チャンピオンを育てたいという野望があった。なのでその人に、アメリカ仕込みのマッサージを教わっていたんだ。
まずはウーフの体と心を極限まで解 してやるところから始めよう。まず肩から背中、腰にかけてを、リンパの流れに沿って強くマッサージしていく。使うのは手の平、全体にまんべんなく力を入れるのではなく、親指の付け根部分に力を込めて強く押していく。強くゆっくりと、肩と腰の間を何度か往復する。
「これはどうだ。くすぐったいか?」
「クウウゥン、くすぐったくない、気持ちいいヨー。ヨダレが垂れちゃう」
「そうか、これはどうかな?」
今度は肩を、ツボを押すように両手で掴 んで揉み解 す。時間をかけ、強弱をつけて掴み揉みしたあと、右手の指で首筋のツボを強く押していく。本当はもう少し握力があった方がいいんだが、ツボをキチンと押さえることができていれば力が弱くても問題ない。
そうやって犬っ娘の体中を、時間をかけて揉み解 していった。
「どうだ、気持ちいいか?」
「うん、スゴく気持ちいいヨー。体がポカポカしてきたナー」
フサフサの尻尾を、ゆっくりだが嬉しげに左右に振っている。血行が、リンパの流れが良くなってるんだ。よし、第1段階はこれくらいでいいだろう。そろそろ第2段階に移行だ。
「よしウーフ、じゃ今度は上向き、仰 向けになってくれ」
「はいはーい」
おれには実は、もうひとりマッサージの師匠がいる。ソイツに色々教わったのは、ボクシングジムに入る前。ヤクザの事務所に出入りしている時だ。ソイツは立派なマッサージサロンを経営する凄腕のマッサージ師だったんだが、一方でヤクザからの仕事も喜んで受けるという、少し変わった男だった。
ヤクザから何を頼まれていたのかというと。けっこうな額の借金があるクセに踏ん切りがつかない女を、マッサージで快楽地獄に堕 としつつ洗脳し、AV出演へと導くという仕事だった。人付き合いは良くないヤツだったんだが、おれとは妙にウマが合い。仲良くなって、色々テクニックを伝授してもらったわけだ。
おれは青い果実のウーフちゃんを、エロマッサージ師から叩き込まれたテクニックで刺激していった。最初は軽く、柔らかく。そして徐々に徐々に、強く、激しく……。
20分ほど経過した。パンツを脱いで全裸になったウーフは息を荒くし、身悶えている。くすぐったがって暴れているんじゃない。トロンとした目で、甘い吐息を漏らしているんだ。
「龍彦、ウーフ変だよ、体が熱いヨー。セツナい、セツナいよ龍彦、ねえ、ねえっ」
よし、このくらいでいいだろう。第2段階終了だ。さて、じゃあいよいよ最終段階だ。
「ウーフ、四つん這いになれ。で、お尻を高く上げてこっちに向けてみろ」
後ろから細い腰を抱えて、そしてウーフとひとつになった。
◾️ ◾️◾️ ◾️ ◾️
何かに鼻先をくすぐられる。
「ハアッックショイッッ!」
自分の大きなクシャミで目が覚めた。ショボショボする目のすぐ前にあるのは……大きな犬耳。先っぽがコショコショと鼻を刺激したらしい。
「ンーーー……」
クシャミでウーフも目を覚ましちまった。首を捻 って窓の方を見る。カーテンの隙間から朝の光が射し込んでいる。腕の中で丸まってる小さな体はとても暖かい。
「おはようウーフ」
「ウーーン……まだ眠いヨー」
「そうか、じゃあもう少し寝てような」
小さな舌が、ペロペロとおれのアゴ先を舐めた。目覚めた時、腕の中に大切な存在がいてくれる。どんな世界においても、これ以上の宝物はないだろう。
犬耳美少女ウーフェルファ攻略クエストは無事クリア、大成功だな。
ウーフが目を閉じ、また寝息を立て始める。
柔らかい頬 を指先でそっと撫でて、おれももう一度目を閉じた。
みんなで美味いものを腹一杯食ったあと、席は酒盛りに移行していた。テーブルには小魚の唐揚げやチーズ、ジャーキーみたいなの、ナッツやドライフルーツの盛り合わせなどなど、たくさんのツマミが並んでいる。飲み物はガンロウとアリューダが甘みのある発泡酒ウェルプ、おれとベヌーは蒸留酒、メルアッタはワイン、イスタルシアもワイン中心だがチャンポンでその他も。チビ犬っ娘のウーフだけはジュースを飲んでいる。
BU達は酒を飲むのは初めてだそうだ。そのせいか、皆なんだか様子がおかしい。特に度数の高い蒸留酒をグイグイいってるベヌーは既に目つきが『トンでる人』になってる。それよりヤバいのがチャンポンで飲んでるイスタルシアだ。コイツ酒が好きなようなんだが、明らかにメチャクチャ弱い。もう何を言ってるのか全然わからなくなってる。
それでも皆で初日の狩りを振り返って、あれはヤバかっただのあの時はこうすれば良かっただのと盛り上がっている。さすがにギガス戦のことには触れないけどね。蒸留酒のボトルを追加すると、右隣りのベヌーがグラスを差し出してきた。大丈夫なのかコイツと思いながら
そういえばと思い、気になっていたことを聞いた。
「ウーフお前、メルの刀を拾ってきたんだよな。てことはだよ、アレを
ギガスと聞いた途端、酔っ払っている皆の顔に緊張が走る。だがまあ、この質問なら問題ないだろ。
「そうだヨー、ウーフがヤッてやったヨー」
犬っ娘はナッツをボリボリ食いながら胸を張る。ウソだろオイ、あのオモチャみたいな弓であのバケモノを!? でも腹に刺さってたメルの刀が戻ってきてんだから、
「スゴいなお前。どうやったんだ?」
フルーツミックスジュースを一気に飲み干し、ウーフはニコニコ顔で答える。
「んーとナー、走って逃げてたんだヨー。疲れてきちゃったナ、困ったヨーと思ってたらナ、急に犬がコロンて倒れたんダ。そんで消えちゃったんダヨー」
はあ? なんだそれ。んーーと……なるほどね、そういうことか。刃物が胴体貫通してたんだ、そりゃ平気なはずがねえよな。刀が刺さったままの大ダメージがある体で、高速で逃げ回るウーフを追走し続けた。結果力
その時斜め前のイスタルシアが大声を上げ始めた。
「そうだじょおぉ、龍彦こるあぁ。おみゃえ、敗戦とか失敗とか言ってたけろにゃあ、勝ってんらよ、ちゃんと! ギガシュ
うわあ、もうコレ、めっちゃベロベロじゃん。
「おみゃえええ!! 今日、何回わらひのことクショ女神って言ったんら、おおコラアァァ! 何回バカ女神って言ったんらよこにょ野郎おおっっ。アホのクセにぃ、女神のわらひのこと『お前』って。こにょ野郎おぉ、バカってゆう方がバカなんらぞぉ、お前ってゆう方がお前なんらからにゃあああ!!!」
なんだそれ。意味がわからんぞ。
「わらひはなあぁ、じぇんじゃいしゃんはらいて、エルエシュゲットしたんら。
全財産はたいてLSをゲットしたんだ、そして一生懸命祈ったと言ってるらしい。何をだ?
「どうかでんしぇつの英雄級を引きましゅようにって祈ったんら。なのにぃ、それなのにいいいいぃぃっっ!! なんれおみゃえみらいなアンピョンタンのシャル野郎が出てくるんらよおおおぉぉ、れ、なんれしょのシャル野郎におみゃえ呼びゃわりさりぇて、アホとか言われるんら、もうイヤらああ、ああああああああぁぁんんんんんんっっっ」
オイオイ、なんか女神がいきなり号泣し始めちまったぞ!!?
なんか、伝説の英雄級を引きますようにって祈ったのに、なんでお前みたいなアンポンタンのサル野郎が出てくるんだって言ってるようだ。
うーむ、どうもこれは……てっきりイスタルシアはおれを選んで召喚したもんだと思ってたんだが、そうじゃないようだ。ガチャみたいなのを引いたってことか? で伝説の英雄級を当てたかったのに、ハズレのおれが出たと。で号泣してると。
…………。
ふざけんなよコラァッ、ナメてんのか!? 誰がハズレのアンポンタンのサル野郎だっっ!!
カッときて、外に引きずり出して説教してやろうとしたんだが。立ち上がろうとした時に肩を、左隣りのメルアッタにガッシリと
「うおおおおおおおんんんんんっっっ、ひくっ、えぐあっ、ああああああぁぁんんんんんっっ」
親にひっパタかれた3歳児のような、見事な泣っぷりのイスタルシア。
メルアッタが、まるでおれを呪い殺そうとしているかのような物凄い目つきで低く
「龍彦がマスターを泣かした。謝って、ちゃんとマスターに謝って」
まるで地獄の底から響いてくるような声だ。
「なんでおれが謝るんだ、コイツが酔って勝手に泣き出したんじゃねえかっ。おれはアンポンタンのサル野郎呼ばわりされてんだぞ、こっちが謝って欲しいくらいだっ!」
「また、またシャルがコイツって言ったああああああぁぁんんんんんっっ」
滝のように涙を流し、鼻水を垂らして号泣する女神。元が超美形だけに、その顔面崩壊には凄まじい迫力がある。
「ほらあ! やっぱり龍彦が泣かしてるっ」
メルアッタが叫ぶ。
つい今しがたまで大勢の客が談笑する声でメチャメチャ騒がしかった店内が、気づくとシンと静まり返っていた。見回すと周りの客全員が、食べる手飲む手を止め、何事かとおれ達の方を
えーと………と、とりあえずどっちが悪いとか言ってる場合じゃねえなコレ!! とにかく今は、なんでもいいから女神に泣きやんでもらわねえと!
「あああ、あのイスタルシア? いやイスタルシア様! とりあえず落ち着きましょう、ね? 悪かった、おれが悪かったから。アホとかバカとか言って、いや言ってないと思うんだけど、頭の中で考えてごめんなさい! ね、謝るからさ。そんなに泣いてると、せっかくの超美人が台無しだよ?」
「バカって言うからあああぁぁっ、わらひは女神にゃのにお前って言うからああああああぁぁんんんっっ」
メルアッタに、もっとちゃんと謝ってと
「イスタルシア様っ、もうお前って言わないから! マスターって呼べばいい? マスターって呼ぶからこれから! ちゃんと、ね? それでいいよね? お前って言ってゴメンて! アホ女神って言ってごめんなさい!! な、もう泣きやも? そんなに大泣きしてると変だよ、神様なのに!」
あーもう、なんだよコレ、なんなんだ!? コイツ、酒癖が悪いにも程があるな。もう二度と飲ませねえ。おっといけねえ、こんなこと考えてると泣きやまねえか。くっそメンドくせぇ、なんでおれがこんな目に遭わなきゃいけねえんだ。こっちが泣きてえよ!!
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ガンロウが完全にツブれてるベヌーを、おれが泣き疲れて死んだようにグッタリしているイスタルシアをおぶって。午前2時過ぎ、自宅コテージに帰宅した。
パテメンの居室は2階の4つの部屋だ。ベヌーは同室のメルアッタに任せる。イスタルシアは個室なのでベッドに寝かせ、念の為疲れた顔をしているが酔いが浅いアリューダに側についてもらう。気の毒なことにガンロウには部屋がないらしく、1階のリビングのスミで寝るそうだ。イスタルシアの電撃を食らって失神したおれが、目を覚ました時に寝ていたのがガンロウのベッドらしい。
湯を浴びるために風呂場に行く。脱衣所の姿見に映った自分の姿を、初めてまじまじと見た。
白くキレイな肌の引き締まった体。悪い造りではないんだが、鍛え抜いたボクサー時代の体には遠く及ばない。以前168センチだった身長は少し高くなっているようだ。173、4センチってとこか。ホワイトシルバーの髪、女のように綺麗だが鋭い青い目、スッと通った鼻筋、少し
左右のコメカミには銀色に輝く金属球が埋まっている。
「先に入るヨーッ」
パンツを脱ぎ捨てたウーフェルファが勢いよく扉を開け、浴室に駆け込む。おれもトランクスを脱衣カゴに放り込んで続いた。
洗面器でお湯を
「よし、いいぞ」
おれの合図で、ウーフはピョンと跳ねて風呂に飛び込んだ。自分の体も丁寧に
「ふうぅーーーっっ」
いいねえ、湯はいい。今日はいきなり死にかけた上に、メシの時まで大変な思いをした。
「こっちにこいウーフ」
向かい側で
瀕死のおれを救うべくギガスの前に立ちはだかったこの娘の後ろ姿が忘れられない。尻尾は毛が逆立っていつもの3倍くらいに膨れ上がり。
本当は死ぬほど怖かったんだろう。泣き叫びたいほど
おれの二の腕に頭を乗せ。
このチビだけど勇敢な、そして明るくて無邪気なウーフが、出会って間もないというのにもう、おれの中でとても大切な存在になってるってことなんだ。
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2階のおれ用の個室の大きなベッドには、石鹸のいい香りがする清潔なシーツが敷かれていた。ベッドサイドのチェストに置かれたランプに、ロウソクくらいの小さな火が灯っている。おれ達が風呂に入ってる間にこれを用意してくれたのは間違いなくアリューダだな。そう考えたら可愛い眼鏡っ娘妖精の顔が頭に浮かんだ。いかんいかん。他の女を思い浮かべるなんて、ウーフに失礼だ。絶対ダメだぞと自分を
オレンジ色の淡い光がわずかに室内を照らしている。薄明かりの中に、パンツ1枚のウーフの綺麗な体が浮かび上がっている。
「ウーフも今日は疲れたろ。眠いか? もう夜中だし、今日はこのまま寝ようか」
「ちょっとだけ疲れたけどナー。でも大丈夫だヨー」
犬っ娘がニャハハと笑う。BU達は全員『快感』の必要性について、マスターのイスタルシアからキッチリと教え込まれているそうだ。積極的におれとキモチイイことをするようにと指示されているらしい。
さて。ではいよいよウーフェルファちゃん攻略クエスト開始だ。右手でウーフのスベスベの
「ウヒヒヒィ、くすぐったいヨーッ」
犬っ娘は脚をバタバタさせながら身を
「やめろヨーッ、くすぐるナー、アヒャヒャヒャッ」
けたたましい笑い声を上げ、けっこうな力で跳ねるようにして暴れる。ウーフはどこをどう撫でてもくすぐったいようで、広いベッドの上で息を切らしながら七転八倒した。
うーむ、ちょっとこれ、このままじゃダメだな。このクエスト、意外に難しいぞ。おれは少し考え、作戦を変更した。
「ウーフ、ちょっとうつ伏せになってみろ」
「うつ伏せ? うつ伏せってこうカー?」
ウーフはひっくり返り、生まれたての仔犬のようなフワッフワの毛が生える背中を向けた。
「そうだ。力を抜いて楽ぅにしてろ。眠くなったらそのまま寝ちまっていい」
「うん、わかっタ」
おれが生前所属していたボクシングジムには、アメリカに留学してスポーツ・ボディコンディショニングマッサージを学んできたというトレーナーがいた。おれには、かなり気が早い話だが、現役引退後はトレーナーになって自分の手で世界チャンピオンを育てたいという野望があった。なのでその人に、アメリカ仕込みのマッサージを教わっていたんだ。
まずはウーフの体と心を極限まで
「これはどうだ。くすぐったいか?」
「クウウゥン、くすぐったくない、気持ちいいヨー。ヨダレが垂れちゃう」
「そうか、これはどうかな?」
今度は肩を、ツボを押すように両手で
そうやって犬っ娘の体中を、時間をかけて揉み
「どうだ、気持ちいいか?」
「うん、スゴく気持ちいいヨー。体がポカポカしてきたナー」
フサフサの尻尾を、ゆっくりだが嬉しげに左右に振っている。血行が、リンパの流れが良くなってるんだ。よし、第1段階はこれくらいでいいだろう。そろそろ第2段階に移行だ。
「よしウーフ、じゃ今度は上向き、
「はいはーい」
おれには実は、もうひとりマッサージの師匠がいる。ソイツに色々教わったのは、ボクシングジムに入る前。ヤクザの事務所に出入りしている時だ。ソイツは立派なマッサージサロンを経営する凄腕のマッサージ師だったんだが、一方でヤクザからの仕事も喜んで受けるという、少し変わった男だった。
ヤクザから何を頼まれていたのかというと。けっこうな額の借金があるクセに踏ん切りがつかない女を、マッサージで快楽地獄に
おれは青い果実のウーフちゃんを、エロマッサージ師から叩き込まれたテクニックで刺激していった。最初は軽く、柔らかく。そして徐々に徐々に、強く、激しく……。
20分ほど経過した。パンツを脱いで全裸になったウーフは息を荒くし、身悶えている。くすぐったがって暴れているんじゃない。トロンとした目で、甘い吐息を漏らしているんだ。
「龍彦、ウーフ変だよ、体が熱いヨー。セツナい、セツナいよ龍彦、ねえ、ねえっ」
よし、このくらいでいいだろう。第2段階終了だ。さて、じゃあいよいよ最終段階だ。
「ウーフ、四つん這いになれ。で、お尻を高く上げてこっちに向けてみろ」
後ろから細い腰を抱えて、そしてウーフとひとつになった。
◾️ ◾️◾️ ◾️ ◾️
何かに鼻先をくすぐられる。
「ハアッックショイッッ!」
自分の大きなクシャミで目が覚めた。ショボショボする目のすぐ前にあるのは……大きな犬耳。先っぽがコショコショと鼻を刺激したらしい。
「ンーーー……」
クシャミでウーフも目を覚ましちまった。首を
「おはようウーフ」
「ウーーン……まだ眠いヨー」
「そうか、じゃあもう少し寝てような」
小さな舌が、ペロペロとおれのアゴ先を舐めた。目覚めた時、腕の中に大切な存在がいてくれる。どんな世界においても、これ以上の宝物はないだろう。
犬耳美少女ウーフェルファ攻略クエストは無事クリア、大成功だな。
ウーフが目を閉じ、また寝息を立て始める。
柔らかい