10.大事なのはカ・イ・カ・ン♡
文字数 6,659文字
案内のアリューダを先頭にして街中を進む。ウーフと、紙袋を抱え中身の肉まんを手に取って頬張 りながら走るメルアッタもついてきている。もうすっかり夜だが、たくさんの街灯に照らされて道はどこも明るい。歩いている人も車道を行き交 う荷車も、まだまだ数が多い。
4回ほど角を曲がり、人通りが少ない倉庫街のような場所に来た。行く手から聞き覚えのある怒声が響いてくる。
「あそこです!」
速足で進むアリューダが指差す先。倉庫の前に立つイスタルシアと、何かをメッタ蹴りにしているベヌーが目に入った。走り寄りながら目を凝 らす。灯りが届かない暗い地面に蹲 る大きな影は……ガンロウだ。女神が大声を上げている。
「もういいでしょうベヌー、やめなさい!」
「うるせぇっ! この野郎だけは許せねえ、蹴り殺してやるっ」
アリューダとメルアッタにおれに任せろと言い、激昂 するベヌーに向かって叫んだ。
「おい何をしてるベヌー、やめねえかっ!」
イスタルシアとベヌーが振り向いた。脳筋龍人ベヌーが腹を立ててるのは理解できる、無理ねえと思う。それにしてもイスタルシアのヤツ。自分の手駒を抑 えることもできないのかよ。うるせぇとか言われてるじゃねえか、情けねえなあ。
怒る脳筋女とガンロウの間に無理矢理割って入る。
「もうこの辺で勘弁してやれ。おいガンロウ、大丈夫か?」
アリューダに、蹲 っているガンロウにヒールを掛けてもらう。ベヌーは今度はこっちに絡んできた。
「なんだテメェ、パーティーを脱けるとか言ってやがったクセに、なに偉そうに割り込んできてんだ。余計なことしてんじゃねえよ!」
ちょっとカッとくるが、ここは落ち着いて話さなきゃいけねえとこだ。
「ベヌー、お前がガンロウに対して怒る気持ちはわかる。だがちょっと我慢して聞いてくれ、みんなもな。怒るべきはガンロウに対してじゃないぞ。今日のA級戦犯は、大きな判断ミスをしたイスタルシアだ」
横目で女神を見ると。顔を真っ赤にして、目を吊り上げていた。皆も驚いたような顔になっている。
「今日のボス格、バルハウンドギガス。みんなもうわかってると思うが、ありゃあまだ、今のおれ達は手を出しちゃいけねえ相手だ。その強敵にいきなり挑んじまった。ま、初戦で敵のことがわかんなかったわけだから、戦闘になったのは仕方ないとしよう。だけど相手を見た時、これは無理だと判断してすぐに撤退しなきゃいけなかった。違うか?」
皆を見回す。全員黙っている。
「ギガスとの戦闘は絶対に回避するべき。ガンロウはこの正解に気づいた。そして正解通りに行動した。それだけだ」
イスタルシアが怒りを露 わにして反論してくる。
「龍彦あなた、仲間を見捨てて敵前逃亡したことが正しいというの!? ディフェンダーである彼が真っ先に敵に背を向けたことで、それ以外のメンバーが危機的状況に陥 ったんですよ?」
「それはその通りだな。だけどな、ガンロウが逃げずにギガスの前に立ちはだかってたとしてもだ。あっという間に殺 られてたぞ、間違いなくな。今のお前らじゃ、どう頑張ったってヤツには勝てねえよ。まともに『正面衝突』の形で闘 り合ってたら全員死んでたぞ、確実にな」
肉弾戦を仕掛け、ギガスの強さを肌で知ってるベヌーが俯 く。
イスタルシアは素早く撤退を判断。ガンロウを始め全員に『斃 せ』ではなく、『なんとかギガスの攻撃をいなしながら街まで逃げるぞ』と指示しなきゃいけなかった。早い段階で的確にそう指示していれば、ガンロウも逃げ出すことはなかっただろう、そう解説した。
少しの間唇を噛んでおれを睨 みつけていたイスタルシアが口を開いた。
「お前達じゃ勝てないって、人ごとみたいになんですか。あなたもパーティーの一員なのよ!? 戦闘の要 になるべきLSのあなたが、離れた所でボンヤリと見物なんかしてたからこういうことになったのでしょう!」
「おれはボンヤリ見てなんかいなかったろう、ちゃんと助けに入ったぞ。皆を退避させる為に、ちゃんと体を張ってギガスを足止めした。おかげで死にかけたけどな。何もしなかったみたいな言い方をするなよ」
まったく、なんだこの女は……反省するってことを知らねえのか、頭くんな。頭くるけど、コイツを叩き潰しちゃいけない。おれはこのパーティーに残ると決めたんだ。マスターのイスタルシアを、リーダーとして機能できなくなるところまで追い込んじまっちゃいけねえんだ。おれは可能な限り明るく声を上げた。
「でもまあ、結果オーライ。全員無事だったんだから良しとしようや。今日初めて戦闘をしたにしては皆頑張った、初日にしてはスゲェいい経験ができたじゃねえか。敗戦からは、勝ち戦の何倍も得ることがあるんだ。今日、たった半日で、おれ達は多くのことを学んで強くなったと思うぜ? 失敗もあったけど、それを教訓にして次また頑張りゃいいんだ。てなわけで、打ち上げだ、メシだメシ。豪勢にいっていいんだよな、なあイスタルシア!」
「そうですね。お昼に約束しましたから。美味しいものをたくさん食べましょう」
女神が呟 く。全然納得してないって顔だ。
「やったーっメシだメシ! ウーフは腹ペコだヨーッ、ワオオォオーーンッッ」
叫んだウーフェルファが、立ち上がっているガンロウに駆け寄るとピョピョンと巨体に駆け上 り、肩車の形になった。
「ウーフは今日スッゲェ頑張ったからナー、腹ペコなんだヨー。いっぱいいっぱい走ったから、もうヘトヘトなんだヨー。だから代わりにお前が歩けこのヘタレハゲッッ! ゴーゴーゴー、早くメシ屋に連れてけヨーーーッ」
ウーフはハシャギながら、ガンロウのハゲ頭を太鼓のようにバチンバチン叩いている。おー、いいねえウーフちゃん、そう、そういうキャラ大事よ! 暗い顔をしていたパテメン達が、それを見て笑顔になってる。
おれ達は肩を落としているイスタルシアを先頭に歩き出した。さすがの傲慢女神も、かなりコタエているようだ。イカンなこれは、と思う。この雰囲気を打ち上げに持ち込んではダメだ。
おれは後ろを歩くメルアッタのそばに行き、紙袋に手を突っ込んで肉まんを2個取り出した。ひとつを口に咥 えると、足を早めてイスタルシアの横に並ぶ。横目で見ると、女神の表情は歪んでいる。情けないと自分を責めている、そんな苦しげな顔だ。おれは咥えた肉まんを一口大きく齧 り取ると、お前も腹に入れたらどうだともうひとつを女神に差し出した。
「わたしはいりません」
その声は悲しげで、少し震えていた。
倉庫街を出て商店が並ぶ通りに出ている。石畳の広い歩道を、戦士ギルドの方へ歩いていく。
「イスタルシア。話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
女神は俯 いたまま呟 いた。
「まだ文句を言い足りないんですか」
消え入りそうな声だ。
「違うな。おれの方も反省しなきゃいけないことがある。お前に謝まらなきゃいけない」
女神は少し驚いたような顔でおれを見た。
「あなたが謝る? 何をですか」
「昼間にモメたおれのJOBの件、そしてパーティーを脱けると言っちまった件だ。今日、みんなの戦い方をジックリと見せてもらった、でわかったんだ。お前が考えた、おれをマジシャンにして中盤に据えるという戦略、ありゃ正解だよ。他のメンバーのポジションや力を考えたら、ベストの選択と言っていい。検証なしでお前の考えを否定したのは悪かったよ」
イスタルシアは再び前を見たまま黙って歩き続ける。
「パーティーを脱けると言ったけどな、あれも撤回だ。JOBはマジシャンで、みんなと一緒に頑張るよ。お前が心を込めて作ったんだろ、みんないい子だ。仲間にするならこういうヤツらがいい。さっきは偉そうに説教したが、今日はおれも間違えた。すまなかったな」
女神に向けてそう言いながら、おれはメチャクチャ驚いていた。おれが言ってることはおかしくない。筋が通っているし、女神にキチンとこれを伝え謝っておくというのは正解だろう。
しかしだ、おれは、『狂獣』梶龍彦は、人に謝るってことが何より嫌いだったはずなんだ。人に謝るくらいなら死んだ方がマシ、いやそうじゃねえ、謝罪しなきゃいけねえ相手をブッ殺して謝る必要を無くしてしまえばいい、そういう人間だった。で実際にそういう生き方をしてきた。ま、人殺しはしてねえけどな。それが……何の迷いもなく、当然やらなきゃいけないこととして素直に謝れちまっただなんて。いったいこりゃどうなってんだ、おれに何が起こったんだ!!?
気づくとまた、自分の言ったことに混乱しているおれの方を、女神が見ていた。
「だからわたしは、ちゃんと考えてるんですって言ったでしょ? まあ、わかればいいんです、わかれば。ごめんなさいって言うなら許してあげます」
今まで泣きそうな顔をしてたのに、もう笑顔になってやがる。この女神、チョロイわー。
◾️ ◾️ ◾️ ◾️ ◾️ ◾️ ◾️
トイレから戻ると、既にテーブルに山のように料理が並んでいた。イスタルシアとアリューダがみんなの分、料理を小皿に取り分けている。
ここは夜間市場のそば、歓楽街にも近い24時間営業のレストランだ。もうけっこう遅い時間だけど、店内は混み合ってて賑 やかだ。広い一階フロアのほぼ中央、10人掛けの大きなテーブルにおれ達は陣取っている。
いただきますも言わずに、ベヌーとウーフが手づかみで肉を食い始めた。2人はアリューダにお行儀が悪いですよとたしなめられてる。
「みんなはトイレ行かなくていいわけ?」
おしぼりで手を拭きながらのおれの何気 ない一言で、衝撃的な事実が明らかになった。イスタルシアが言ったんだ。
「BU=バトラーユニットというのは、『排泄 』に当たることを一切しないんです。ですからトイレに行く必要はありません。そうですね他には、例えば女の子達には排卵がありません。つまりBUは子供が産めないんです」
なんだそれ! つまりBUには、ダイレクトアタックでも大丈夫、妊娠しないってことか!
ここに来るまでにしっかりフォローを入れたのが効いたようで、女神はすっかり機嫌が良くなっている。
「けどイスタルシア、おれ今トイレで排泄してきたんだけど?」
「龍彦は別です。LSは、何十年も生きていた魂を召喚したものですから。その魂に、体というものは様々な排泄をするものだということが刻み込まれています。新しく与える肉体には、その点も再現しておいてあげないと。魂が『あ、これ違うぞ』って拒絶反応を起こしてしまって、定着してくれないんです」
そうなのか、残念だな。おれもメンドくさいからウンコとか出なくていいんだけどね。
アリューダが取り分けてくれたレバニラ炒めみたいなのを一口食ってみる。んー……美味い! とにかく食材の味が濃くてしっかりしてる。この世界の食い物はとても美味い。
「じゃBUは汗かかないの?」
女神は首を横に振った。
「汗は少ないけどかきます。食べ物を食べれば唾 液も出ます。それは『排泄』じゃなくて『分泌 』ですからね」
「でもさあ、BU見てるとけっこう物食ってるけど、カスとか出さなくていいわけ?」
アリューダが取り分けてくれたサラダの小皿を受け取りながら女神に尋ねてみる。
「大丈夫です、食べた物は残さず全てエネルギーになります。カスは出ません。ちなみに、BUの体はかなりの部分が生体に近い組織でできているんです。その組織を維持するための食物摂取は必要なの。ただし普通の生体組織と違う非常に特殊な素材なので、エネルギー効率がとても良いんです。だからホントは食べる量はちょっとでいいの」
テーブルの上には色んな肉料理、蒸したデッカい魚、エビやカニなどの海の幸、シチュー、野菜煮込みなどなど、食い物がこれでもかってくらい山盛りになってるんだけど。また女神に尋ねてみる。
「ホントはちょっとでいいなら、なんで高い物をこんなにたくさん食わすんだ?」
疑問に思うだろ普通。
イスタルシアはさすがに育ちがいいようで、BU達の雑な食い方とは全然違う。キレイにナイフとフォークを使って、細かく切った肉や魚を上品に口に運んでいる。ナプキンで口元を拭 うと。
「それはもちろん、快楽を与えるためです」
女神様、すました顔でスゴいこと言いましたよ。これ多分、非常に大事な話だよね? おれは超マヂモードで尋ねてみる。
「快楽っておっしゃいましたけど。どういうことでしょう、解説のイスタルシアさん」
「はい。もうお気づきの方も多いと思いますが、LS=ライブソウルとBU=バトラーユニットのステータスに『信頼度』というのがあります。LSの信頼度というのは、パーティーのマスター、つまり神に対してのものです。でBUの信頼度は、マスターとLSに対するものとなっています。
BUの信頼度が高くなると、マスターやLSの言うことをよく聞くようになります。また『絆 』という隠しパラメータがあってですね。信頼度が高いと、メンバー間の連携が良くなるんです。『絆』が強くなることでパーティー全体の動きが良くなる、強いチームになるということなんですね。
更にメンバー全員の信頼度が100に到達すると、そのパーティー固有の必殺技が使えるようになります。この必殺技のことを『ソウルドライブ・バースト』と言うんです」
なるほどねえ、信頼度が上がるとパーティー固有の必殺技発動ですか。ワクワクしますねえ! やっぱりバトゲーは、そういうのがなくちゃ盛り上がりませんよねえ。今は全員その信頼度ってのが低いから、戦闘の時の連携がガタガタなワケですね? でアホのベヌーが、ちゃんと言うこと聞かない、と。
「それでイスタルシアさん、その信頼度と快楽の関係というのは?」
ここだよ、大事なポイントね。しっかり確認しとかないとな。
「はい、要はですね、信頼度を上げるには快感・快楽を与えてあげるのが有効ということなんです。快感には難しいクエストをやり遂げたり、スゴく強い敵を斃 したり、レアなアイテムを入手したりという達成感も含まれます。けども手取り早く信頼度を上げようと思うなら、もっと直接的な快感、例えばとても美味しい物をたくさん食べさせ飲ませてあげる、それを繰り返してあげるという方法が、非常に有効なんです。これがホントは少ししか食べなくていいBU達に高い物をたくさん食べさせている理由です」
奇跡のような美形の女神の口から『快感』なんて言葉を聞くと、なんか興奮しちゃうんですけど!
イスタルシアが、ワインを一口飲んでおれを見つめる。
「龍彦、今言ったことはとても大事なことです。強大な力を持つ先行プレイヤー達に対抗するためには『ソウルドライブ・バースト』を一日も早く獲得することが絶対に必要です。わたしがゲームにインしていない時も、常にこのことを肝に命じて。BU達の信頼度が早く上がるように、全員を扱ってあげてください」
ほほう。それはつまりナニか?
「おれはBU達をキモチヨクしちゃっていいってことか?」
女神は語気を強めて言い切った。
「しちゃっていい、ではありませんよ龍彦。キモチヨクしてあげないとダメだ、と言っているんです。既に先行プレイヤー達にスゴい差をつけられている、出遅れているわたし達が少しでも早く強くなるために。BU達にたくさん快感を与えて、早く信頼度を上げてもらわないと困る、と言っているんです」
はいはいはい、キマシタよこれ! いいのか、そんなこと言っちゃって。おれ女の子キモチヨクするのメッチャ得意だから、張り切っちゃうよモノスゴく!!
大事なのはカ・イ・カ・ンか。
デカい、扱い方がわからないのが1匹いるけど。女子はタイプの違う極上美女が4人だ。
うん、これはアレだ。
めちゃめちゃ楽しみな展開になってきやがった、てことだな!!
【序章 チュートリアル (終)】
4回ほど角を曲がり、人通りが少ない倉庫街のような場所に来た。行く手から聞き覚えのある怒声が響いてくる。
「あそこです!」
速足で進むアリューダが指差す先。倉庫の前に立つイスタルシアと、何かをメッタ蹴りにしているベヌーが目に入った。走り寄りながら目を
「もういいでしょうベヌー、やめなさい!」
「うるせぇっ! この野郎だけは許せねえ、蹴り殺してやるっ」
アリューダとメルアッタにおれに任せろと言い、
「おい何をしてるベヌー、やめねえかっ!」
イスタルシアとベヌーが振り向いた。脳筋龍人ベヌーが腹を立ててるのは理解できる、無理ねえと思う。それにしてもイスタルシアのヤツ。自分の手駒を
怒る脳筋女とガンロウの間に無理矢理割って入る。
「もうこの辺で勘弁してやれ。おいガンロウ、大丈夫か?」
アリューダに、
「なんだテメェ、パーティーを脱けるとか言ってやがったクセに、なに偉そうに割り込んできてんだ。余計なことしてんじゃねえよ!」
ちょっとカッとくるが、ここは落ち着いて話さなきゃいけねえとこだ。
「ベヌー、お前がガンロウに対して怒る気持ちはわかる。だがちょっと我慢して聞いてくれ、みんなもな。怒るべきはガンロウに対してじゃないぞ。今日のA級戦犯は、大きな判断ミスをしたイスタルシアだ」
横目で女神を見ると。顔を真っ赤にして、目を吊り上げていた。皆も驚いたような顔になっている。
「今日のボス格、バルハウンドギガス。みんなもうわかってると思うが、ありゃあまだ、今のおれ達は手を出しちゃいけねえ相手だ。その強敵にいきなり挑んじまった。ま、初戦で敵のことがわかんなかったわけだから、戦闘になったのは仕方ないとしよう。だけど相手を見た時、これは無理だと判断してすぐに撤退しなきゃいけなかった。違うか?」
皆を見回す。全員黙っている。
「ギガスとの戦闘は絶対に回避するべき。ガンロウはこの正解に気づいた。そして正解通りに行動した。それだけだ」
イスタルシアが怒りを
「龍彦あなた、仲間を見捨てて敵前逃亡したことが正しいというの!? ディフェンダーである彼が真っ先に敵に背を向けたことで、それ以外のメンバーが危機的状況に
「それはその通りだな。だけどな、ガンロウが逃げずにギガスの前に立ちはだかってたとしてもだ。あっという間に
肉弾戦を仕掛け、ギガスの強さを肌で知ってるベヌーが
イスタルシアは素早く撤退を判断。ガンロウを始め全員に『
少しの間唇を噛んでおれを
「お前達じゃ勝てないって、人ごとみたいになんですか。あなたもパーティーの一員なのよ!? 戦闘の
「おれはボンヤリ見てなんかいなかったろう、ちゃんと助けに入ったぞ。皆を退避させる為に、ちゃんと体を張ってギガスを足止めした。おかげで死にかけたけどな。何もしなかったみたいな言い方をするなよ」
まったく、なんだこの女は……反省するってことを知らねえのか、頭くんな。頭くるけど、コイツを叩き潰しちゃいけない。おれはこのパーティーに残ると決めたんだ。マスターのイスタルシアを、リーダーとして機能できなくなるところまで追い込んじまっちゃいけねえんだ。おれは可能な限り明るく声を上げた。
「でもまあ、結果オーライ。全員無事だったんだから良しとしようや。今日初めて戦闘をしたにしては皆頑張った、初日にしてはスゲェいい経験ができたじゃねえか。敗戦からは、勝ち戦の何倍も得ることがあるんだ。今日、たった半日で、おれ達は多くのことを学んで強くなったと思うぜ? 失敗もあったけど、それを教訓にして次また頑張りゃいいんだ。てなわけで、打ち上げだ、メシだメシ。豪勢にいっていいんだよな、なあイスタルシア!」
「そうですね。お昼に約束しましたから。美味しいものをたくさん食べましょう」
女神が
「やったーっメシだメシ! ウーフは腹ペコだヨーッ、ワオオォオーーンッッ」
叫んだウーフェルファが、立ち上がっているガンロウに駆け寄るとピョピョンと巨体に駆け
「ウーフは今日スッゲェ頑張ったからナー、腹ペコなんだヨー。いっぱいいっぱい走ったから、もうヘトヘトなんだヨー。だから代わりにお前が歩けこのヘタレハゲッッ! ゴーゴーゴー、早くメシ屋に連れてけヨーーーッ」
ウーフはハシャギながら、ガンロウのハゲ頭を太鼓のようにバチンバチン叩いている。おー、いいねえウーフちゃん、そう、そういうキャラ大事よ! 暗い顔をしていたパテメン達が、それを見て笑顔になってる。
おれ達は肩を落としているイスタルシアを先頭に歩き出した。さすがの傲慢女神も、かなりコタエているようだ。イカンなこれは、と思う。この雰囲気を打ち上げに持ち込んではダメだ。
おれは後ろを歩くメルアッタのそばに行き、紙袋に手を突っ込んで肉まんを2個取り出した。ひとつを口に
「わたしはいりません」
その声は悲しげで、少し震えていた。
倉庫街を出て商店が並ぶ通りに出ている。石畳の広い歩道を、戦士ギルドの方へ歩いていく。
「イスタルシア。話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
女神は
「まだ文句を言い足りないんですか」
消え入りそうな声だ。
「違うな。おれの方も反省しなきゃいけないことがある。お前に謝まらなきゃいけない」
女神は少し驚いたような顔でおれを見た。
「あなたが謝る? 何をですか」
「昼間にモメたおれのJOBの件、そしてパーティーを脱けると言っちまった件だ。今日、みんなの戦い方をジックリと見せてもらった、でわかったんだ。お前が考えた、おれをマジシャンにして中盤に据えるという戦略、ありゃ正解だよ。他のメンバーのポジションや力を考えたら、ベストの選択と言っていい。検証なしでお前の考えを否定したのは悪かったよ」
イスタルシアは再び前を見たまま黙って歩き続ける。
「パーティーを脱けると言ったけどな、あれも撤回だ。JOBはマジシャンで、みんなと一緒に頑張るよ。お前が心を込めて作ったんだろ、みんないい子だ。仲間にするならこういうヤツらがいい。さっきは偉そうに説教したが、今日はおれも間違えた。すまなかったな」
女神に向けてそう言いながら、おれはメチャクチャ驚いていた。おれが言ってることはおかしくない。筋が通っているし、女神にキチンとこれを伝え謝っておくというのは正解だろう。
しかしだ、おれは、『狂獣』梶龍彦は、人に謝るってことが何より嫌いだったはずなんだ。人に謝るくらいなら死んだ方がマシ、いやそうじゃねえ、謝罪しなきゃいけねえ相手をブッ殺して謝る必要を無くしてしまえばいい、そういう人間だった。で実際にそういう生き方をしてきた。ま、人殺しはしてねえけどな。それが……何の迷いもなく、当然やらなきゃいけないこととして素直に謝れちまっただなんて。いったいこりゃどうなってんだ、おれに何が起こったんだ!!?
気づくとまた、自分の言ったことに混乱しているおれの方を、女神が見ていた。
「だからわたしは、ちゃんと考えてるんですって言ったでしょ? まあ、わかればいいんです、わかれば。ごめんなさいって言うなら許してあげます」
今まで泣きそうな顔をしてたのに、もう笑顔になってやがる。この女神、チョロイわー。
◾️ ◾️ ◾️ ◾️ ◾️ ◾️ ◾️
トイレから戻ると、既にテーブルに山のように料理が並んでいた。イスタルシアとアリューダがみんなの分、料理を小皿に取り分けている。
ここは夜間市場のそば、歓楽街にも近い24時間営業のレストランだ。もうけっこう遅い時間だけど、店内は混み合ってて
いただきますも言わずに、ベヌーとウーフが手づかみで肉を食い始めた。2人はアリューダにお行儀が悪いですよとたしなめられてる。
「みんなはトイレ行かなくていいわけ?」
おしぼりで手を拭きながらのおれの
「BU=バトラーユニットというのは、『
なんだそれ! つまりBUには、ダイレクトアタックでも大丈夫、妊娠しないってことか!
ここに来るまでにしっかりフォローを入れたのが効いたようで、女神はすっかり機嫌が良くなっている。
「けどイスタルシア、おれ今トイレで排泄してきたんだけど?」
「龍彦は別です。LSは、何十年も生きていた魂を召喚したものですから。その魂に、体というものは様々な排泄をするものだということが刻み込まれています。新しく与える肉体には、その点も再現しておいてあげないと。魂が『あ、これ違うぞ』って拒絶反応を起こしてしまって、定着してくれないんです」
そうなのか、残念だな。おれもメンドくさいからウンコとか出なくていいんだけどね。
アリューダが取り分けてくれたレバニラ炒めみたいなのを一口食ってみる。んー……美味い! とにかく食材の味が濃くてしっかりしてる。この世界の食い物はとても美味い。
「じゃBUは汗かかないの?」
女神は首を横に振った。
「汗は少ないけどかきます。食べ物を食べれば
「でもさあ、BU見てるとけっこう物食ってるけど、カスとか出さなくていいわけ?」
アリューダが取り分けてくれたサラダの小皿を受け取りながら女神に尋ねてみる。
「大丈夫です、食べた物は残さず全てエネルギーになります。カスは出ません。ちなみに、BUの体はかなりの部分が生体に近い組織でできているんです。その組織を維持するための食物摂取は必要なの。ただし普通の生体組織と違う非常に特殊な素材なので、エネルギー効率がとても良いんです。だからホントは食べる量はちょっとでいいの」
テーブルの上には色んな肉料理、蒸したデッカい魚、エビやカニなどの海の幸、シチュー、野菜煮込みなどなど、食い物がこれでもかってくらい山盛りになってるんだけど。また女神に尋ねてみる。
「ホントはちょっとでいいなら、なんで高い物をこんなにたくさん食わすんだ?」
疑問に思うだろ普通。
イスタルシアはさすがに育ちがいいようで、BU達の雑な食い方とは全然違う。キレイにナイフとフォークを使って、細かく切った肉や魚を上品に口に運んでいる。ナプキンで口元を
「それはもちろん、快楽を与えるためです」
女神様、すました顔でスゴいこと言いましたよ。これ多分、非常に大事な話だよね? おれは超マヂモードで尋ねてみる。
「快楽っておっしゃいましたけど。どういうことでしょう、解説のイスタルシアさん」
「はい。もうお気づきの方も多いと思いますが、LS=ライブソウルとBU=バトラーユニットのステータスに『信頼度』というのがあります。LSの信頼度というのは、パーティーのマスター、つまり神に対してのものです。でBUの信頼度は、マスターとLSに対するものとなっています。
BUの信頼度が高くなると、マスターやLSの言うことをよく聞くようになります。また『
更にメンバー全員の信頼度が100に到達すると、そのパーティー固有の必殺技が使えるようになります。この必殺技のことを『ソウルドライブ・バースト』と言うんです」
なるほどねえ、信頼度が上がるとパーティー固有の必殺技発動ですか。ワクワクしますねえ! やっぱりバトゲーは、そういうのがなくちゃ盛り上がりませんよねえ。今は全員その信頼度ってのが低いから、戦闘の時の連携がガタガタなワケですね? でアホのベヌーが、ちゃんと言うこと聞かない、と。
「それでイスタルシアさん、その信頼度と快楽の関係というのは?」
ここだよ、大事なポイントね。しっかり確認しとかないとな。
「はい、要はですね、信頼度を上げるには快感・快楽を与えてあげるのが有効ということなんです。快感には難しいクエストをやり遂げたり、スゴく強い敵を
奇跡のような美形の女神の口から『快感』なんて言葉を聞くと、なんか興奮しちゃうんですけど!
イスタルシアが、ワインを一口飲んでおれを見つめる。
「龍彦、今言ったことはとても大事なことです。強大な力を持つ先行プレイヤー達に対抗するためには『ソウルドライブ・バースト』を一日も早く獲得することが絶対に必要です。わたしがゲームにインしていない時も、常にこのことを肝に命じて。BU達の信頼度が早く上がるように、全員を扱ってあげてください」
ほほう。それはつまりナニか?
「おれはBU達をキモチヨクしちゃっていいってことか?」
女神は語気を強めて言い切った。
「しちゃっていい、ではありませんよ龍彦。キモチヨクしてあげないとダメだ、と言っているんです。既に先行プレイヤー達にスゴい差をつけられている、出遅れているわたし達が少しでも早く強くなるために。BU達にたくさん快感を与えて、早く信頼度を上げてもらわないと困る、と言っているんです」
はいはいはい、キマシタよこれ! いいのか、そんなこと言っちゃって。おれ女の子キモチヨクするのメッチャ得意だから、張り切っちゃうよモノスゴく!!
大事なのはカ・イ・カ・ンか。
デカい、扱い方がわからないのが1匹いるけど。女子はタイプの違う極上美女が4人だ。
うん、これはアレだ。
めちゃめちゃ楽しみな展開になってきやがった、てことだな!!
【序章 チュートリアル (終)】